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教授の餞別!?

「じゃあ、セトさんからお勧めされた宿に行ってみるかにゃ?」

冒険者ギルドを出たあとユイナが尋ねると、ライルは「うんっ」と言ったあと、卒業した魔術学院の寮に荷物を置きっ放しなことを思い出し、

「あっその前に、学院の寮に荷物を取りに行っても良いかな?」

とユイナに聞いた。ユイナは、

「うん。了解にゃ。あっそういえば魔術学院ってどんな感じか見てみたいにゃ。私も入れる?…やった、じゃあ一緒に行くにゃ!」

とニコニコして答え、2人で魔術学院に行くことにした。



レンガ造りの校舎が建ち並ぶ魔術学院を見たユイナは、感嘆していた。

「ここがライルのいた魔術学院か、凄い立派だにゃ。」

「うん。僕は落ちこぼれだけどね。」

ライルは少し苦笑い気味に答え、ユイナを案内していった。


寮の建物につくと、

「こっちが僕の部屋だから、ちょっと待っててね。」

「分かったにゃ。」

とユイナに待っててもらい、ライルは自分の部屋に入っていった。

「荷物は着替えとお金、焚き火用の魔道具と…魔術の本は最小限にして…父さん母さんの箱も持っていこう。こんな物かな。うん、背負い袋に余裕で入るな。」

ライルはささっと必要な荷物をまとめると、

「お待たせ。」

と直ぐに部屋から出てきた。


「お、早かったにゃ。」

「後は、教授に挨拶だけしときたいけど、居るかな~?ユイナは付いてくる?食堂でご飯食べて待っててくれても良いけど。」

「む、ご飯!?……いや、挨拶大事だから付いていくにゃ。」

ケモミミをピクッと動かして一瞬よだれを垂らしそうな顔をしたユイナだったが、思いとどまり挨拶を優先したので、2人で教授室に向かうことにした。



教授室に着いて、トントンとドアをノックしながら

「ライルです。シン教授おられますか。」

と尋ねると、室内から

「あぁ居るぞ。入りたまえ。」

との声が聞こえたので、

「「失礼します。」」

と2人揃って教授室に入っていった。


山の様に書類が積まれた執務机から出てきたシン教授は、2人を応接セットの方に導いた。教授と対面する形でライルとユイナが位置につくと、ライルが話し始めた。

「教授、寮の部屋を片付け出ていきますので、挨拶に来ました。これから冒険者としてやっていこうと思います。こちらはパーティーを組むユイナさんです。」

「豹族の戦士、ユイナです。この度、ライル君とパーティーを組ませて頂くことになりました。」


礼儀正しく上品な礼をするユイナとその様子に少し目を見開くライル。

「これはご丁寧に。私はライル君の先生であり、少し保護者の代わりをしていたシンという者です。

 ライル君は少し不器用なところがありますが、誠実な男ですので、よろしくお願いします。」

「はい。共に頑張りたいと思います。」

 

 シン教授はその様子に温かい目をして頷いていたが、ライルの魔術を思い出し、

「……あと申し訳ないが、ライル君の魔法は暴発し易いので、彼も迷惑がかからないようにすると思うが、心に留めといて欲しい。」

 とユイナに申し訳なさそうに告げていた。

「あっそれは経験したので大丈夫です!任せるにゃ。あっ…」

言葉使いが砕けてばつの悪そうなユイナと、既にやらかしていることがばれて気まずそうなライルであった。


「フフッ。私に窮屈な言葉使いは要らないから、気にしなくて良いよ。むしろ砕けた感じでお願いしたい。それよりライル、もう暴発したのか…」

「ハハハッ…」

冷や汗を垂らすライル。

「ユイナさんが居るとはいえ、大丈夫なのか?どうやって戦うのだ?」

「とりあえず、暴発しても問題ない魔法を使おうと思ってます…。あとお金が貯まったら魔道具を買って、クリスタルに魔力を貯めておいて使うようにすれば、暴発はしないかなーと。」

