第93話 集いし強豪!
前回のあらすじ:ミヴロの町の各所で激闘を繰り広げるガンダブロウたちとは反対にアカネは暇を持て余していた……
※今回も引き続きアカネ視点
突然の声に振り返る。
声をかけてきたのは、三十代後半くらいの見知らぬ中年男性。
和装ながらもどこかウエスタンな雰囲気のある服に長髪とワイルドな口髭。顔立ちもしっかりした顎で濃い系の男前だが、何というかそれらの要素を補ってあまりある残念なオジサンオーラが漂っていた。
うーん、誰だろ?控室にいるって事はスタッフの人かな?
「マツシタ・アカネ……と言ったかな? いいのかい? 君みたいな無名選手がそんなとこでボーッと窓の外を眺めたりなんかしてて」
男は慇懃無礼な言葉づかいで、遠回しにわたしの態度を非難する。
「どうゆう事です?」
「やれやれ……ここにいる周りの選手たちを見てごらん。皆、戦いの前に小懸騎士の整備や準備運動に余念がないだろう?」
「は、はあ……」
周りを見渡す。
ガンダブロウさんたちの動向ばかりを気にしていたので控室の中の様子はあまり見ていなかったが、確かに集められた選手たちは皆真剣そのもので、自分のコケシのパーツを付け替えたり、動きの再確認をしたり、シャドーボクシングのようにコケシを投げる動きのイメージトレーニングしてる者などで溢れかえっていた。
集まっている選手は見える限り全員がわたしより年下の少年たち。玩具の大会といえど、ここまでガチになるのは男の子の習性ね……て、改めて考えると、マガタマを探すためとはいえ、こんなところに一人わたしのような女子高生が交じるのはメチャ恥ずかしいわね。
「一流の小懸主は一流の準備をするものだよ。君は運良く予選を勝ち抜けられたようだけど、本戦で戦う彼らの強さは予選までとは比較にならないぞ? 勝ちたいと思うなら、少しは危機感を持った方がいいのでないかな?」
ネチネチとした厭味。ねじくれた性格がにじみ出るようなドヤ顔。
いや、言わんとする事は分からないでもないけどさ……なんなの、この人?なんなの、この喋り方?めちゃくちゃ腹立つんですけど……
「いや、別に君がいいんならソレでもいいけど……どのみち、ここにいる小懸主のほとんどが君よりも実績があり、全国的にも名の通った実力者たちだからな。君がいくら頑張ったところで、勝ち進む事は難しいだろうしね。なんといっても今大会ではナンタラカンタラ……」
はぁ〜…………いるよねー、こういうオジサン。
自分では戦わないのに知識だけはあるから、やたらえらそうに人を批判する……ていう、一番わたしが苦手な人種。正直話を聞くのも億劫だが、どうせ暇を持て余してたのだ。せっかく(頼んでもないけど)語ってくれるというのだから、対戦相手の情報を勉強しておくのも悪くない。
「ここにいる人たち、そんなに有名な人たちなんですかー?(棒読み)」
「なんと!? 君は、彼らの事を何も知らないでここにいるのか!?」
「ええー。なにぶん田舎者なものでー(棒読み)」
「ははっ! これはとんだお登りさんがいたものだ! ある意味、無知でいた方が幸せという事もあるだろうが…………まあ、よろしい。おせっかいながらこの私、津久田玄場が注目選手について教えてしんぜよう!」
……という事で、謎のおしゃべりオジサン(たぶんスタッフ)に選手紹介をしてもらう事になった。
「まずは、あのひときわ身体の大きい少年だ! 力強さと優雅さを併せ持つ小懸騎士・白鵬の翔王を駆るのは、"ニュガートの白き綱鳥"、駝場文鳩! 組んでよし離れてよしの王者の小決闘はまさに横綱! 一分の隙もない!」
ふむふむ、白鵬の翔王の駝場文鳩……と。
「お次は、あそこの赤い帽子の少年!"オービターの機械式"の異名を持つ甲東毎里男だ! 今大会の小懸騎士で一番の防御力を持つのは間違いなくヤツの三盾走亀だ! 赤・緑・青の甲羅を自在に操るコケワザに加え、誰にも見せた事のない無敵の奥の手もあるという噂だ!」
三盾走亀の果東毎里男に……
「あそこの傷面の坊主頭は"リャマナスの影虎"こと甲斐田震源! 複数の属性を操る唯一の小懸騎士、山火林風は変幻自在、一騎当千! まさに武神だ!」
山火林風の甲斐田震源……
「そして"サガスの神の子"平南土塔令! 小懸騎士は桃源郷の鵲! 小決闘の常識を超えた最古にして最強の小懸騎士! 彼との戦いを制するには自身も神の領域に踏み入るしかないだろう!」
桃源郷の鵲の…………て、うーん、覚えきれないね。
「はあ、はあ……他にも紹介したい選手は山程いるが、優勝候補となるとその辺りだ」
「へー」
オジサンは自分の知識をひけらかせて満足げだ。
まあ、正直あまり参考にはならなかったけど、要注意選手とその何となくの特徴が分かっただけでもよしとするか。暇つぶしにもなったしね。
「そしてもう一人。今大会、彼らと優勝争いをする事になるであろう台風の目となる選手がいる。それは……」
「みなさーん! お待たせしましたー!」
オジサンがまだ何かを話そうとしていた時、控室の扉が開き、例の解説兼レフェリー……更井さんがやたらとハイテンションで入ってくる。更井さんは何やら大判用紙をまるめて持っており、それを壁に貼り付けると選手たちが一斉にそちらに注目した。
「厳正な抽選の結果、対戦組み合わせが決まりました!」
更井さんが持ってきたのは【富岳杯】のトーナメント表だ。
ここにいる全国津々浦々から集まった強豪小懸主たちの運命を決める組み合わせ。更井の掲示した表の前にはワラワラと選手たちの人だかりが出来る。
さてさて、わたしの対戦相手は誰になるのかな?
出来ればさっき説明された優勝候補の人たちとは当たりたくないけど……
そう思い、人だかりの隙間からトーナメント表を覗き込むと……
どうでもいい雑記
小懸騎士の名前の元ネタはJリーグチーム。
(何故か全体的にメンツがJ2っぽい……)
赤黒の金剛石 (ブラディダイヤモンド)→浦和レッズ
青橙の栗鼠 (トワイライトアルディ)→大宮アルディージャ
紫光の鳳凰 (パープルサンバード)→京都サンガFC
白鵬の翔王 (キングアルビレオ)→アルビレックス新潟
山火林風 (ボルカンバンフォーレ)→ヴァンフォーレ甲府
三盾走亀 (トリニタルトーガ) →大分トリニータ
桃源郷の鵲 (ユートスピアマグピー) →サガン鳥栖
チームカラーとかマスコットとかチーム名の由来とかのイメージに、さらに連想した単語を色々と組合せてます。




