デントナのギルドと来訪者の波紋
「ユイナ!待っていたぞ!!」
そう言って向かってきた者は、20代前半くらいの猫科の獣人の男であった。
それを見たユイナが、
「あっ、あいつは私の部族の者だにゃ。何しに来たんだにゃ?」
と怪訝な顔をしていた。
男はユイナの近くまで来ると、
「ユイナ、部族が困ったことになったんだ。直ぐに来てくれ!」
と言って、ユイナの腕を取って連れて行こうとした。
ユイナは踏ん張って、
「まぁ待つにゃ。何があったか知らないけど、落ち着くにゃ。それにまずは、ギルドへの報告と納品が先にゃ。」
と言って、手を振りほどき、アスラによろしくにゃ~と手続きをお願いした。
アスラはユイナの相手への態度と周囲の状況を確認した後、
「では、納品される品が高価ですので、個室をご用意しますね。…では貴方は処理が終わるまでお待ちください」
とライル達と獣人の男にそれぞれ言って、カウンターを出て2階に案内をはじめた。
アスラの後ろに、ユイナ、ライル、フラウ、ポルゴが続き、
「この方はポルゴと言って、料理人で馬車をお持ちなので、今後ポーターのような形で一緒に行動することになったんですよ。」
とアスラにポルゴを紹介しながら、階段を上ろうとすると、獣人の男がアスラに向かって、
「おい、娘。納品とかそんな事にわざわざ場所移動する必要があるのか?他の者はカウンターでさっさと終わらせているだろう?」
と威圧しながら、突っかかってきた。
「ユイナさん達『紅月の舞』に納めて頂く素材は、非常に貴重で高価なものなので、丁重に扱う必要があります。なのでオープンな所ではなく個室での対応となります。」
アスラが全く動じずに返答すると、獣人の男はチッと舌打ちをしてから、
「じゃあ、早くしろ。」
と言って、当然のように付いて来ようとした。
これにはアスラもあきれ気味に、
「先ほども申した通り、非常に貴重なものの取引となりますので、部外者は来ないで下さい。」
と注意を行った。
「部外者って...俺はユイナの同族の戦士長だぞ。どうせ貴重な素材とやらもユイナ一人の実力で取ってきたんだろ。こんなやつらより、俺の方がよっぽどユイナに近いだろ!ダラダラと時間かけられたら困るんだよ。...おい、お前、どうせユイナに頼り切った取り巻きなんだろ!?」
獣人の男がイライラした感じでそう言って、ライルに掴みかかろうとしてきた。
皆が一瞬唖然としたが、迫る男に対し、
ライルの斜め後ろにいたフラウが、片手でライルの体を自分の横に引き寄せながら、逆の手で盾を構えた。
同時に、カチンときたユイナが、男とライルの間に踏み込みながら拳を握りしめ、
「いい加減に...」
と言いかけたら、獣人の男の全面に前触れもなく大量の水が出現し、一気に男を包み込むと、ヴオォォ!っともの凄い勢いで男をかき回した!
(その瞬間ライルの傍で、ミリ達の「ざけんな!」という声が微かに漏れ聞こえ、ライルが「ちょっ、もう充分、抑えて!」と少し焦った声でささやいていた。そして、ユイナとフラウはサムズアップをし、ライルの服の隙間から顔を出した何かに気付いたらしいアスラもちょっと目を見開いたあと、サムズアップをしていた。)
竜巻のような荒ぶる水が消えた後(激しい水音とライル達の姿に隠れ、ミリ達に気付いた者は、間近にいたアスラ以外にはいなかった。)床の上にはべちゃべちゃに濡れて白目をむいた男が倒れていたのだった。
ひとまず気絶した男を叩き起こし、問題ないことを確認したあと、ライルが申し訳なさそうに、
「すいません、わざとじゃなくて、自動防御といいますか、時々勝手に…」
と話しかけた。
「ライルが謝る必要ないにゃ。ライルとフラウは対等でかけがえのない仲間だというのに、馬鹿な態度を取ったコイツが悪いんだにゃ~。それに『暴発乱舞』のライルに敵対行動を取った割には被害が少ないにゃ。」
「ホントですね。水だけでしたし、直ぐに消えましたし。」
「そうにゃ。制御できなかったりタイミングが悪いと(昨日ならエンヤじゃなくてエンカになるし)爆炎が追加されてたかもしれないにゃ。」
