最寄りの男爵家
登場人物
ライル:精霊使い。黒髪の華奢な男性。称号『暴発乱舞』
ユイナ:豹族の獣人。真紅の髪と瞳を持つ女性。称号『紅』
フラウ:アルマジロ系獣人。金髪に緑の瞳の女性。体の一部に鱗。称号『月ノ環』
以上3人のパーティ名:『紅月の舞』
ポルゴ:タヌキ獣人の男性。美味しい食材を求め同行する料理人
ヒルド:ユイナの同族の戦士長
バロ,カロ:元軍馬。黒い牡馬がバロ、茶色の牝馬がカロ
巨石での野宿を終え、ライル達は日が昇るか昇らないかの内に、男爵の居る街を目指して馬車で走り出した。
そうして走り続けると、バロとカロの頑張りもあり、陽が落ちる前に男爵の居る街に着くことができた。
「バロ!カロ!おつかれさま!ありがとう!」
と皆で2頭をなでながら労ると、バロとカロは上機嫌に尻尾を振って、
「「ブルルルルゥゥ」」
といななき、誇らしげに胸を張っていた。
街に入ったライル達は、男爵に明日以降のできるだけ早い時間にお会いして頂くために、とりあえずアポイントのお伺いをしておこうと、男爵の屋敷に向かった。
屋敷の前に行き、門番をしている騎士に訪問目的を告げると、騎士が伝言を持って屋敷に入っていった。そして戻って来た時には、10代後半くらいの女性が、騎士を押すように急かしながら付いて来ていた。
その姿を見たヒルドが、
「あ、あのお方が第3夫人のお嬢様です。」
と皆に聞こえるくらいの小声で教えてくれた。
駆けつける様に現れたその女性は、スラッとした体に橙色の仕立ての良いドレスを身につけており、そのドレスは上手に尻尾が出るようになっているらしく、黄色と黒の縞模様の尻尾が揺れていた。少し勝ち気な印象を受ける美しい顔の上には、黒色の中に一房黄色が流れる髪がなびいており、ケモミミが見えていた。そして、勝ち気な印象の元になっている少しつり上がった大きな目を爛々と輝かせて、
「『紅月の舞』の皆様、本日はようこそおいで下さいました! 『紅』のユイナ様、お会いできて嬉しいです! 私は当男爵家当主イエラガの娘のターミャと言います。もしよろしければ、明日と言わず是非今からお上がりください。」
と言ってきたのだった。
予想以上の歓待ぶりと展開に、驚いたユイナが、
「えっ!?その、ありがとうございます。ただ実は部落へ帰る途中に立ち寄らせて頂いただけでなく、御父上のイエルガ男爵様にご相談したいこともあるんです。今日は時間も遅いですし、ご迷惑になると思うので、後日改めてお伺いさせて頂いた方が良い気がするのですが…。」
と恐縮しながらかしこまった言葉使いで応答すると、
「あぁ、そんなお気遣いは要りませんよ。宿は決まっているのですか?」
とターミャが一歩前にずずいっと出て、にこやかに話しかけてきた。
ユイナが思わず若干体を引き気味に
「いや、まだだにゃ...」
と応えると、
「それなら、是非当家にご逗留下さい! そうすれば馬車を預けたり宿を探す必要もありませんし、明日以降にまたご連絡してお越し頂くという手間も省くことができます! そして、父の予定の空いた時間を利用してご相談する時間を設けるなど調整もしやすくなります! それに、この街に縁の深い英雄のユイナ様ご一行をこのまま帰したとあっては、その方が問題ですし、気兼ねされる必要はありませんので。......何より、私がユイナ様とお話がしたいのです!!どうか、お願いします!!」
とターミャに熱量と勢いを持って頭を下げられ、断る理由のないユイナ達は押し切られるような形で、屋敷に泊まらせて貰うことになったのだった。
屋敷に入ると、ターミャの指示のもと、執事やメイドの方がテキパキと客室を用意し案内してくれた。
運ばれるように部屋に入り、旅装や装備を外し、用意してくれた衣服に着替えて、お湯で手足を拭くと、強行軍だった疲れが取れていった。
そうして、
「ふぁ~癒される~」
