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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第91話 追跡!

前回のあらすじ:羅蝿や御庭番の妖化は金鹿馬北斎の開発した転妖の術であった!



「死ぬ人間には……何を言っても無駄だっつって!」



 羅蝿籠山(ラハエロウザン)は口から唾を吐くように何やら黒い玉を吐きつけた!


「ちっ!」


 な……!? こいつ、まだ反撃する余力があったのか!?

 俺と明辻先輩は吐きつけられた玉を半身を捻って回避する……が、玉は空中で破裂し、中から煙が放出する!

 


「げ……げっへへ……!油断……したなァ!」



 これは……毒煙幕!

 こいつ、これを狙って俺たちが油断して間合いに入ってくるのを待っていたのか!



「くっ!」



 一吸いでもしたらマズイ!俺と明辻先輩は煙を吸わぬよう間合いから飛び退く…………が、煙の拡散速度が速い!毒煙は桶の中の水に墨汁を垂らしたかのように、一気に辺りを覆い尽す!



「こ……この煙は強酸性! 吸えば臓腑が、触れれば肌が! たちまち腐食し、骨まで溶かし尽くすっつって!」



 毒煙に触れた草木はたちまち枯れ落ち、土すらも変色を始めている。

 侵食力といい、拡散速度といい、これは空行の"電導侵食"の作用を使った技だな。おそらく、(アヤカシ)体の時に使った溶解液と同じ性質……羅蝿籠山(ラハエロウザン)本人も煙の中にいるが、恐らく同属性の結界で毒を中和しているため無事なのだろう。



 やれやれ、確かにやっかいな技だ。もっと至近距離でこれを使われていれば少なからず毒をもらっているところだった。



「ガンダブロウッ!」



 だが、自然毒や化合毒でなく六行の作用を使った毒という事なら…………剣を抜く猶予さえあれば、俺には対処できる!



「分かってます! エドン無外流【逆時雨】……」



 俺は草薙剣を抜き、迫りくる煙にかざす!

 無行の力場が毒の中に宿る空行の力を瞬時に吸収、煙突の排煙のごとく毒煙を巻き上げて空へと放った!



「"秘剣・煙突口(えんとつこう)返し"!!」



 辺りを覆った汚れた霧が一気に晴れ渡る!

 

 ふっ!空気中に六行の力を充満させるなど、俺に技を使ってくれと言っているようなものだ!


 羅蝿籠山(ラハエロウザン)……相手の六行に触れることで、己の呪力を技に転換させる俺の特性を知らなかった事がお前の敗因…………て、あれ?



羅蝿籠山(ラハエロウザン)がいない!?」



 倒れていた茂みに羅蝿の姿がない!


 ……し、しまった!

 毒霧は俺たちを死に至らしめるためではなく、あくまで逃げる隙を得るための煙幕!俺たちを仕留めるのが目的の様な口ぶりは逃げの可能性から目を逸らさせるおとりだったか!


 まだ、金鹿の居場所を聞く前だったというのに逃してしまうとは、これは俺も先輩もまんまと一杯食わされて……



「逃げたか。よし、それじゃ追うとするか」



 しかし、明辻先輩は羅蝿の逃走がまるで予定していた事かのように冷静である。



「追うって……奴がどっちに逃げたか分かるんですか?」



「もちろん」



 明辻先輩はそう言うと、未だ納刀せずにいた剣をヒョイと持ち上げて見せた。



「分裂させて飛ばした剣の一部をやつの身体に付着させておいた」



 刀身は既に元の形状に戻していたが、よく見ると剣先のほんの一部が欠けているのが分かる。



「忘れたの? 私は自分の呪力を込めて飛ばした剣の一部は、離れていてもどこにあるか感知可能だって……」



 え……あっ!そうか!

 これは明辻先輩の技の特性を活かした、得意の追跡戦術!あのアマゴスキンの戦いの時も、この方法で敵の拠点を発見したのだったな……


 今回はおそらく、刀身を小さな無数の槍状にして攻撃した時、逃走される事を想定して剣の一部を付着させておいたのだろう。


 ……いや、というよりも偽りが混じる可能性のある奴の証言を信じるより、こうした方が敵の拠点を暴き出すにはてっとり早い。攻撃で致命傷を与えず、逃走の余地を残したのは先輩の計算の内だったのか。なるほど、やはり羅蝿と先輩では格が違う。奴は戦闘の最初から最後まで、先輩の手の上で踊らされていただけだったのだ。まあ、その策略を味方でありながら読めなかった俺も人の事は言えんが。


 ん?待てよ。という事は……



「ふふふ。まさか、自分が仕掛けた姑縦(こしょう)戦法を逆に自分がされるとは思うまい」



「油断をついて追跡し、敵の拠点を一挙に奇襲……か。あのアマゴスキンの戦いの時と同じですね」



「そう。懐かしいでしょう?」


 

 10年以上も昔の、まだ若い新兵だった時の初陣の記憶──


 太刀守などという過分の尊称もなければ、草毟守などという屈辱の蔑称もない、ただ不安と希望だけが胸中を満たした若き日の自分。あの時はまだ先輩の背中を追うことだけに必死だったな……



「奴はここから南西方向を移動している。ガンダブロウ、いくぞ」



「……少しだけお待ちを」



 だが、あれから色々な事を経験し、今や俺もいっぱしの男。ただ目の前の敵に剣を振るうだけに気を使えばよかったあの頃とは違うのだ。


 俺は懐から筆を取り出し、再び背後の水車小屋へと向かう。



「何をするのだ?」



「先程の技……天へと煙を打ち上げた技。あれは狼煙として仲間への合図も兼ねていたのです」



 俺は水車小屋の壁に南西へと敵を追うことを記した。

 これで狼煙を見て、後からこの場に訪れた者も状況が理解できるだろう。



「仲間……そうか。仲間か」

 


「はい。一緒に旅をしている仲間です。彼女たちについても追々話しましょう…………よし、終わりました」



 俺は手はず通りの役目をこなし、今度は先輩について羅蝿籠山の追跡を開始した。



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