第85話 マガタマの秘密・第2弾!
前回のあらすじ:金鹿馬北斎の正体は"御珠守"の称号を持つ男・玲於灘瓶中だった!
一人称視点 ガンダブロウ→サシコ
「なっ!? み、"御珠守"……ですと!?」
俺は明辻先輩から告げられたその名前に驚愕した。
"御珠守"は"太刀守"と同様、このジャポネシアにおいて1つの道の頂点を極めし者にのみ贈られるいにしえの称号──"太刀守"が当代最強の武芸者に対して与えられるのに対して、"御珠守"は当代最強の陰陽術士に与えられる称号だ。
そして、その66代目に当たる玲於灘瓶中は、シマネディア神国のデグモー聖堂で大司教の地位にいると聞き及んでいた。大司教、つまりこの国の神事を司る役職で最高の地位であり、マキの司教よりも更に高位かつ一握りの者にしか名乗ることを許されない。
その"御珠守"が正体を偽り、御庭番十六忍衆に名を連ねていた事自体にわかには信じがたいが、明辻先輩が次に発した言葉は更に大きな衝撃を俺に与えた。
「ええ。ヤツに奪われたマガタマを奪い返す事が今回の作戦よ」
「!?」
マガタマ……ここでマガタマか!
アカネ殿の参加する【富嶽杯】の優勝者に、副賞としてマガタマを見る権利が授与されるというのが、俺たちをミヴロに導いた風説である。半信半疑のままであったマガタマの存在が、今明辻先輩の言葉によってにわかに真実味を帯びる。
「マガタマとは……あの伝説のマガタマの事ですよね?」
「そう」
「では金鹿馬北斎が所持するというマガタマは本物なのですね?」
「ええ。信じがたい事だけど」
むむぅ……御庭番がマガタマを所持している、といういかにもキナ臭い話を聞いた時は本物であるはずがないと疑う反面、真実であれば旅の目的の1つであるマガタマ探しが一気に解決に近づくという期待感もあった。
しかし、そう聞かされて素直に「やった!マガタマの在り処が分かったぞ!」と喜べるほど俺の頭は単純じゃない。
「マガタマの在り処は創世紀以降、誰も知る事がなかったはず。何故それが今になっていきなり世に出てきたのか。しかもそのマガタマを巡って争奪戦まで行われてるとは……その辺りの経緯、ご説明頂けませんか」
「分かったわ。私も全てを知っている訳ではないから、かいつまんだ説明になってしまうけど……」
そう断りをいれて、明辻先輩は此度の事件のあらましを説明しはじめた。
「まず、マガタマの所在についてだけど…………これが知られていなかったのは表向きの話で、歴史の裏側ではマガタマを密かに見つけて管理していた一族がいるの。私が依頼を受けたのはそのさるやんごとなき一族に関係する方よ」
マガタマの管理者。
これはキヌガーでマキから聞いた話と一致した情報であるが、明辻先輩は更に踏み込んだ情報を教えてくれた。
創世紀より以前からマガタマの保管を任じられた神官の一族──【統制者】と呼ばれるらしい──は、定期的にマガタマが各地を転移するその度、ジャポネシア各地を巡ってはマガタマを探し当て、他者に利用されぬよう秘匿・監視する役割を何千年、何万年と繰り返してきたという。(ここまではマキの研究通り)。
そして、【統制者】たちは現代においては旧エドン公国領におり、いにしえからの役割を変わらず果たしていたのだと……むっ!ということは……
「つまり、マガタマはエドン国内にあったのですか!?」
「ええ。そうよ」
なんと!マガタマは俺の生まれ育った国であるエドンにあったのか!灯台下暗しとはまさにこの事!
これを聞けばマキはさぞ悔しがるだろう……なんせ自分が居た場所の近くに求めてやまなかったマガタマがありながら、それに気づかずエドンから遠く離れてしまったのだからな。
しかし、いかにエドン広しといえど、誰の目にも触れることなくマガタマを秘匿し続けるなど本当に可能か?手前味噌ながら俺の故郷エドン公国はジャポネシアでも有数の先進国。検地や国土整備はかなり精密に行っていたはずだが……
「【統制者】は数十年前にエドンでマガタマを発見し、すぐさまその場所にお社を建ててマガタマを奉じた。そして、その存在を秘匿し守るため、彼らは人知れずエドンの内部にも深く入りこみ、軍や王家にも影響を持つまでになるとエドン国内の権力を利用して、他国や一般市民がマガタマに近づけないよう手を尽くしていたの」
ななんと!国家に潜入し、国家そのものの力も駆使してマガタマを隠していたというのか!
