紅?のユイナ
2021/8/24 ユイナの出自の話を追加しました。
ライルが箱を開けていた丁度その頃、冒険者ギルドに、真紅の髪をなびかせた女性が颯爽と入ってきていた。
身長は165cm、年齢は10代後半位だろうか。大きな瞳は髪色と同じく鮮やかな紅色で輝いており、整った顔立ちをしている。そして躍動感あふれるスタイルの良い体を革製の鎧で局所的に覆って、軽やかに進む姿は、周りの注目を集めていた。そのしなやかな動きと髪の間から見えるケモミミや尻尾から、猫科の獣人と思われた。
カウンターまで進んだその女性は開口一番、
「『紅』のユイナである!私が来たからにはどんな相手でも倒してやるにゃ!討伐に困ってる相手はいないかにゃ!」
と叫んでいた。
周りは、おぉ〜!…お前知ってるか!?…オレは聞いたことないけど何か凄そうだぞ!…とザワザワと騒ぎ始めていた。
・・・・・
冒険者ギルドで叫んだユイナは、見ての通り獣人の部族出身で、周辺の部族の中で近年最強と言われた族長の娘だった。それゆえ、その血を受け継いで身体能力や戦闘での感覚に優れていたため、メキメキと頭角を現し、まだ若いにもかかわらず既に部族の中では隊長クラスと争う程の腕前を持っていた。
そして、その部族ではある程度力をつけた者を『二つ名』で呼ぶ習慣があったため、ユイナは真紅の髪をなびかせて戦うその強さと美しさから、『紅』のユイナと呼ばれるようになっていた。
強さに重きを置く獣人であるため、その将来性にあふれた強さから次期族長に推す声が高まりつつあったが、ユイナは族長には戦うだけしか能の無い自分より、頭が良くリーダーシップのある兄の方が適していると思っていた。また、ユイナは兄も部族の仲間も好きであり、争いが起こって敵味方に分かれるような事は避けたかった。
そこでユイナは考えた末、一人前に認められる16才になると同時に外に出て冒険者になることを決め、自身の成人祝賀会の挨拶の最中に感謝を述べたあと旅立ちを宣言して走り出し(事前に母にだけ相談して父の族長を抑えてもらうなどフォローして貰った)、周りが騒然とする中、
「『紅のユイナ』として有名になって、部族の名を上げてくるにゃ!」
と言い残して意気揚々と旅立ったのだった。
ユイナは「名を上げるにはやっぱり王都だにゃ」と、まずはこの国の王都の冒険者ギルドを目指して旅をしていた。しかし、川で洗濯をしようとして、誤ってお金を落としてしまった。
「・・・にゃ!!」
機敏な動きで何とか落ちて流れて行く前に3枚だけ銀貨を掴むことができたが、後は深く大きな川にながされてしまった。
「しまったにゃー。これだと次の街に入ったらお金が無くなるにゃ・・・。でもさすがに一人で野宿はまともに寝られないし、何日も続けることはできないにゃ・・・・・・とりあえず次の街に入ったあと、冒険者ギルドで何か仕事をして王都までの路銀と生活費を稼ぐかにゃ~・・・・・・うん、それで王都に行くまでに実績をつけて、あわよくば名を上げていけば良いにゃ!」
そうして方針を決めて、次の街であるライルの住んでいる街の冒険者ギルドに着いたあと、少しでも多く稼いで名声を得るために、強い魔物を倒そうと意気込み、先程の発言になったのだった。
・・・・・
ユイナがカウンターで叫んだあと、その正面にいた受付嬢は、ハッと我に返ってうやうやしく対応を始めた。
「討伐依頼を受けて頂けるということで、よろしいですか?」
「ウム、任せるにゃ!」
ザワザワザワ!
「ではどのランクを受けられますか?」
「ランク?」
ザワ?
「…えっと、討伐依頼のランクでございますが…」
「……」
「ギルドカードはお持ちですか?」
「何だにゃ、それは?」
…!?ザワザワザワ…
「えっと…冒険者登録で良いですか?」
「…うん。」
…ザワ…
「それではこちらの用紙に必要事項を書いて頂いて、登録料と一緒にお持ち下さい」
「…」
「…?代筆しましょうか?」
「いや…登録料がいるのかにゃ?」
「はい。2銀貨となります」
「………。」
…………
そこで進退窮まったユイナはザッと振り向くと、
「私の冒険者登録料を払う栄誉を与えて欲しい奴はいないかにゃ!?」
と叫んだのだった。
その瞬間、危機管理能力の高い冒険者は、見なかったし聞こえなかった事にして、空気のようにフェイドアウトしていき、後には、凍りついた笑顔のまま青スジが浮かんでいる受付嬢と、彫像のように固まったユイナだけが残されていた。
注※
1鉄貨=10円
1銅貨=100円
1銀貨=1000円
1金貨=1万円
1白金貨=100万円くらいです。
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