兄妹と街への帰還
アリゲーターを討伐し、フラウの盾の回収と解体が終わった後、助けた子供たちに話を聞くと、2人は兄妹で、兄はマルク、妹はマーサという名前だった。
「良く頑張ったにゃ。でもどうして子供だけでこんな所まで来てるにゃ?もしアリゲーターが居なかったとしても、魔物はいるし危ないにゃ。」
「……お祝いに…」
「ん?」
「今度、ここまで育ててくれたお姉ちゃんがお嫁に行くから、自分たちで何かお祝いをしたくて。でも、お金がないから…。釣りならお祝いになるような大きな魚が手に入るかもと思ったんだ…。」
「なるほど。お祝いをしたいという気持ちは立派だけど。でもそれで2人に何かあったら、お姉さんが悲しむし、取り返しがつかないにゃ。」
「うん…。考えが甘かったし、妹まで危険な目に…。助けてくれてありがとうございました。」
「ごめんなさい。ありがとうございました。」
「うんうん。反省してるなら、次からは危険性やどんな影響が出るかを考えてから、動けるようになれば良いにゃ。」
「うんそうだね。そうなれば、お姉さんも安心してお嫁に行けるだろうしね。で、どこから来たのかな?」
「デントナの街から。」
「じゃあ僕たちと同じだね。僕たちもデントナに帰るところだから、一緒に帰ろうか。門番さんやお姉さんには怒られるかもしれないけど。」
「はい…。」
ライルが帰ろうと促し始めると、子供たちに気付かれないように巧みに動いて河原の方に行っていた水の精霊の3姉妹が、一番近くに居たフラウに何かを伝えた。それを聞いたフラウが河原の方に移動して、
「あ、ちょっと待ってください。プレゼントになるものが、見つかりそうなので。」
と兄妹を手招きした。
皆でフラウの方に向かうと、フラウが河原にある胸下ぐらいの高さの岩に手を置きながら、
「ほら、この岩の下に少し緑っぽい石があるの見えますか?これ多分、翡翠だと思うんですよ。ちょっと皆でこの岩をどけて確かめてみませんか?」
と言って、岩を押しだした。
それを見たライルとユイナが、兄妹を促し、力を出しやすいように場所を調整して、せーのっと掛け声をかけて5人で押すと、岩は少しずつ移動し、最後はごろりと転がった。
「ふぇ~。どうですか?」
フラウが兄妹に確認するように言うと、兄のマルクが岩の下にあった子供の拳くらいの大きさの石を拾って上にかざした。それは深緑色に輝く見事な翡翠だった。
「「すごい…!」」
兄妹は口を開け、目を丸くして、放心していた。
「これは綺麗だにゃ~。」
「ふふっ、これでお祝いの品になりますね。」
「えっこれ、貰っても良いのですか?」
「拾ったのはあなたなので、良いですよね?ライル?ユイナ?」
「いいよ。」「いいにゃ。」
「でも見つけたのは貴女なのに…。」
「見つけたのは偶然と言うか…2人の祝福したいという想いを感じとった水神竜のお導きだと思うので、気にせず貰って下さい。」
そう言って、フラウは兄妹の頭をなで、街に戻るように優しく2人の肩を押すと、兄妹から見えない位置にいる3姉妹に向かって、にっこり笑いながら親指をぐっと立てた。ライルとユイナも同じようにサムズアップをし、3姉妹はハイタッチして気分よく笑っていた。
夕刻となり薄暗くなってきた頃にデントナの街に着くと、門の所には、衛兵のセトさんと美しい妙齢の女性が焦った様子で周りを窺っていた。そしてこちらに気付くと、
「マルク!マーサ!」
と女性が叫んで駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!!」
子供たちも姉に向かって駆けていき、合流すると抱き着いていた。そして緊張がゆるんだのと安堵から妹のマーサは号泣し、マルクも泣いていた。
「どこに行ってたの?何があったの?」
「…お姉ちゃんにお祝いのお魚を手に入れようと思って、川に…。そしたら、魔物がいて、この人たちに助けて貰ったんだ。」
それを聞いた女性が、
「すみません、私はこの2人の姉のマシェリと言います。この度は2人を助けて頂き、ありがとうございました。」
