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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第92話 控室の憂鬱!

前回のあらすじ:ガンダブロウは明辻泉綱と羅蝿籠山を追跡する!一方、その頃アカネは……


※今回から一人称視点はアカネ



 

「………………暇だ!」



 【富嶽杯】の会場となる巨大船、"能飽(のあ)の方舟"の船内。


 ガンダブロウさんたちと別れてからおよそ3時間……参加選手の共同控室となる大間で待機させられ、スマホをいじったりしながら時間を潰していたが、もうそろそろ退屈に飽き飽きしてきた。



「何にもしないで待ってるのって苦手だよ〜」



 つい意味のない言葉を一人ごちる。

 

 遊園地のアトラクションの待ち時間や映画が始まるまでに流れる興味ない映画の予告タイムなど、わたしは昔から何もせずに待つ時間というのがとにかく嫌いだった。


 ふと、スマホに視線を落とす。もともとスマホいじりで一人で時間を潰すのはあまり得意な方でもない。ゲームとかもほとんどやらないし、ジャポネシア(ここ)じゃ通販サイトで買い物も出来ないしね。しかし、やる事がないとポチポチとスマホを触ってしまうのが現代人の悲しき性。だから、ネットニュースサイトの娯楽記事で「よく当たる誕生日相性占いアプリ!片思いのあの人は何月生まれ?」という本当にやる事がない時以外は気にも止めないだろう見出しにすら目が止まる。


 誕生日…………誕生日か。そういえば、ガンダブロウさんてもうすぐ誕生日なんだよなあ……




───────────


─────


──

 


「誕生日? 誕生日は7月19日だが」



 梅雨空のある日、旅の道すがら。急な夕立に合い、たまたま峠の途中にあった無人小屋で雨宿りをしながら他愛のない会話をガンダブロウさんとかわす。



「へー! それじゃガンダブロウさんもうすぐ誕生日じゃないですか! なにか誕生日プレゼントを用意しなくちゃですね!」



「いやいや、気づかいは無用」



 ガンダブロウさんはいつものように、ぶっきらぼうに返す。



「え〜! せっかくのお祝いなんだし、プレゼントとかあった方が盛り上がるのにー」



「お祝いといったって……俺くらいの年齢だと歳を食うのはめでたいどころかむしろ悲しくなってくるものだしなあ」



「ガンダブロウさん、いくつになるんでしたっけ?」



「に、二十……六」



「あー、そうなんすねぇ!ガンダブロウさん、結構大人に見えるから32、3くらいだと思ってましたよ」



「む、そんなに老けて見えるのか?」



 ガンダブロウさんは実年齢より上に見られたのがややショックだったのかムスッとする。うふふ、この人意外と感情が顔に出るんだよな〜。最初の頃は割と厳格でクールな人だと思ってたけど、一緒に旅を続ける中で結構印象が変わったかも。



「でも、意外と言えばガンダブロウさんの誕生日、性格的に秋か冬だと思ってましたよ。夏なの結構意外です」



「……性格と生まれた季節が関係あるものなのか?」



 わたしは何となく生まれの季節毎に性格が似通うんじゃないかという考えを持っていた。そして、この説は友達とかにも話すんだけど分かってくれる人と分かってくれない人で真っ二つに分かれるのだ。



「根拠はないんですけどね、何となく……そういうのありません? この人夏生まれっぽいなとか、あの人冬に生まれてそうとか」



「冷たい性格だと冬生まれで、熱血だと夏……とか?」



「いやいや、そう単純じゃないんですけどねー。冬の方がストイックで理系とか、夏生まれは豪快に見えて意外と繊細とか……」



「……なるほど?」



 ガンダブロウさんは困惑しながらも、頷いてみせる。が、これは全然話が通じてない人の反応。

 うーん……どうやらガンダブロウさんは分かってくれない側のようだね。



「あ、ちなみに7月生まれは変人が多い様な気がします」



「なぬ!?」



 これも勝手な推測。というかわたしの身の周りの人の統計でしかないのだけど、この人変なヒトだけど7月生まれかな?と思って聞いてみて当たった事が2回ほどあったから、なんとなく信じているのだ。あの兄貴も7月生まれだし。



