第86話 二天ニ流!
前回のあらすじ:マガタマを巡る【統制者】と金鹿馬北斎の陰謀が明らかに!
※一人称視点 サシコ→ガンダブロウ
「ハクオカ理心流【天巌】! "東天紅"ッ!」
武佐木小路乃が剣を振ると、切っ先から稲妻を帯びた赤い光刃が放たれる!性質から見て「空行」の属性の技……さっき妖との戦闘で使った時には稲妻を放っただけだったけど、本気で打つとこうなるのね!
「ほっほぉ!」
光刃は金鹿馬北斎の張っていた結界に衝突!
バチバチと激しい音を立てると、そのまま結界を突き破って金鹿馬北斎に迫った。
「お〜っととぉ!」
金鹿はその老いた身体からは想像もつかぬ程の身のこなしで、光刃を回避する。光刃はそのまま廃墟の壁に激突し、轟音と共に炸裂し大穴を穿った!
す……凄い!なんという破壊力なの!
詠唱を用いる陰陽術と違い、剣士の技は予備動作が少ない代わりに極端な威力は出ないものだ……と聞いている。しかし、武佐木小路乃の技の破壊力は陰陽術にも匹敵する。
「ヒェッヒェッヒェ! 危ない、危ない……流石は紅鶴御殿始まって以来の天才と呼ばれただけはあるの〜」
「えっ! 紅鶴…………って、あ!」
お、思い出した!
武佐木小路乃!どっかで聞いたことがあると思ってたけど、七重隊長に修行してもらっていた時に聞いたんだ!
確か、なるのに最低数年の修行を要する紅鶴の近衛兵に、たった1年の修行でなってしまった天才で、2年ほど前、さらなる剣の高みを目指すと言って紅鶴御殿を出奔したとかいう……
「ハクオカ理心流【天巌】…………」
七重隊長は彼女を今まで見てきた中で一番の才能を持っていたと称していた。そして、「剣に関してはあのコに私が教える事は何もなかった」「2年前はまだ私でも手に負えたけど、今戦えば私は負けるかもしれない」とまでおっしゃっていた。その時は、あの鬼のように厳しい七重隊長にそこまで言わせる人がいるのか、と驚いたけど……
まさか、その人が御庭番十六忍衆の弟子になっているなんて……一体なにがあったの!?
「"西波碧"ッ!!」
武佐木小路乃は剣を地面に突き立てると、今度は緑色の電撃が地面を走り金鹿馬北斎の足元を襲った!
「のほ〜ッ!痺れるわい!」
電撃を受けた金鹿は動きを止める。
武佐木小路乃は地面から剣を引き抜き、更にそこから畳みかけるように跳躍し、一気に間合いを詰めた。
「ハクオカ無外流【天獅哮】……」
ムムッ!さっきとはまったく違う構えと動き……こ、この身のこなしは無外流!太刀守殿と同じ型だ!このコ、2つの流派の剣技が使えるのね!しかも……
「"破崘炎舞"!!」
切っ先から爆炎を放ちながら、斬撃を打ち下ろす!
これは「空行」じゃなく、「火行」の効果!
武佐木小路乃は、熊野古道伊勢矢と同じく二つの属性が使えるのね!
「……ふッ!」
武佐木は勢いのままに激しく踏み込むと、再び張られた結界をいともたやすく破り、そのまま電撃で痺れて動きの鈍い金鹿に斬りかかる!赫灼と燃え上がる刃は金鹿の左手を切り落とし、肩口にまで深々と傷を負わせた!
「おほオっ!」
金鹿は飛び退いて距離を空けると、焼け爛れた自身の傷口を見てニタニタと笑みを浮かべた。
そして、深手を負わされた事など意にも介さない様子で、金鹿は武佐木の剣技を称賛し始める。
「ほー、凄いのお!艶やかでいて荒々しく……それでいて神速!恐ろしくも見事な剣技じゃあ!美美っときたぞお〜!」
うっ……痛くないの!?傷口から血、どばどば出てるケド……何でけたけた笑っていられるの?金鹿馬北斎、やっぱりヤバイ!凄くヤバイよ……
「しかし、よいのかな?吾輩を殺してしまえば君たちの探しているマガタマの在り処は分からなくなるぞぇ?」
「マ、マガタマ!?」
マガタマ!武佐木小路乃がマガタマを探してるって事は……富嶽杯の優勝者が見られるというマガタマはやっぱり本物!?御庭番十六忍衆同士でマガタマを奪い合ってるの!?
おおお……詳しい事情は分からないけど、アタシらが知らない所でとんでもない事が起こってるみたいね……なんか背筋がゾクゾクしてきた!
「うーん…………あとで探す?」
「ほっ?」
「面倒な事は師匠に任せるたい。アンタを斬ってしまえば、後はなんとでもなるやろう」
「ヒェッヒェッヒェ! いかした答えじゃ! ますます気に入ったぞぇ!」
おおー、武佐木小路乃も中々ぶっ飛んでるわねえ。まあ、富嶽杯の事が本当なら、マガタマを隠してるのはこのミヴロのどこかだろうし、探せない事もないかもだけど……
うーん、しかし……これ、アタシどうするのが、いいのかしら?
