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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第1章 最果ての見張り棟編 (オウマ~旅立ち)
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第7話 ガンダブロウ大地に立つ!

前回のあらすじ:アカネは己の好奇心に従い兄を探し続けた。その末ついに兄が異世界へと転生した事を知り、自身もそれを追う事を決意した……そして、現在。アカネは兄の居る首都ウラヴァに向かうため地図を求めて見張り棟にやってきた。しかし、見張り棟には何やら不穏な気配が漂っていた……


※今回も地の文が変則的です。前半の段はアカネ視点継続で、後半からガンダブロウ視点に戻ります。



「はあ、はあ……もう、おやめ下さい!!」



 小屋から飛び出してきた少女が息も絶え絶えに叫ぶ。

 少女は破れた服がはだけないよう押さえながら、何かから逃げだそうとしている様であった。



「ぬはは! どこへ行くのだムスメ? ()()がまだ途中であろう!」



 それを追うように小屋から色黒の大男が姿を現した。男の方も服装が乱れており、中で何が起こっていたのかはある程度察しがついた。



「報告はもうしたではないですか! これ以上、軍務と関係のない不埒なマネには従えません!」



「不埒なマネとは人聞きが悪い。(みやこ)流の()()は田舎娘には分からぬと見える……ぬくく。しからばソレガシがたっぷりと(みやこ)の流儀を教えて進ぜよう」



「いや! 来ないで!」



「なんじゃ? 御庭番に逆らうか?」



 男はそう言って刀に手をかけると、刀身が鞘に納まったまま切っ先を前に向けた。

 すると、少女はその場にペタンとへたり込み、まるで体に重しをつけられた様に身動きが出来なくなっているようであった。



「かっ…………体が……う、動かない……!?」



「ぬふふ。これで逃げられはせんぞォ……さあ、いいこだから、そこでおとなしく……」



火行(カギョウ)火鼠(ヒネズミ)】!!」


 

 私はとっさに陰陽術を使った。小さな火花が地を這いながら進み、男と少女の間を分断するように走った。



「ヌー!? 陰陽術!? 何者だッ!」



 男がそう叫びながら刀を引くと、少女は拘束から解放されたようで、立ち上がって男との距離を離した。



「はあ、はあ、金縛りが解けた……? ……って、魔女!?  お前がなんでここに……!?」



 少女が私の事に気付き、驚いた表情を見せる。私の方も彼女がガンダブロウさんと一緒にいた女の子だと気付いた。 



「このコに……何かしたの?」



「なに、少しもてなして貰っていただけよ……」



 私が質問すると、男ははだけた服を正しながら平然と笑って答えた。

 どうやら、この世界にはガンダブロウさんのようなイイ人ばかりという訳でも無いらしい。



「それよりも貴様が(くだん)の女だな」



 男が私の事を()めつける。舐めるような目つきに鳥肌が立つ。



「タタミ砂漠で無許可で陰陽術を使っていたそうだな」



「……」



「怪しい女は捕らえて取り調べせんといかんなぁ」



 どうやらこのサイテー野郎は私にも何かするつもりらしい。本当に頭にくるし、おそらく私が術を使えばこいつを倒せるだろう。



 でも、ダメだ。さっきはとっさに陰陽術を使ってしまったが、この世界の人にチカラを使って危害を加えるのはフェアじゃない。



 たとえ相手がどんヤツであっても、この世界の(ことわり)を乱すことはやってはいけないような気がする…………私は兄貴とは違う。



「行くよっ! 走れる?」

「えっ?」


 私は少女の手を掴むとそのまま見張り棟を後にした。向かう先は西の雑草地帯……()()()の居る所だ。



「ぬっくっく! 逃げる女を捕まえて力付くで犯す……この世で一番の快楽だな」



≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶

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「よし、今日の分は終わりだな」



 俺はいつもように刈り取った雑草を袋に詰め台車に乗せると、いつもの様にむなしい達成感を得ていた。


 アカネ殿は行ってしまった。いや、行かせてしまった。

 俺は見張り兵としての責務も放棄し、己の我も通せなかった。公人としても私人としても中途半端な判断をしてしまった。


 俺はアカネ殿が現れた事に対して、この退屈な日々が変わることを期待した。だが、結局変わらなかった。いや、変われなかった。変わる度胸がなかったのだ。



 折れてしまった剣が元には戻らないのと一緒で、一度くじかれてしまった俺の足では、もう立ち上がる事は出来ないらしい。



 俺は凡庸な兵らしく、彼女を取り逃がした事への言い訳でも考える事にしよう。情けない話だが、目を離した隙に逃げられてしまった事にすれば、何とかごまかせるだろう。



 ……そういえばサシコからまだ報告が来ないな。いくらなんでもそろそろ司令府の使者も来ないとおかしいが……



「た、太刀守(たちのかみ)殿~!」


 噂をすれば、か。サシコが呼びに来たという事は司令府から使者が来たのだな。


 そう思って、振り返ってみるが……何やら様子がおかしい。



「な!? サシコどうした、その格好は!? ……というかアカネ殿!? てっきりもう地図を持って旅立ったとばかり……」


「ガンダブロウさん! 度々ですいませんが、またひとつ頼みたい事があります!」



 ……頼み?? 地図が見つからなかったのか?? そもそもサシコとアカネ殿が何故一緒に??