「ふむ。…しかし魔道具だと、使い道は限られるし、剣士が遠距離の時に牽制に使ってるくらいだから、あまり戦力にならないぞ。

 あと接近されたらどうするんだ?」

「そうなんですよ。丁度今、近接用の武器をどうしようか考えてるところでして…。」


ライルから現状を聞いたシン教授が、しばし思案したあと、

「そうだな。昔私が君の両親と一緒に行動していた頃に使っていたワンド(杖)を使うかい?」

とライルに聞いてきた。

「ありがとうございます。しかし教授、魔法を上手く使えないのにワンドでは…」

「それだが、特殊なワンドでな。ちょっと待っていろ。」


 教授が奥の部屋から、持ち手から先の長さが30cmくらいのがっしりとした黒色の棒を持ってきた。

「これは見た目はただの硬い棒だが、魔力を通すとその属性に応じた魔法を、棒の周りにまとわせることができるんだ。ライル君、ちょっと持ってみろ。」

ライルが手に取ってよく見ると、持ち手から先に螺旋状に術式のラインが入っているのが分かった。


「そのまま炎をイメージして魔力を通してみろ」

ライルが言われた通り炎をイメージして魔力を通すと、ラインに沿って炎が湧き上がり、持ち手から先が炎に包まれた。だが凄い勢いで魔力が減っていくのも感じ、驚いて魔力を切ると炎も消えていった。


「今使って分かったと思うが、これは敢えて術式を曖昧にし、影響範囲を限定して暴発させるようなものなので、自由度は高いが、その反面凄く魔力を喰うんだ。普通の術者の魔力量だとフルでも1分くらいしか維持できないから、魔法との併用は難しく使いづらいが、ライル君なら10分くらい保つだろうから使えるだろう。一定量を激しく吸われ続けるだけで制御不能な暴発もしないしな。」

「これは凄い。助かります。でもこんな凄い物を頂いて良いのですか。」

「あぁ。私はもう使わないからな。冒険者として旅立つライル君への餞別だ。役立ててくれ。」

「ありがとうございます。」

「だが、相手に当てたり攻撃をさばいたりするのは、ライル君の力が必要だぞ。」

そう言われて「うっ」とうなるライルに、

「大丈夫、そこは私が鍛えてあげるにゃ。任せるにゃ。」

とユイナが軽く胸を叩いてニヤッと笑った。

「嫌な予感が…」

「ニャハハ〜。」


「では教授、本当にありがとうございました。」

「うむ。ライル君、ユイナさんもお元気で。困ったことがあれば遠慮なく相談しにきなさい。順調でも時々連絡してくれると嬉しいぞ。」

「はい。教授もお元気で。」

「2人でまた寄らして頂くにゃ。」

そうして2人はシン教授に挨拶をし、教授室を出て、魔術学院を後にしたのだった。



「ライル、良い人だったね。感謝だにゃ。」

「うん、本当に。僕の尊敬する人だよ。がっかりさせないように頑張らないと。」

「じゃあ、セトさん紹介の宿に行って早速訓練にゃ。」

「えー!」


「あ、『白い狐亭』の看板見えたにゃ。あそこにゃ。」

 白い狐亭のドアをくぐると、古い感じだが丁寧に手入れされており、木のぬくもりを感じる宿だった。


「いらっしゃい。」

カウンターにいた40代くらいの少しふくよかな女性が、温かな笑顔と共に声をかけてきた。

「あの、セトさんからの紹介できたのですが、一晩いくらでしょうか?」

「あら、あの子の紹介かい。私はあの子の叔母にあたるセシルだよ。宿代は一晩一部屋あたり素泊まりで3銀貨だね。朝晩の食事は一人あたり1.5銀貨だけど、1銀貨にまけとくよ。あとお風呂も無料にしちゃおう。」