しかし、俺とて元はサムライ師団の近衛兵長。国家の中枢にかなり近い位置にいたが、そのような勢力が政治に干渉していたなど全く気が付かなかった…………いやはや、驚きの連続だ。
「彼らは時代時代のマガタマの所在地で、しばしば同じような事をしてきた。国の支配者に近づき、権力を掌握してマガタマの保護体制を強化する。そして、マガタマが転移する周期が来るまでの間をその国で密かに過ごすと、当地に影響力を与える勢力基盤を残し、マガタマの転移と共にその地を去っていく。そうやって盤石にした各地の支援体制を元に【統制者】たちは幾百代に渡ってマガタマを管理してきた。そして、今回も歴史の裏側でマガタマの管理をつつがなく実行していた……でも、今からおよそ6年ほど前。彼らにとって想定外の事態が起こった」
「想定外の事態?」
「ええ。想定を超える程強力な外圧……異界人キリサキ・カイトの侵攻よ」
む、そうか!【統制者】たちは既存の権力構造を巧みに利用して、マガタマの管理をしてきたというが、既存のどの権力にも属さないキリサキ・カイトが権力を掌握した事でジャポネシアの支配構造は一変、積み上げてきたマガタマの管理体制にも影響が及んだという訳か!
まさにちゃぶ台返し。何百年、何千年とかけて築いた既得権益をいきなりぶち壊されたのでは、【統制者】とやらもさぞ困り果てた事だろうな。
「それでも、【統制者】たちの一部は新生サイタマ共和国の内部にもうまく残り、マガタマの管理を継続したが、混迷を極めるキリサキ・カイトの政治下では盤石だったマガタマの管理体制にも翳りが生じていた。そして、その間隙を突くように、ついにマガタマの存在に気付く者が現れた」
「それが、"御珠守"…………玲於灘瓶中という訳ですね」
「その通り。デグモー神殿の大司教としてマガタマの研究をしていた玲於灘瓶中は、【統制者】の支配が緩み、わずかに外部に漏れ出たマガタマの情報から旧エドン領にマガタマがある事をつきとめた。ヤツはマガタマに近づくため、金鹿馬北斎と名を変え、サイタマ共和国の中枢である御庭番十六忍衆に密かに加入した。内偵の末、マガタマを奉じるお社の場所を探り当てると、隙をついてお社を強襲。マガタマを奪ってそのまま北へと逃走したの」
「で、慌てた【統制者】たちは刺客を組織して"御珠守"を追撃…………今に至るという訳ですか」
「そう。私もあなたも、彼らに刺客として選ばれたの」
「確かに"御珠守"が相手となれば、同格の"太刀守"である俺や手練の明辻先輩が選定されたのは納得がいきますが……なんとも勝手な話ですな」
確かに絶大な力を持つというマガタマの力を悪意ある者が手にすれば、この世界でキリサキ・カイト以上の驚異になり得るかもしれない。それを防ぐ事は、ジャポネシアに生きる俺達にとっても重要な事だというのは理解できる。しかし、公益のためといって「緊急事態だから当然協力してくれるよね?」というのは何とも気に食わないというか、【統制者】という連中の傲慢さを感じさせる。
まあ、俺としては協力の見返りとしてマガタマを一時的に使わせてもらえるよう優位に交渉したい、という打算もあるし、他ならぬ明辻先輩の頼みであるなら断るつもりはないが……
「あらましは分かりました。そういう事ならば微力ながら助太刀いたしましょう。しかしながら、気がかりなのは【統制者】とやらの思惑。マガタマの奪還それ自体はよしとしても、ここまで情報を明かした我らを作戦成功後もタダで生かしておく保証はない」
「……」
「その事は先輩もお分かりのはずですが、それでもなお彼らに手を貸すのはジャポネシアの平和と公益の為だけですか?」
「そ、それは……」
「やはり……人質を取られているのですか?」
「…………ガンダブロウ。私は……」
明辻先輩が何かを話そうとしたその時……水車小屋の外から物音がした。
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「よ・う・こ・そ!強き少女たち!吾輩は金鹿馬北斎…………突然だけど君ら、新世界は興味ある?」
「し、新世界??」
御庭番十六忍衆・金鹿馬北斎は突如現れるなり、興奮気味にまくしたてる。
「そう!新世界!」
あまりに突拍子もない質問。
次から次に起こる急展開にまだ頭がついていかないのに、更に追い討ちをかけるかのように金鹿馬北斎は喋り倒す。
「進歩を忘れた下らぬ大人や古い価値観のない無限の原野!汚れのない雄大なる原初の景色!その上に我らが始祖となって開闢する、新たな神話!君たちの若さとまだ完成を見ぬその無限の才だけが歴史の定礎となるのだ!どうだい?美美っと来ないか?美美っと」
な、何を言っているのかまったく分からない……けど、1つだけ分かる事がある。コイツがとてつもなく危険なヤツだという事だ。
「……何言っとるかちっとも分からんばい」
「んっ?」
おお……冷静。
武佐木小路乃は金鹿馬北斎の狂気にも動じず、刀を抜き構えた。
「君は下がっとってくれん」
あたしにそう声をかけると、武佐木小路乃は先程よりも強く呪力を発し、金鹿馬北斎に視線を定める。そして、その時──ほとんど動く事のなかった口元が一瞬にやりと動いた気がした。
「……お、お、おおっ?」
「師匠からは止められとるけど、こんな大物と戦う機会はそうはない。強者を見れば戦いとうなるのが剣士の性やけん…………武佐木小路乃、いざ参る」