このままだと武佐木小路乃が勝っちゃいそうだけど……
アカネさんの旅の目的は、マガタマを見つけなければ達成できないのよね?事情はよく分からないけど、金鹿馬北斎がマガタマを持っていて、御庭番十六忍衆を裏切ったのがマガタマを巡っての事ならば、今ここで金鹿馬北斎に加勢し恩を売っておけば後々マガタマを貸してくれたりとか、便宜を図ってくれるかも……仮に今後どちらかと戦う事になるにしても御庭番十六忍衆の残り全員と争うよりは金鹿馬北斎1人の方が御し易いだろうし。でも……
「金鹿馬北斎、覚悟!」
「その不断の決意!己が力への不遜なまでの自信!原初の大地から新世界を切り拓くにはそれくらいの気概が必要じゃ…………しかし……」
と、アタシが逡巡してる内にも状況は刻々と変化する!
武佐木小路乃は金鹿馬北斎にトドメを刺すべく、再び間合いを詰めて燃え盛る剣を振りかざした!
「忘れてはおらぬかな?相手がこの金鹿馬北斎だと言う事を……」
金鹿は怒涛の勢いで迫る武佐木小路乃に怯む様子もなく、懐から一枚カルタの札のようなものを取り出した。
「解★封!」
≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶
∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦
≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶
「「 何者だ!! 」」
俺と明辻先輩は小屋の外からの物音に対し、ほぼ同時にそう叫ぶと扉を開け放って外に飛び出した。
するとそこには、体のあちこちに切り傷を負った男が息も絶え絶えに倒れ込んでいた。
「唐沢ッ! その怪我はどうした!?」
む、明辻先輩はその男を知っている様子。という事はこの男も【統制者】の刺客……か?
「ぐあ…………い、泉綱さん。ふ、不覚を取りました……」
男は満身創痍の身体から何とか声を絞り出す。
「先輩、この男も我々と同じ刺客ですね?」
「ええ、そうよ!金鹿の本拠地を探るため他十数名の手練と共にミヴロに潜入していたのだけど……」
なるほど。俺たちとは別の部隊が斥候をしていたのだな。大方、彼らが居場所を探り、判明次第俺と明辻先輩とを主攻に奇襲する作戦だったのだろうが、この様子だとどうやら敵に見つかり返り討ちにあったのだろう。
「や、やつの居場所は分かりました……だが、やつの本拠地には強力な私兵たちが守りを固めており……我らは見つかって反撃を受け……わ、私以外の者は、ぜ、全滅…………」
「分かった!もう喋るな!」
相当な深手だ。今から手当しても命は助かるかどうか……
しかし、【統制者】が選抜したという彼らは、斥候とはいえそれなりの腕を持つ手練だろう。それを全滅させる程の力を持つ私兵とは……金鹿もマガタマを奪って【統制者】と事を構えるだけあって相当な準備をしていたと見える。
「い、居場所だけは……い、泉綱さんに伝えようと……何とかここまで逃げて…………」
斥候の男が、最後の力を振り絞って掴んだ情報を彼女に伝えようとした、その時……怪しげな呪力が近くの茂みから発されるのを感じた!
「金鹿馬北斎、やつの本拠地は…………」
「先輩!危ない!」
茂みより、粘液のような無色の液状物質がこちらへと放たれる!
明辻先輩は寸でで攻撃を回避したが、斥候の男を抱えて避ける余裕はなく、男の身体に液体が命中した!
「グバァ!!」
ぬぅ!これは……酸か!?
男の身体は一瞬の内に煙を上げて溶解!
数秒すると、ドロドロに溶けた肉から骨が剥き出しに晒された!
「か、唐沢!」
近寄って確認するまでもなく、唐沢という斥候の男は死亡。
次いで、茂みからは下手人の下卑た笑い声が響く。
「げへへへへッ!泳がせれば他の仲間のとこに逃げると思ったが、大正解だっつって!」
姿の見えぬ攻撃者の声はそうあざ笑うように話した。
……むっ!では男は逃げられたのではなく、芋づる式に仲間をあぶり出すためにわざと逃されたのか!なんと酷薄で老獪な戦術!俺たちはまんまと罠に嵌められた訳か!だが……
「何者だ!姿を現せッ!」
尾行してきたのは、相手に感づかれないため恐らくは少人数。もしかすればこの声の主1人かもしれん。それに追手は俺たちの実力を計算に入れてはいないはず……ふん!では、教えてやろう!罠に嵌めて追ってきた先が、猫ではなく虎の巣であるという事を!
「げへへ!威勢がいいのがいる様だが、アッシのこの姿を見てもまだ元気に吠えていられるかな?」
そう言って姿を表した追手の男は茂みから姿を現した。
「なッ!?」
「その姿は……!?」