それを聞いて、獣人の男はさすがに引きつっていた。
「そんな、人を危険人物みたいに……あの、滅多にそんな事ないんですよ~…」
ライルは弁明しようとしたが、ユイナが
「2度とふざけた真似はしないように。」
と言うと、男は
「時間が…いや、すまなかった。」
と深く頭を下げたのだった。
男には、一部始終を見ていたアスラや周囲の者の証言と、大事にしたくないライルの意向により、ギルド内で騒ぎを起こした罰として、濡れた床の掃除が命じられた。なお、清掃作業は強面のギルド職員がしっかり監視していた。
「じゃあ、大人しく待ってろにゃ〜。」
そう言い残してユイナ達が2階に上がっていくと、残された1階のフロアでは、
「おいっ何だあれ!魔道具とは思えないし、呪文唱えてなかったし!」
「そうだよな、あんな複雑で殺傷力のないの、わざわざ魔道具にしないだろうし…」
「暴発って唱えた魔法だけじゃなくって、咄嗟に起こるのか?やばくない?」
「あの女騎士も普段ぽわぽわしてるのに、流れるような動きだったぞ。」
「あの獣人、明らかに強そうなのに…。」
「ユイナは普段の身のこなしや王城での噂で分かってたけど、その仲間もやっぱ強えのか。」
「見た目で判断したらいけねぇんだな。気をつけよ。」
とざわざわしていた。
2階の個室に入ると、アスラが
「ふぅ~。……何か見えたような気がしますが、聞かないことにしますね。」
と言ってきた。
「良いのですか?」
「はい。なんとなく分かりましたし、ここ最近の躍進の理由として納得しました。邪悪なものじゃないですよね?」
「えぇ。どちらかと言えば守護的な。」
「なら良いです。明確に聞いてなければ問われても知らないで押し通せますし。知ってる人も少ないのでしょう?」
「そうですね。ここにいる人以外では、国王、宰相、宮廷魔導士、魔術師団の総帥と団長など10名程度ですね。」
「あ~団長、会いましたね……。そこに名を連ねるのは怖すぎます。……で、何で私の頭の上に乗っているのでしょう?」
「気に入られたんだにゃ。」
「うらやましいも。あっしは触らして貰えないんだも。」
「…あっ別のが膝の上に、……そんなつぶらな瞳で見つめられても聞かないですよ?」
「「「あたいらは水神りゅ…」」」
「ああー!聞こえなーい!」
「お前らその人が困っているから。」
見かねたエンヤが姿を見せ、ミリ達を捕まえようとすると、
「あっ、爆炎ってそういう……ひゃあ、ちょっ、服の中に潜り込むのはやめてぇー!」
「待て!」
エンヤから逃れるため、小さくなってアスラの服の中を動きまわるミリ達。
「あっ、そこは、あん、また、んんっ、あぁぁっ!」
「ちょ、卑怯な!」
結局、エンヤが所々で赤面して止まるので、埒が明かないとみたシズクが出てきて、ユイナとフラウとシズクが協力して、むにっと捕まえたのだった。
「ふぇぇ~。アスラさん大丈夫ですか?」
短い時間でヨレヨレになったアスラに、フラウがアスラの身なりを整えながら問いかけると、
「ふぅ……ひどい目に合いました。……はい、ありがとうございます。」
と何とか再起動を果たしていた。
ミリ達はエンヤとユイナに首根っこを捕まれてテヘペロしていたが、ライルに
「怪我無く他にばれずに助けてくれたのは良かったけど、調子に乗り過ぎ!アスラさんにしっかり謝らないと晩飯抜き!」
と言われて、床に接するように深々とアスラに謝っていた。
「あっ、はい。謝罪は受け取りました。頭を上げて下さい。でも凄い。ホントに意思疎通ができて仲間なんですね。助けてくれたし、強そうですし、それに可愛くてお茶目ですし。」
「うんうん」「お前も見所あるぞ」「ほら、見て見て聞いて〜!」
「お主ら、そこまでにしとけよ。」
またにじり寄りそうなミリ達を、シズクがため息をつきながら抑えたのを見て、アスラはシズクにありがとうと感謝を伝えつつ、
「服の中に入らないなら、触れてくれて良いですよ。…聞かないですけど。リル姉は知らないんですか?」
とミリ達が寄るのを許可して、なでなでしたり触れ合いながら話を続けた。