 いまいち状況が飲み込めないが……


太刀守(たちのかみ)殿……あいつ……あいつが……」



 サシコが怯えた顔で、来た道の方を指差す。



「ぬっはっは! 逃げろ! そして怯えろ! 抵抗されればされるほど、組伏せた時の愉悦が増すというものだ!」


 彼女たちの来た道から浅黒い肌の大男が追ってきているのが見えた。

 俺はその男の銀色の腕章を見て驚いた。



「葵紋の腕章……御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)!? バカな! なぜ、奴らがこんな所に!」



 御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)は部隊こそ違えどエドンの王城に仕えていた頃の同僚で、キリサキ・カイトに城を攻められた時には共に戦った間柄でもある。しかし、その時の戦闘で部隊の大半の者が討死。今は併合された各国より最強の兵を選りすぐって再編され、(みかど)直属の部隊としてウラヴァの守護をしていると聞いていた。

 やつもはじめて見る顔だ。俺がこっちに来てから補充された兵であろう。



「サシコ、その姿はあいつにやられたのか?」



「うっうっ……」



「………………そうか」



 俺は目線を再びアカネ殿に移した。



「……して、アカネ殿。頼みとはあの男に関係することか?」



 彼女は俺の目をまっすぐ見据えて言った。



「ええ、そうです。ガンダブロウさんにあいつを倒して欲しいんです」



「……俺に頼まずともあなたの"地異徒(チート)の術"を使えば、あやつにも勝てるのではないか?」



「それは……なるべくならしたくないんです。神様に貰ったこのチカラはこの世界には本来あってはならないもの。だから、この世界の人との争いには使っちゃいけない気がするんです」



 不思議なものだ。



 異界から来た兄妹──かたや兄はその力を存分に使いジャポネシアを征服し、かたや妹はその力を使って戦う事を否定した。そして、その二人に直接関わった俺という男──兄からはすべてを奪われ、妹からは……立ち上がるチャンスを与えられた。くっくっく。何と数奇な巡りあわせか。



「おおー! ムスメども、そこにおったか! ん? 男もいるか……」



 おそらくあの男はタタミ砂漠の爆発の件で使わされた刺客。歯向かえば当然俺も反逆者だ。だいたい、こんないきなり現れた少女の頼みでお上に楯突くなど、どう考えても理屈に合わない。兵士としての筋が通らない。


 しかし、俺の覚悟は決まっていた。



 筋も理屈も──



 すべて叩き斬って、好奇が手を引く方向に突き進む覚悟だ。




 俺は立った。重い腰を上げ……自分の足で。

 



 今まさに大地を踏みしめて、立ち上がったのだ。




「ガンダブロウさん、あいつを倒せますか?」



「ああ、倒せる」



 俺はアカネ殿とサシコを後ろにやると、男に向かって一歩踏み出した。



 俺が今所持しているモノで武器になりそうなのは草刈り用の鎌だけである。

 一方男は刀を所持。攻撃手段のハンデは間違いなく大きい。



 しかし、だからといって俺の言葉は偽りや虚勢ではない。



「ぬん? なんだお前は?」



「……俺はここの見張り兵である。貴殿は御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)の一人とお見受けするが」



「ああ、そうだ。お前には用はないから引っ込んでおってよいぞ。用があるのは後ろの女にだ」



 男が下卑た視線を俺の背後にいるアカネ殿に向けた。



「無礼は控えて頂こう。あの方は帝の妹君である。いかに御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)のお方と言えど、帝の系類に無礼は許されまい」



「妹? 上様の"妹"は殿中におられる性奴……じゃなく、側室の方々の事だ。そんな女を殿中で見た事は無いぞ」



「アカネ殿は上様……いやキリサキ・カイトの血のつながった妹だ」



「…………お前、そのような事を本気で言っておるのか?」



「この方は……俺が責任を持って都にお連れする。そこをどいて頂こう」



「ぬっくっく! まあ、いいかァ…………逆らうのならば、それも一興! 久し振りに剣腕を振るえるというものだ」 



 どうやらこやつは私刑に剣を使う事に喜びを見出す類の輩らしい。



「ソレガシは御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)が一人、阿羅船牛鬼(アラフネギュウキ)だ! “バラギの牛騎士”と言った方が分かりやすいかな?」



  “バラギの牛騎士”……聞いたことがある。バラギ新陰流の使い手で、ジャポネシア統一の戦乱ではキリサキ・カイト側について名を上げた、と。そして、その剣技はある大剣豪から引き継がれたものだという……



「では、お主が“バラギの竜騎士”の弟子か」



「いかにも! バラギ最強の剣士で今は亡き緋虎(ヒドラ)青龍斎(セイリュウサイ)様の一番弟子だ!」



「なるほど……竜騎士は真の剣豪であった。その技を継ぐ弟子ともなれば、品性はともあれ腕は相当に立つと見た」



「ぬくく! その通り! ソレガシは竜騎士様直伝の剣腕を認められ、御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)に選ばれたのだ! 竜騎士様には及ばぬまでもソレガシの剣はお前如き十二分に…」



「戦場で竜騎士を討ち取った剣士の名は知っているか?」



「……ぬ? 何だと?」



「竜騎士は本当に強かった。ほんの僅かの差が勝負を分けたが、あの戦いは結果が逆になっていたとしても全く不思議ではなかった……」



「貴様……まさか……」



「名乗りが遅れて礼を欠いた。立ち会いは久し振りでな……我が名は村雨(ムラサメ)"太刀守(たちのかみ)"岩陀歩郎(ガンダブロウ)! 使う剣はエドン無外流『逆時雨(サカシグレ)』!」




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