王都への馬車旅2
(はぁ〜。やっぱりにゃ…)
ユイナは、諦めの境地で、アリゲーターに向けて走っていた。
少し前、街を出たライル達の乗合馬車が、川沿いの街道を進みながら、林の近くに差し掛かると、斜め前方の林の中から、ゴブリンの集団が現れた。
「ギャギャ!ギィギャァ〜!」
その姿を見た護衛6人のリーダーが、
「馬車止まれ!ゴブリン、およそ10匹!魔道具撃った後、魔術師と弓士以外の4名で突撃!」
と指示を出して、戦闘を開始した。
緊急停止した馬車から様子を窺ったライル達は、ゴブリンとの戦闘が問題なさそうなのを確認すると(乗客なので下手に手を出さない方が良いよね。と考えて)、一応手薄になった側方と後方の警戒をしておくことにした。
すると、右斜め後ろの川の方からバシャッと何かが這い出してくるのが見えた。それは、先日倒したのよりは二回りほど小さい、普通サイズのアリゲーターだった。そのアリゲーターはキョロキョロと何かを探すように周りを見たあと、こちらの馬車を見つけると、狙いを定めるような体勢をとった。
ライル達は(ミリ、ミル、ミレ〜!何かしてないか〜!?)と思いながらも、緊急事態のため、
「アリゲーター!」
と、乗合馬車から飛び出しつつ、近くにいた護衛の魔術師に敵の出現を知らせた。
するとその魔術師はアリゲーターの姿を確認すると、(鱗の硬さと突破力,攻撃力から低ランクでは対応が難しく、護衛全員で囲って倒すような強敵が、前衛がゴブリンに向かっている状況で、背後から隙を突くように現れたことを認識して)
「あっ...」
と言ったまま、顔面蒼白になって固まっていた。(これは手伝わないと無理かも。)とライル達は判断し、
「アリゲーターは私達に任せるにゃ。ライルは念のため馬車の前で魔法で牽制しながら防御。フラウ、行くにゃ!」
「「おおっ!」」
と、掛け声をかけて、アリゲーターに対するのだった。
こちらが駆け出すより早く、アリゲーターが巨体とは思えないスピードで一気に突撃してきた。
ライルはまず相手の勢いを殺そうと、ススッと近づいて来ていたミリ(なぜか川の方から!)を呼び込むと、魔力を練り上げることをせずに発射速度を重視して、即座に
『アクアストリーム!』
と唱えた。すると、ライルから放たれた直径2m程の水の奔流(魔力はライルが主、制御はミリ任せ)が、アリゲーターを押し止め、突進の勢いをかなり抑えることができた。
アリゲーターが水圧に耐え、ようやく前に目を向けると、ユイナが真紅の髪をなびかせて目前に迫っていた。
アリゲーターが慌ててユイナに噛みつこうとしたが、ユイナは噛みつかれる寸前にサッと斜め前方に避けながら、口の上顎と下顎の境目を内側からザクッと切り裂いた。
口が裂ける痛みに、思わず歯を食いしばって顔を反対側に引いたアリゲーターの口を、ユイナの後ろから続いて現れたフラウが、口が開かないように横からロックして抱え込んだ。そして、そのままフラウが地面を力強く踏み込み、前転しながら身体をひねると、アリゲーターの体が片足が浮くように傾いた。
この隙を逃さず、ユイナが双剣を使って前脚の付け根に剣を突き入れ、柔らかい裏面からアリゲーターの首を切り裂くと、あっさりとアリゲーターは地に伏したのだった。
ゴブリンの討伐が問題なさそうなのを確認した後、アリゲーターの方にライルが向かうと、
「「あぁー!、私たちの見せ場がなかった!」」
とミルとミレが悔しがり、
「ふふん♪」
とミリが得意気だった。そんなミリに
「ところでミリ、川の方から来たけどどういうことかな?」
とライルがニッコリと『目が笑ってない』笑顔で尋ねると、
「いや、それは...…美味しそうなエサに化けて川を泳いでただけでね...…ほら、陸まで追いかけてきたのも、その後馬車を襲ってきたのもコイツの勝手だから...…えーと、この前の巨大なの倒せるならこれぐらいのは余裕だろうし...ね、ね!?」
としどろもどろになって答えていた。
「私たちが大丈夫でも、他の乗客とかに被害がでたらどうするにゃ?」
