第89話 上剣如水!
前回のあらすじ:サシコ&コジノのコンビは金鹿に敗北!一方水車小屋の戦いの行方は……
羅蝿籠山の攻撃!
無数のハエトリソウ触手が明辻先輩に迫る!
先程先輩が迎撃した時の触手攻撃は2本しかなかったが、今回は20本以上はある!
「はッ!」
明辻先輩は触手が太刀間合いに入る前に抜刀!
通常の斬撃ではとても届かない距離だが…………ふっ!久々に見るな、これは明辻先輩の得意技!
「エドン無外流【或命流】!!"入江の太刀・三角扇"ッ!!」
刀身がぐにゃりと曲がったと思うや否や、無数の針のような形状に変化し扇状に枝分かれする!
針は五間(約10メートル)ほども伸びると、迫る触手を串刺しにして再び迎撃してみせた。
「ああッ!? 何だっつって!?」
うむ、お見事!
これは明辻先輩の属性である水行の作用、「流動変質」を用いて刀身の玉鋼を自在に変質させたのだ!さらに空気中々の金属性微粒子を吸収しながら、刀身を伸ばす!このように明辻先輩は自らの剣を様々な形状に変化させて、状況に応じて多種多様な攻撃を繰り出す事ができる!
「エドン無外流【或命流】……」
明辻先輩は無数に別れさせた針状の刀身を8本に集約すると、今度は刀身を鞭のようにしならせる!
「"河の太刀・嵌入曲"!!」
刀身が蛇行する川の急流のように、縦横無尽に暴れまわるとハエトリソウの触手を切断しつつ、切っ先が羅蝿籠山の本体を襲う!
「ぐぅおおっ!」
枝分かれした刀身のうち一本が羅蝿の体に命中!
右肩辺りを切り裂き出血!
「ちィっ!」
羅蝿籠山はたまらず飛び退いてくが、明辻先輩の枝分かれして伸びる刀身がそれを追撃する!まるで生きた大蛇が獲物をつけ狙うかのようだ!
「我が剣の領域からは逃げ切れんぞ!」
なまじ攻撃のために両手の触手を伸ばしていた為、羅蝿は防御ができず回避するしかない……ふっ!中距離戦は明辻先輩が最も得意とする領域。羅蝿も触手攻撃による中距離戦には自信があったのだろうが、相手が悪かったな。
「逃げる? 誰が逃げるっつって?」
逃げ回るかのように飛び跳ねていた羅蝿が、突然前に出る!
たちまち迫りくる刀身に体を斬られ、数箇所に傷を負う……が、それと同時に、頭部のウツボカズラの口から液体を発射!
これは……さきほど、唐沢という斥候隊の男にトドメを刺した溶解液か!
「むう!」
溶解液は明辻先輩の体ではなく、剣の刀身が枝分かれする前の根本部分に命中!みるみるうちに刀身は溶け、その先の何十間と延伸した部分がボトリと地面に落ちる。
なるほど、な!
水の流れのように自在に枝別れする明辻先輩の刀身すべてを相手にするには手数が足りない……ならば源流を断って支流の流れを止めるという発想!その為には多少の手傷もやむなし、と突っ込んできた訳か!
「更に!」
明辻先輩はハッとして周囲を見渡す。
そこには先程の攻防で切り落としたハエトリソウの触手が地面に根を張り、再び活動を開始していた!
「キシェー!」
「こ、これは……」
「げへへ! 今頃気づいても遅いっつって! "狩猟域・妖草幽林"ッ!!」
ぬぅっ!切り離された触手が自立稼働!
直接攻撃が失敗しても罠として設置型の技にもなる、二段構えとは……うーむ、流石はあの噂に名高い幻砂楼の遊民の一員。単純攻撃だけが戦闘手段ではないという訳だ。
「逃げられないのはッ! お前の方だっつって!」
妖の呪力と人間の知性、この2つを併せ持つ敵というのはこれほど迄にやっかいなものか……!
「……先輩ッ!」
「心配するな、ガンダブロウ……私の力を忘れたのか?」
明辻先輩は四方を囲まれ、剣を溶かされながらも全く動じた様子はない。むしろその笑みを湛えた穏やかな表情には勝利への確信を感じさせた。
……ふっ!そうであったな!
このヒトが負けるはずはない……何故なら我が同門、最高の剣士にしてサムライ師団一番隊隊長の剣はこんなものではないのだからな!
「私を信じろ……!」
「明辻泉綱、討ち取ったりっつって……!」
ハエトリソウの触手が四方の地面から明辻先輩の身体には噛みつかんと飛びかかる……が、次の瞬間!
「キシェエエッ……!?」
ハエトリソウの群れを無数の小さな銀の槍が貫く!
「な、何いぃぃィ!?」
ハエトリソウは茎ごとズタズタに引き裂かれ、今度は復活してくる事はなかった。
「この攻撃は何だ!? 一体どこから攻撃を……ハッ!」
羅蝿籠山も気づいた様だな……明辻先輩の技の本質に。
「貴様、まさか……」
「ふっ!切り離された部位を操れるのはお前だけじゃないのさ」
ハエトリソウを貫いた攻撃の正体……それは根本が溶かされ、柄と分離された刀身だ!明辻先輩は一度呪力を流し込んだ刀身は、切り離されていてもしばらくは操作・変形させる事が可能!鋼を粘土のように無数の部位に分裂させ、鋭い矢のようにして放ったのだ!
そして、先輩は元より切り離されたハエトリソウがまだ死んでいない事を見抜いていた。だから遠間まで延伸させた刀身を、自分を包囲するハエトリソウの更に外郭までさりげなく展開、いつでも倒せるように配置していたのだ。
羅蝿籠山の作戦を完全に上回る作戦と技の完成度。同系統の技を使う者同士の戦いだったが、明確な格の違いがあったようだ。
「あ、ア……」
「……辞世の準備はいいか?」
「妖の力を手に入れ、人間を遥かに超越したアッシが負けるだなんて……そんなの……」
「エドン無外流【或命流】……」
「そんなの有り得ねえーーーっつって!!!!」
破れかぶれに溶解液を吐きつけるが、明辻先輩はアッサリと回避し跳躍!
分裂した刀身の矢をイワシの群れのように空中で密集させると、羅蝿目掛けて一斉に突撃させた!
「"雨の太刀・空魚神立"!!!!」
「ぐ、ぐぅおオオオーーー!!!?」
羅蝿の身体は槍の魚群にぶつかると、派手に鮮血を散らして吹っ飛ばされた。