と一息ついていると、イエラガ男爵の仕事が終わったので、おもてなしの食事を用意するので一緒に食べませんかというお誘いを受けた。
宴には男爵の他に、屋敷に居た第1から第3までの各夫人と、後継ぎである第1夫人の長男、第2夫人の10代前半と思われる次男と長女、そしてターミャが相席することになった。
食事はさすが男爵家だけあって、美味しい料理が並び、ポルゴも興味をそそられて挨拶に出てきた料理人に色々と質問するほどであった。
宴では、討魔勲章を受けた戦いや冒険についての話を望まれたので、話せる範囲で面白い話を交えつつ語って聞かせ、大いに盛り上がった。特に年若い第2夫人の次男と長女は目をキラキラさせて聞き入っていた。
そしてある程度話に満足してもらったあと、ユイナ達は情報収集も兼ねてこの街周辺の最近の流行や変化、噂を聞いてみたが、部落に関することは特に聞いてないようだった。
食事が終わり解散する流れになった時、ターミャが
「お父様、ユイナ様達がご相談したいことがあるようなのですが、今よろしいですか?」
と話を振ってくれた。
イエラガ男爵は非常に機嫌が良くなっていたので、
「ふむ。ユイナ殿達が疲れていないのであれば、こちらは構わないぞ。」
と直ぐに聞いてくれることになった。そうして、
「お前達はもう遅い時間だから、部屋でお休みなさい。」
と幼い第2夫人の子供達を除いて部屋を移動し、聞いてくれる体勢を整えてくれた。
そこで、ユイナ達が事前に話し合った通り、まずヒルドが現状の部落の状態とイタチ族の話をした。そして、男爵家に危険が及ばないように近づかないように伝えたあと、
「馬車で部落に乗り入れるための偽装として、男爵家の家紋に似たものを私たち3人の誰かの騎士爵位の家紋として使わせて頂けないでしょうか。家紋を見て男爵家の馬車と思えばさすがにイタチ族も攻撃はしてこないと思うのです。そして、似たものであれば、後で何か問題が起こったとしても、あれは私達が勝手にやったことと言えるので、偽装に加担したとイエラガ男爵が責められる事も回避できると思うのです。いかがでしょうか。」
と偽装の許可をお願いした。
それを聞いて、イエラガ男爵と男爵の長男が目配せをして頷き合い、
「うむ。当家に問題が生じないように考えた上でのご提案、感謝する。そういった事であれば構わない。逆に現状では大々的に支援できなくてすまない。」
と言ってくれた。
「ありがとうございます。」
そう言って、ライル達は許可に感謝し、話し合いを終えようとした。
するとターミャが、
「ちょっと待って下さい。なぜ援軍を出さないのですか?」
と父である男爵に詰め寄った。男爵は、
「ターミャ……私もそうしたいのだが、領地を攻められたり、領民が被害に遭っているのであれば軍も出せるが、今の周りに伝わっていない状況で軍を動かせば、逆に侵略に捉えられかねないのだよ。」
と困った表情で答えたが、
「それであれば、この前同様に視察団という形でユイナ様の部落に向かえば、偽装ではなく堂々と、騎士を何人か伴って行けると思うのですが。」
とターミャが引かずに提案していた。
その成り行きを見ていたユイナが、
「ターミャ様、それでは視察団として行かれる方の命を危険にさらすことになるにゃ。」
と言葉をはさみ、ライルとフラウも
「私達はパーティーのユイナのためなら決死の覚悟を持てますが、男爵の配下の方にそこまでの事をして頂く訳には……返せる物も無いですし。」
「今日歓待して頂き、許可を頂けただけで十分感謝しています。ターミャ様、お気持ちありがとうございます。」
と既に満足していることを伝えた。
ターミャは唇をかみしめ、しばらくうつむいていたが、顔を上げると、
「なら、私が付いて行く!」
と言ったのだった。
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