とライル達の方に向けて頭を下げて礼を言った後、2人に向き直り、
「このお馬鹿!どれだけ心配したと思って!色々な人に迷惑もかけて!」
そう言うと、お姉さんは2人をパンッパンッと平手打ちしたあと、また抱きしめて、
「無事で良かった」
と泣いていた。衛兵のセトさんも寄ってきて、
「は~、本当に無事で良かった。君たちが保護して連れてきてくれたのか、助かった。感謝してもしきれない。ありがとう。」
と頭を下げて礼を言った。
その後ひとまず門の中に入ると、セトさんはそこにいる衛兵に、森等へ捜索に行った衛兵の仲間を引きあげるように伝えた後、マルクとマーサの兄妹に説教をしていた。
「じゃあ、僕たちはこれで。」
とライル達が去ろうとすると、
「あ、待ってください。魔物に襲われて危ないところを助けて頂いたみたいで。このお礼をさせて頂きたいのですが、どこに伺えば良いでしょうか?」
とマシェリさんが呼び止めてきた。
「こちらは川で討伐依頼をこなしただけだから、助けたのは偶然にゃ。気にしなくて良いにゃ。」
とユイナが答えていると、セトさんも説教を中断してこちらに来て、
「連れてきてくれただけでなく、魔物から守ってくれたのか。俺からも改めてお礼をさせて頂きたい。というのも実は、俺とマシェリは今度結婚することになっててな。俺にとっても義弟と義妹の恩人になるんだ。」
と言ってきた。
「え、マシェリさんの結婚相手ってセトさんだったにゃ!?」
「ホントですか!? おめでとうございます!」
「おめでとうございます。ユイナさんとライルさんは知り合いだったんですか?」
「うん。初心者の時に色々親切にしてもらったにゃ。しかしこんな美人をつかまえるなんて、やるにゃ!おめでとうにゃ!」
「うん。ありがとう。それでお礼…ん?川で討伐依頼?って、もしかしてアリゲーターか?」
「うん。それです。」
「それは、本当に危機的状況だったんじゃ…。助けてくれてありがとう。しかも、街の問題も解決してもらってたのか。街の衛兵としても礼を言わせてくれ。…しかし、Cランクになって戻ってきたってのは本当だったんだな。『紅月の舞』だっけ。この前までヒョウ~とか言ってた新人が、凄いな。」
「ぐぬぬ!セトさん、まだ覚えていたのかにゃ?」
「??、ヒョウ〜て、何ですか?」
「それは、豹族なのに語尾がにゃ…」
「んん~っ!強制的に忘れさせた方が良いのかにゃ!?」
「ごめんごめん、つい(笑)。で本当にお礼をさせて頂きたいんだけど、宿が決まってないなら、宿代なしで話つけるから、俺の親戚の店の『白い狐亭』で待っててくれないかな。」
「あ~助かります。お礼はそれで十分ですよ。」
「あそこは雰囲気も良くて、ご飯も美味しかったから、嬉しいにゃ。」
「じゃあ、ギルドに報告してから『白い狐亭』に行きますね。では、また。」
こうして、ライル達は冒険者ギルドに報告に向かった。
ギルドに着くと、アスラに
「討伐依頼完了したにゃ〜」
と、アリゲーターの牙と鱗状の皮を提出した。
アスラは満面の笑みで、
「さすが『紅月の舞』ですね!C級アリゲーターの討伐依頼の完遂、ありがとうございます!」
と周りに聞こえるような、大きい声で応じた。
(アスラさん、声ちょっと大きいです。)
(それが、いきなりC級になったのに懐疑的な人もいるようなので、折角なんで宣伝した方が良いかと思いまして。)
(なるほど。)
と小さい声でやり取りした後、
「では、アリゲーターの牙が2金貨、鱗の皮が状態が良いので7金貨、依頼達成が5金貨で、合わせて14金貨となります。」
「はい、ありがとうございます。」
「こちらこそ、討伐依頼を引き受けて頂き、ありがとうございました。またよろしくお願いします。」
「うん。またにゃ〜。」
と笑顔で手を振って、ギルドをあとにした。
『白い狐亭』に着いてドアをくぐると、カウンターには、女将さんのセシルさんの他に、セトさん、マシェリさん、マルク、マーサが揃って待っていた。勢揃いして待ってたことに少し驚いていると、セシルさんが、
