ダーラン村(1)
《三年後》
アルフ王国~王都~
「ハル、そろそろ大規模な討伐クエストに挑戦してみないか?」
あの村の大火事から三年が経った 俺とエルザは王都に拠点を置き 裕福ではないが貧しくもなく普通に生活している
「我々《チーム零》の名を上げ、三大ギルドに肩を並べようではないか!!」
「……めんどくさいな~。」
僕たちは王都でギルドを立ち上げた。
ギルド名は【チーム零】
村を失い、"零"から始まる物語 という意味で、よく考えずに決めた名前だ
それから三年間、コツコツ小さなクエストをこなして日々生活している
そして遂に、大規模討伐クエストに挑戦しようと エルザは提案してきたのだ…。
「黄色い紙ってことは、緊急クエストだね だから報酬金も高いのか」
「その通りだ!キングゴブリン討伐など、いいとこB級難易度で報酬も低いが、緊急クエストのために報酬が上がっているのだろう 正直ウマすぎる!」
「素直だな…… でも引っ掛かるなぁ 緊急クエストで報酬が上がるのは分かるけど、難易度がA級に上がるなんておかしくない?」
クエストは一般的に三種類存在している
青色:普通のクエスト
黄色:緊急クエスト
赤色:国命クエスト
その中でも、黄色の緊急クエストは報酬が高く設定される傾向があるので、腕に自信のある魔導士には人気のクエストだ
だけど緊急クエストで上がるのは報酬だけであり、難易度が上がることはまず無い
キングゴブリンはC級が一般的で、群れが多ければ稀にB級に上がったりする
「よいではないか!きっと今までに無いほど巨大な組織を成しているのだろう」
「案ずるな、私がついている!!」
「まあ、エルザがいたら大丈夫だけどさ… まあやってみよっか」
「よし!準備でき次第、すぐに村に向かうぞ!」
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キングゴブリン討伐
難易度:A級
報酬金:500,000万マルク
受注資格:特になし
詳細:近くに住むキングゴブリンが村人を攫って行きます。早く助けてください。
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~ダーラン村~
王都より魔道車で8時間ほどの距離にあるダーラン村 近くに森があるので、自然に恵まれた良いところだ
王都内では避暑地として有名で、暑い時期には観光客で賑わっている
森の恵みをふんだんに使用した料理も人気だそうだ
「いや~案外遠かったな! それにしても素晴らしいところじゃないか」
「たしかに、いい気持だね」
魔獣が蔓延るこの世界では、防壁や魔除けの木を生やすことで魔獣を寄せ付けないのが常識だ
王都や都市になると防壁が当たり前だが、小さな村は魔除けの木を村を一周させる形で生やすことで魔獣から身を守っている
魔除けの木になる実は、魔獣にはかなりキツイ臭いらしい
「すみません、依頼を引き受けてくれた方たちですか?」
「はい、ハルと申します」
「私はエルザだ」
村の入り口で出迎えてくれたのは、人当たりの良さそうな青年だ
褐色の肌に黄色いアロハシャツと短パン、露出されている肉体は、かなり鍛え上げられていた
「私の名前はビリーです!一応、この村のリーダー的な役割をやらしてもらってます」
「ってことは、村長さん?」
「村長は私の父です、ただ父は例の件で元気を失くしてしまい… 代わりに私が皆を引っ張っていっているんです」
なるほど、例の件とは恐らくキングゴブリンの事だろう
村長はキングゴブリンが村人を攫って行くことで元気を失くし、代わりにビリーさんが村長代理として働いている
「ビリー殿、この村は魔除けの木で囲まれている なぜキングゴブリンがこの村に入れるのだ?」
「見たところこの村は畑も川もある よほどの理由が無ければ村の外へは出ないだろうに」
「まさか貴様等、自ら生贄を出しているのではあるまいな?」
エルザのこの指摘はごもっともだ
村は見る限り荒らされた形跡はない 魔除けの木もちゃんと生っている
村の中で水も食料も確保できるので 村の外へ出た人間が襲われたなんてことも無さそうだ
「そ、それは、、、その…」
「なんだ、答えられないのか?」
「実は、ですね」
「うちのキングゴブリン、魔除けの木が効かないみたいなんですよ」
これは厄介なクエストを引き受けてしまったものだ…
魔除けの木とは万能ではない 魔除けの木を壊す方法は 正直いくらでもある
しかし魔獣がそうしないのは、魔獣だってバカではないからだ
魔除けの木を破壊して人間の領域を侵した場合、魔導士に報復されることが分かっているからだ
だから知能が高く力もある魔獣は、わざわざ魔除けの木を破壊して侵略はしてこない
それをする魔獣はよほど人間に対し怒っているか、ただイカれた奴のどっちかだ
つまり魔除けの木は人間の領域を魔獣に伝える役割が主であり、ついでに知能が低く力の弱い魔獣を寄せ付けない役割も持つ
それを踏まえ、今回のキングゴブリンは魔除けの木が"効かない"と来たもんだ
さっきも言った通り、村の周囲には魔除けの木が無事に生えている
それを無視して入って来れるという事は、特異体質の可能性が高い
つまり通常のキングゴブリンとは異なり、実力も段違いかもしれない
今回のクエストの全容が、村を訪れて数十分で分かってしまった
「なるほど、その特殊なキングゴブリンは厄介だな…」
「だが安心してくれ、私たちが責任を持って討伐すると約束しよう!」
「ありがとうございます!村の奥までご案内します。ぜひ私の父、ダーラン村の村長にご挨拶を!」
こうして俺らはビリーさんに案内され、ダーラン村の村長ビングスさんと顔を合わせた
村の奥に建つひと際大きな家、扉を開けるとすぐに広い部屋があり、その奥中央に正座している老人が村長ビングスさんだ
やはりビングスさんは元気が無く、食事も喉を通らないのかゲッソリしていた
「父さん、魔導士の方を連れてきたよ」
「………ハァ」
ビングスさんは半眼でおれらを見つめ、ため息をつく
「また、犠牲者が出るのか 悪いことは言わん、この村を去れ」
「この村は既に滅んでいる もう救いようがないのじゃ」
「バカ息子が勝手に出した依頼は取り消させてくれ」
ビンクスさんのこの発言に、ビリーさんは慌てた様子で謝罪を始めた
どうやらビンクスさんは本当に頭がやられてしまったらしい
ビリーさんは気にしないでくれと謝罪してくれた
「向こうにお二人の宿を用意しています 今日は移動で疲れている事でしょうから、そこでお休みください」
ビリーさんは気を遣ってくれた
俺たちはお言葉に甘えて今日は休むことにした
さすが人気観光地というだけあって、宿も素晴らしいものだった
出された料理も美味しく、みんな歓迎してくれた
そしてその日の夜、
ビンクスさんが村から消えた
村は相変わらず荒らされていなかったが、大きな違いが一つ
村の中に深く刻まれ、入り口から村長の家まで続く 大きな足跡だった