「知らないですねー。」
「そうですか、王都ギルドでは1番信頼できると思いますので、あちらで困ったら頼ると良いと思います。あれで結構お茶目なところもあるんですよ〜。そういえば、先程抑えてくれた方は雰囲気似てて親近感が湧きますね!(あ、貧乏クジを引きやすく、苦労性っぽいからだ。黙っとこ)」
「ぬはは、我は頼りがいがあるからな。汝も困ったら頼ると良いぞ!」
高笑いをするシズクを、何となく察した周りが生温かい目で見ていた。
「はい、ありがとうございます。その時は是非。では、買い取り始めましょうか。」
そうして、北の山や王都での晩餐会の話、リルネットの話などで盛り上がりつつ、取引を終えたのだった。
階下に降りると、先程の獣人が直立不動で階段の傍で待っていた。ユイナ達が近づくと、
「先程は失礼した。事情があって焦りすぎてしまった。私はユイナ殿と同じ部族のヒルドという。少しお時間を頂き、私の話を聞いて頂けないだろうか。」
と頭を下げながらお願いしてきた。
「ライル、フラウ、ポルゴ良い? OK、じゃあ…あの隅の席で良いかにゃ?」
ギルドに併設された食堂の隅に移動するライル達。4人がけのテーブルが並んでいる形だったので、ポルゴは、
「じゃあ、あっしは人払いも兼ねて、この隣の席で食事してるも。」
と言って、1人隣の席に陣取り
「おねーさーん、ここのお勧めのメニューは何だも?…じゃあ、それとこれとこれをお願いするも!」
と凄い勢いで食事をはじめ、
「ふむふむ、これは。なるほどだも〜。隠し味は…」
と興味を満たしつつ、他の人が近づき聞き耳を立てるのを防いでいた。
「で、話って何だにゃ?」
ユイナが促すと、ヒルドが改まって話し始めた。
「実は、族長が隣のイタチ族に倒された。」
「え!親父が!?えぇ!?…親父は、部落はどうなってるにゃ!?」
「俺が出てきた時は、族長殿は息はあるがかなり危険な状態だった…部落はユイナの兄のユイト殿がまとめあげて守りを固め、何とか防いでいる状態であった。しかし何時まで保つかどうか…。」
「ちょっと待つにゃ。イタチ族って小狡くて罠とかに長けるけど、親父が簡単に罠にかかるとは思えないし、束になっても親父に敵わないはずにゃ。…しかもうちらの部族が攻められて窮地に陥るなんて信じられないにゃ。」
「そう、私もそう思っていたのだが……奴らは見慣れない術を使ってきたのだ!それでどうも力が出せず……くっ!」
惨状を思い出したのか、顔を歪めるヒルド。
「そこでユイト殿が「私の力では危機を乗り越えられぬ」と仰られ、最近噂で名を挙げたと聞いたユイナに助力を求めるよう、何とか包囲網に穴を開け、俺を遣わしたのだ…!」
「兄貴がなりふり構わずそこまでするってことは………。ごめん、ライル、フラウ、ポルゴ…私はここで抜けて部落に…」
信じられないような深刻な話に、ユイナが顔を伏せて絞り出すように声を出すと、
「もちろん一緒に行くよ!」
「『紅月の舞』出発ですね!」
「馬車は任せるも!」
と3人が答えたのだった。
それを聞いたユイナが悲壮な顔で、
「駄目にゃ!これは、私の部族の話で、危険すぎるにゃ!」
と3人を思い留ませようとしたが、
「だからこそ。ユイナの危機なら当然行くよ!僕もヤバイ時背負って助けて貰ったし。」
「そうですよ、私も兄を助けて貰いましたよ。」
「豹族の部落に行ける機会は逃せないも!馬車で部落まで入って行ける?なら、物資も合わせて持っていくも〜」
と3人に重ねて言われ、
「……うにゃ〜。ありがとうにゃ……」
とユイナは3人を見て泣き崩れたのだった。
そんなユイナの頭や肩をポンポンしながら(精霊達も気付かれないようにユイナにポンポン、グリグリしてた)、
「仲間だから当然だよ。」
「さあ、行きましょう。」
「準備するも〜」
と声をかけると、
「みんな最高だにゃ!」
とユイナは泣き笑いの顔を上げ、
「じゃあ、行くにゃ!よろしくにゃ!」
「「「おー!」」」
と声高らかに、気合いを入れたのだった。
お読み頂きありがとうございます。