「しかし、意外というならアカネ殿がそういう感覚的な話をするのは何というか意外だ。あまりそういうのを信じない方だと思っていたが……」



「えー? 駄目すかね?」



「…………いや……駄目ではないけど」



 ふーん、ガンダブロウさんにはそうゆう風に思われてたのかー。お互い意外と意外な面があるもんだ。


 でも、やっぱり一緒にいる時間が長くなると相手の分からなかった部分がよく見えてくるね。旅をして生活も共にすると相手の良いところも悪いところも本質的な部分がよく分かる……と、何かの本に書いてあったのを思い出した。ガンダブロウさんと出会ってからはまだ数ヶ月だけど、学校の友達や、なんなら10年以上共に過ごした兄貴とかより結構分かりあえてるんじゃない?なんて気もして……



「……ていうか、二人とも」 



 ふいに、今まで会話に参加してなかったサシコちゃんが話の流れに割って入る。



「なに恋人みたいなやり取りしてるんすかーッ!!」




──


─────


───────────




『誕生日占い! 7月19日生まれと4月15日生まれの相性は100点満点中……120点! 最高の相性です! 今すぐ結婚をおすすめします!』



 ……占いアプリの結果を見て笑みがこぼれる。

 いやいや、別にこんな他愛のないアプリを信じてる訳じゃないけどね?ガンダブロウさんが好きとかそういうんじゃなくて、馬鹿みたいな結果がおかしくて笑ってしまっただけでね?だって100点満点なのに120点出てるし、そんな適当なことあるかーい!的な笑いね?だから決してガンダブロウさんとの相性がよくて喜んでいた訳じゃ……って、誰に言い訳してるんだ、わたし!


 と、自分でもキモい感じでニヤついていると部屋の船窓から遠くに立ち昇る黒煙が目に入る。



「んん!? あの煙は……!」



 黒い煙が立ち昇っているのが見えるのは北方の町はずれの辺り……ガンダブロウさんが向かった方角だ!つまり、あれはガンダブロウさんの上げた狼煙!ミヴロに来る前に打ち合わせていた「戦闘が起こった時」の合図だ!



「はじまったわね!」



 ガンダブロウさんは明辻泉綱さんという兵隊時代にお世話になった元上司の女の人と会っている。その女性の関係はあえて深く詮索はしなかったけど、ガンダブロウさんが単なる上司部下の関係を超えた特別な思いを抱いている事はなんとなく察した。


 …………サシコちゃんはもの凄く気にしていたけど、わたしはガンダブロウさんが過去にどのような女性とどのような関係だったかにはあまり興味がない。人間、二十何年も生きてりゃ、色々な事があるだろうし。気がかりなのは、過去の事ではく現在と未来。明辻さんという方が今のガンダブロウさんに何をもたらし、今この町で起こっている事態にどう関わるのか。それだけだ。


 ガンダブロウさん曰く、明辻さんが直接敵になって、戦う事になる可能性は極めて低いと言っていた……となると戦闘の相手は御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)絡みかしら?

 まあ、あのガンダブロウさんが負けるとは思えないし、戦闘の狼煙が上がったら街に待機しているサシコちゃんがサポートに向かう手はずにもなってるから心配はないけど……


 うーん、色々と気になるけど、今は船の外の事を確認しに行く事はできない。わたしの役目はあくまでここで小決闘(コケットー)の大会に出場する事。そして、あわよくば優勝し、優勝者のみが見る事を許されているマガタマが真実であるかを確認する事だ。この事は事前の打ち合わせでも決まっていた事で、当初の予想から外れてる訳じゃないんだけど……今まさに何かが起こっているというのに何もせずに待機してるのは思っていた以上にストレスが溜まる!

 ましてガンダブロウさんやサシコちゃんは、わたしの旅の目的のために危険を承知で動いてくれてるのだ。それなのに自分だけがスマホをいじってボケっと待ってなきゃならないなんて……うあー、もどかしー!



「ハァーーー」


 長い溜息。次いで、ちらりとスマホのデジタル時計を見るが、時刻はまだ16時30分を回ったところ。【富嶽杯】の開始時刻である18時までは後1時間半ほど時間がある。

 


「早くこっちも始まってくれ〜」



 と、待ちくたびれも限界に近くなってきた時……



「おやおや! 君は随分余裕だね!」



 ふいに、背後から声をかけられた。



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