表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

第7話「君なら――」

「別に邪魔なんて……」

「うん、今君があの子の邪魔をする気がない事はわかってるよ。だけど、君が自分とあの子を重ね始めていたのも事実。いずれ、あの子に余計な事を言い出しそうで怖かったの」


 余計な事とは、『前衛を諦めろ』みたいな事を言いそうという事だろう。

 この人がどこまで知っているのかはわからないが、少なくとも花咲さんが俺に接触している事を知っているのはわかった。

 そうでなければ、こんな忠告をしてこないからだ。


「あの子は明るく見えて、実は今とてもギリギリな状態なの。これ以上負荷が増えるとソフトテニスを辞めかねない」

「ギリギリ? それはいったいどういう事でしょうか?」

「見ていればわかるよ」


 ――浅倉さんの言葉の意味は、言葉通り数十分後に理解する事が出来た。

 その間に行われたのは試合形式の練習――いわば練習試合だ。


 そしてダブルスの試合に出た花咲さんは――サーブとレシーブ以外、何もさせてもらえなかった。

 サーブを打って前に付いたり、レシーブを打って前に付くと、決まって中ロブという攻めのロブで頭を越されている。

 おかげで花咲さんの後衛は走り回されていた。


 ましてや花咲さんの身長が低すぎるせいで、中ロブの高さも通常より低いため後衛は拾うのでやっとだ。

 そして拾ってなんとか返したボールはただのチャンスボールであり、相手前衛にスマッシュを決められていた。

 逆に花咲さんが無理にロブを追おうとすると、その隙を突かれてパッシング(前衛を抜こうとする技)を喰らってしまう。


 あまりにも酷い惨状に見ていて花咲さんの後衛に同情する。

 結果は見るよりも明らかで、花咲さんたちのボロ負けだった。


「――もういい加減にしてよ! あんたと組んでると私一人でテニスしてるようなものじゃない! こんなのやってられないわよ!」


 無様な試合をしてしまったからか、それとも走らされまくってしんどかったからかはわからないが、業を煮やした花咲さんの後衛が、花咲さんにキレてしまった。

 本当に女子なのかと思うほど汚い言葉遣いで花咲さんの事を罵り始める。

 花咲さんは泣きそうになるのを我慢しながら何度も何度も頭を下げて許しを請うていた。


「……止めなくていいんですか?」


 あまりの酷い状況に関係者であろう浅倉さんへと声を掛けると、浅倉さんは首をゆっくりと横に振った。

 どうやら止めに入るつもりはないようだ。


「ちっ――あなたが止めないんでしたら、俺が止めに行きますよ」


 見ていて気分が悪くなった俺は、建物の影から身を出そうとする。

 確かに花咲さんの弱点を責められた試合ではあったが、後衛側にも非はあった。

 相手に対して甘いコースにボールを打っていたし、攻めないといけない場面で弱気になってしまい、結果相手に付け入る隙を与えてしまっていたのだ。

 それなのにペアのせいだけにするあの女の態度が許せなかった。


「駄目よ、黙って見ていなさい」


 しかし、意外にも浅倉さんに手を引っ張られて止められてしまう。


「どうしてですか?」


 納得がいかない俺は睨むようにして浅倉さんを見据える。

 すると、浅倉さんは首を横に振って口を開いた。


「あの子が最後なの。ここであの子を叱って美鈴と組みたくないと言われれば、もう美鈴に付ける後衛はいなくなってしまう。そんな事になったら、この部に美鈴の居場所は完全になくなってしまうの」

「……なるほど」


 今のこの状況は、手を尽くしたが故のものだったのか。

 おそらく一年生が部活に加入すれば一年生を花咲さんに付けてあげる気なのだろう。

 それまでは花咲さんに我慢してもらうしかない、そう言いたいのだ。


 先程の発言からしておそらく若くてもこの人は監督なのだろう。

 指導者ならいじめに近いこの状況を止める責任があるが、下手に止めれば裏で更に酷い事を花咲さんになれかねない。

 だから俺にも、下手に間に入らず我慢しろと言っているのだ。


「あの人がミックスダブルスをしたい理由は、こういう裏事情があったのか……」


 相手が男なら、多少は今よりも優しくしてもらえると思っているのかもしれない。

 もしくは、ペアを失う恐怖に抗おうとしているか――だろう。


「うぅん、あの子がミックスダブルスをしたい理由は他にあるよ」


 女子ソフトテニス部を見学して出た結論は、あっさりと浅倉さんに否定されてしまった。


 他に理由がある――か。

 正直俺には関係ない事だが、ここまで事情に踏み込んでしまったからか、少し興味が沸いてしまった。

 だけど浅倉さんはその話に関してはこれ以上話すつもりはないようで、別の話題を振ってくる。


「ねぇ浅霧君。君なら、あの子の事を活かしてあげられるんじゃないの?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ラブコメです……!』
↓のタイトル名をクリックしてください

エロゲーの主人公に転生したので、ルートがないのに人気投票で一番人気だったサブヒロインを攻略することにしました

『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』5巻2023年10月25日発売です!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
お隣遊び5巻表紙絵
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  


『「幼馴染みがほしい」と呟いたらよく一緒に遊ぶ女友達の様子が変になったんだが』1巻2022年11月25日発売開始しました!
  ★画像をクリックすると、ブレイブ文庫様のこの作品のページに飛びます★ 
おさ変1巻表紙絵
  ★画像をクリックすると、ブレイブ文庫様のこの作品のページに飛びます★  

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