「いらっしゃい。聞いたよ〜。この子達が魔物に食べられそうになったところを助けて貰ったんだってね。本当にありがとうね。今日からずーっと宿代、食事代は無料で良いからね。」
と温かな笑顔で言ってきた。
「いえ、そこまでして貰う訳には。」
「そうにゃ、そこまでされると潰れないか心配で来にくくなるにゃ。」
「そうかい?こちらは構わないんだよ?……。そう、来てくれなくなると寂しいから…じゃあ、今日は全部無料で、明日からは食事代だけ貰おうかね。それでどうだい?」
「宿代も払いますけど…」
「それは大丈夫、無料にさせて頂戴。今話題のあなた達が泊まったって評判になったら、逆に沢山客が来そうだしね。気にすることはないんだよ。それに、私達家族にとっては本当に英雄だからね。」
「ありがとうございます。」
とりあえず条件が決まると、セシルさんは更にニコニコして、
「それで部屋は3部屋で良いかい?男女別で2部屋にする?ライルくんが1部屋が良いってんならそうするよ。」
と言ってきた。
「えっ!?」
ライルが答えられずにいると、
「3部屋はないにゃ。前も1部屋だったし、私は1部屋でも良いにゃ〜。」
「ええっ!?」
「私も既に裸見られてますし、1部屋でも良いですよ。宿代無料なんで、部屋増やすのも悪いですし。」
「えええっ!?」
と2人が悪ノリするように答えていた。
ライルは色々と考え、(じゃあ、1部屋で)と言おうとして、セトさんがニヤニヤと、マシェリ、マルク、マーサの兄妹がジーッと見てるのに気づいて、
「…男女別で2部屋でお願いします。」
と答えていた。
「ふふっ、じゃあ隣の部屋にしとくね。鍵はこちらになります。」
とライル達が鍵を受け取っていると、
「あの、すいません。この宝石なんですけど…助けて頂いた上に、こちらまで頂く訳にはいきません。」
とマシェリさんが翡翠を取り出して渡そうとしてきた。
「それはマルクくんとマーサちゃんが拾った物なので、僕たちの物じゃないですし、2人の気持ちとして受け取って下さい。2人とも頑張っていましたよ。」
「でも…」
「それに、セトさんには凄いお世話になってるにゃ。気になるなら、私達のセトさんへの感謝とお祝いの気持ちもこもっていると思ってくれたら良いにゃ。」
と押し返した。
「すみません。ありがとうございます。」
とマシェリさんが頭を下げ、セトさんも
「本当にありがとう。でも俺そこまでの事したっけ?」
と答えていた。
「初狩りのとき、色々教えてくれたし、この宿の紹介もしてくれたにゃ。それに、魔術師団に追われた時に直ぐに通してくれたのも助かったにゃ。」
「あ〜あれか。いつも通りバカなことやってるなぁと。」
「いつも通りって…セトさんの中で私達どういうイメージにゃ〜?」
「いや、うん、ははっ」
とワイワイと談笑したあと、荷物を置きに部屋に行こうとすると、セシルさんがマルクとマーサを呼んだ。
「そうそう、マシェリさんしか身寄りのないマルクくんとマーサちゃんは、ここで住み込みで働く予定だから、今後もよろしくね。
マルク、マーサ、働く時は呼び捨てだし、ビシバシ行くよ!さて、試しにお客様の荷物を運んでくれるかい?」
「「はいっ!」」
「重いよ、大丈夫?よろしくね。」
「よろしくにゃ。頑張ってにゃ〜。」
「ふふっ、お客様第一号ですね。」
と荷物を持って進む子供2人の背中を見て、
「最初が荒くれ者だったらと不安だったんだけど助かったよ。冒険者の印象も良くなっただろうし。素直にやる気だしてやってるしね。」
「2人なら大丈夫ですよ。ここならマシェリさんも安心ですね。」
「居場所があって良かったにゃ。2人の成長も楽しみだにゃ。」
と皆で温かく見守っていた。
その後、セトさん一家と、結婚、就職祝い、討伐祝いを兼ねて、宿の食堂の一部で夕食会を行い、冒険や街のこと、セトさんとマシェリさんの話などで盛り上がって、楽しい時間を過ごしたのだった。
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