「護衛の人たちもこちらが気になって、しくじるかもしれないですし。」
とユイナとフラウも圧をかけるように尋ねると、
「「「うっ...」」」
と3姉妹もまずいと感じてきようなので、
「「「他の人に迷惑がかかるようなことはしない!!」」」
「「「はいっ!」」」
としっかり言い聞かせるライル達であった。
もともと自分勝手な精霊たちだし、3姉妹が反省しているようなので、これで良しとしたライル達であるが、自分たちへの迷惑については何も言わず、問題にしていない(諦めている?)ところが、ライル達らしかった。
その後、ゴブリンの討伐が完了したようなので、ライル達がアリゲーターの解体を始めると、目をキラキラさせたアヴィとポルゴが乗合馬車から出てきた。
「これがアリゲーター!?こんな恐ろしい魔物があっさりと!みんな凄い!」
駆け寄ってきたアヴィに、解体場所に近づき過ぎないように注意しながら、解体した素材を見せると、おっかなびっくり触ったりして、はしゃいでいた。その様子を温かく見守りながら、近づいてきたポルゴに
「これも追加で調理できる?できればアヴィちゃん一家にも食べさせてあげて欲しいんだけど。」
とアリゲーターの肉を渡すと、
「これ貰っても良いも!?こんな貴重なお肉を新鮮な状態で貰えるなんて、ありがたいも!もちろんしっかり料理をして、皆に食べてもらうも!」
と上機嫌で肉を受け取っていた。
そうやって盛り上がっていると、護衛隊の面々がやってきて、リーダーが、
「ご助力、ありがとうございました。おかげで被害を出さずにすみました。」
とお礼を言ってきた。
「いえいえ、お気になさらず。アリゲーターの素材も手に入りましたし。(どちらかと言えば3姉妹のせいだし…)」
「そうだ、ポルゴさん、お肉を好きなだけあげるって言ったら、護衛の方達の分も作れるかにゃ?」
「本当に好きなだけ良いのかも?もちろん大丈夫だも!じゃあ張り切って下処理するも〜!」
「とのことなので、もし良かったら、街についた後で、私達と一緒にアリゲーターのお肉食べませんか?」
「え、助けて頂いた上に、そこまでして頂く訳には…」
「大量に取れますので、自分達だけでは食べ切れないですし、腐らしてしまうぐらいなら食べてもらった方が良いので…、高くも売れませんし。」
「本当ですか?それでしたら是非、はい、ありがとうございます。あ、解体手伝います!」
こうして解体を手早く行い親睦を深めたあと出発すると、乗合馬車は何事もなく順調に進み、夕刻前に無事に街に辿り着いたのだった。
そして、街内のテントを張れる広場で、ポルゴにより1時間ほど煮込まれたアリゲーターの煮込み料理が、今か今かと待っていた、ライル達、アヴィ一家、護衛隊のメンバーに振る舞われた。すると、
「「「「「「おいしい!」」」」」」
「凄い柔らかくなってる!口に入れると、ホロホロとほどけていく!」
「うまいにゃ!」
ガツガツガツガツッ!
と、皆が絶賛し、ユイナや護衛隊のメンバーは凄い勢いで食べていた。
作った料理が好評な様子に、ポルゴは鼻をぷくっと膨らませて、
「うんうん。今回は大成功だも!おかわりも沢山あるから、じゃんじゃん食べても!」
と嬉しそうに皆に勧めながら、自分も食べ進めていた。
皆が食べ進め、楽しく盛り上がっている頃、ちょっとその場を抜けてテントに入ったライル、ユイナ、フラウは、お肉の入ったお皿を持って、ミリ、ミル、ミレの3姉妹に対して、もう一度念押しするように問いかけていた。
「反省してる?」
(((コクコクコク!)))速攻うなづく3姉妹。
「お手!」
(((さっ!)))
「おすわり!」
(((しゅたっ!)))
「待て!」
(((じ〜〜〜〜)))
「……はいどうぞ。」
多少聞き分けが良くなって?お肉を分けて貰った3姉妹は、「「「うまっ!」」」とご機嫌で食べるのだった。
そして、それを見て、(これで少しは自分勝手でなくなると良いんだけどなぁ…)と淡い期待をするライル達であった。
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