「うわ〜。ありがとうございます。ユイナどうする?」

 良い条件に感じたライルだが、手持ちが少ないこともありユイナに相談すると、

「うん、良い宿にゃ。食事付きで泊まるにゃ。部屋も一緒で良いにゃ。」

と予想外の答えが返ってきた。

「えっ!」

相部屋の提案に驚いたライルが固まっていると、

「うん?嫌にゃ?襲うにゃ?」

「嫌じゃないし、襲わないけど!」

「じゃあ問題ないにゃ。それより訓練できる所あるかにゃ?」

「ふふふっ。裏庭があるから、ある程度はできるわよ。」

「やったにゃ。じゃあ共同の1銀貨と1人2銀貨ずつで5銀貨払って、早速裏庭行くにゃ〜。」

とユイナにさっさと押し切られたのだった。


そして物理的にもグイグイと押されるような形で裏庭につくと、やる気に満ちたユイナの特訓が始まった。

「さぁ軽く振ってみて…こんな感じで…そうそう。じゃあ実戦形式でいくにゃ〜。」

「えー!早いって!…」

「いつっ!」

「うがっ…!」

「固まってると転がされるにゃ」

「ぐっ!…!」

「立って立って、ほらこっちにゃ!」

「えっ!…!」

「相手を抑えるには攻撃も必要にゃ。そこでこう!」

「うっ!…だぁっ!」

「そんな正直だと、目潰しに砂投げちゃうにゃ」

「ぎゃ…!」

「…!…!」

こうして日々の日課となるユイナ先生の実戦形式スパルタ教室が幕を開けたのだった。



特訓を終えたライルは、宿の食堂のテーブルに倒れ込むように座ると

「…ヒール…」

と光の治癒魔法を唱えた。

「おぉ〜さすが綺麗に治るにゃ。」

「少しの間にボロボロになったけど、大丈夫かい?」

ライルがテーブルに突っ伏しながら怪我を治していると、セシルさんが食欲をそそる良い匂いがする煮込み料理と、香ばしく焼き上げたパンを持ってきてくれた。

「おー!美味しそうにゃ!…パクッ!、これ肉がトロトロで凄いうまいにゃ!」

ガツガツガツ!目を輝かせて凄い勢いで食べ始めたユイナの横で、ライルが

「ハハハッ…大丈夫です。訓練ですので。」

と答えながら、一口食べると、口の中に濃厚な味わいが広がり、肉がとけるようになくなっていった。

「あっ!おいしい!」

思わず声を漏らして、食べ進めると、

「フフッ、いい顔して、いい勢いで食べてくれるねぇ。おかわり自由だから、しっかり食べてね。」

とセシルさんが微笑みながら声をかけ、戻っていった。

「ふぁり、がとう、にゃ〜」

「ありがと、ござい、ます」

そして2人は幸せそうな顔で食べ続けたのだった。



 満腹になり、お風呂で疲れを癒やした2人は、こうして冒険者1日目を無事に終えたのだった。


・・・ 

 なお、ライルはベッドに横になっていたが、疲れているにも関わらず、先程見たユイナの湯上がり姿と女性の甘い香りにドキドキして、眠れずにいた。


 するとしばらくして、ユイナのベッドから、寝息が聞こえてきた。思わず上半身を上げてユイナの方を見たライルであったが、信頼して寝ているユイナを見て、その気持ちをありがたく感じ、この信頼を大切にしようと思い、

「ユイナありがとう。おやすみ。」

と言って、仲間ができた喜びを噛み締めながら眠りに落ちるのだった。


 一方ユイナは、ライルが眠りに落ちた後、しばらくすると起きてきた。一応何かあれば直ぐに起きれるような浅い眠りで寝ていたユイナだったが、ライルが幸せそうに寝ているのを見て、

「うん。やっぱり信頼できるにゃ。私の目に間違いないにゃ…ふふ。おやすみにゃ〜。」

と言って、これからの二人での冒険にワクワクしながら、今度は熟睡するのだった。



お読み頂きありがとうございます。

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