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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第81話 夢と創造の町ミヴロ!

前回のあらすじ∶様々な思惑が錯綜する中、一行は危険を承知の上、玩具の博覧会が行われているという町ミヴロへと向かう……果たして、そこでガンダブロウたちが目にするものとは?



「ふぅ…………こりゃ凄いな」 



 押しては返す人の波をかきわけ、数多の出店が立ち並ぶ大通りを進んでいると、感嘆の声が自然と漏れ出ていた。



「さあー、よってらっしゃい見てらっしゃい!」



 あちこちから威勢のいい呼び込みの声が聞こえる。

 夏の訪れを感じさせる快晴の陽気と祭りの喧騒。汗を拭いながら周囲を見渡すと、実に様々な玩具が店先を飾っているのが見えた。



 いやはや、それにしてもすごい数の玩具だ。



 凧やけん玉、羽子板のような伝統的な玩具に金属製のコマのような玩具やからくり人形などの最新の玩具、果ては春画の描かれたメンコのような札など…………俺が子供の時分では信じられないほどの玩具の数と質に目移りしてしまう。



 うーむ、これも戦乱が終わり、表面的にだけでも平和が訪れた証拠なのだろうか……



 旧トッチキム領ミヴロはかつては城塞や大砲などに使うからくり機巧の工場で栄えた町だが、今は玩具製造が盛んで板岱屋をはじめとしたその筋の商店が多く拠点を持つという。キリサキ・カイトは玩具の開発には積極的に支援を行う政策を行っているらしく、この町は因縁ある旧トッチキム領にあって唯一例外的に国から優遇措置を受けているのだとか。

 そして、今日その縁を活かした催しとして「全国玩具大博覧会」と称した祭典が開催されている。その祭りには周辺や地域のみならず全国から玩具を愛する人々が集結し、町の規模としてはウィツェロピアの半分もないにもかかわらず、今まで旅で訪れたどの町よりも熱い活気を感じさせた。

 


「そこのダンナ!」 



 ふいに呼び止められる。



「ん、俺のことか?」


「そうそう、そこのアンタさ!ちょっとこっち見てきなよ」



 黒く焼けた肌の気前の良さそうな店の主人は店先に並ぶなつかしい竹細工の玩具を捕れたての魚とばかりに紹介する。

 


「ほう。竹とんぼか」



 まだ年端もいかぬ童の頃。

 剣の道を志して道場の門を叩く前、俺にもこのような他愛のない玩具に興じていた時期が確かにあった。そう思って、1つ竹とんぼを手にしてみると、自然と笑みがこぼれ落ちる。



「なつかしいでしょう。童心に帰るつもりでおひとつどうですか?」

 


 ちらりと値札を見るとそこには90銭鍍と書かれていた。



「そうだな。それじゃ1つもらおうか」



 わずかそれほどの金子で無垢な童心のさわやかさを得られるなら買得と一つ買ってみる。



「太刀守殿〜! 何をされているのですか〜!」



 サシコの呼ぶ声だ。


 おお、懐かしさについ足を止めてしまったが今はそれどころではなかったな。



「早くしないと置いてっちゃいますよー!」



 続いてアカネ殿の声もする。



「すまん!今行く!」



 俺たちがこれから向かう先にはどのような危険が待ち構えるとも分からないのだ。思い出にふけり童心に帰るのは、また今度にしておこう。





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「おお、あれか!」



 大通りの喧騒を抜け街の中心部に出ると、すぐに街を寸断するように河が通っているのが目に入り、同時にその河には豪奢な装飾の船が浮かんでいるのも確認できた。川幅をほとんど埋める巨大な船体は両岸に迫り出さんほどの大きさでありその高さは城塞や高楼と見紛うほどである。この能飽(のあ)の方舟という豪華客船──これこそアカネ殿が参加する小決闘の大会【富嶽杯】の会場なのだ。



「いやー、大っきいですね〜!」


「うむ、海を渡る貨物船でもこれほどの大きさは見た事がない」



 いやはや、玩具の大会で使用する会場にはとても思えないな。まったく信じ難いが、板岱屋はどれほどの資本をこの大会に投じているのか。検討もつかん。



「ようこそ!お待ちしてましたよ!マ()シタ・アカネさん!」



 船付き場に到着すると出迎えたのは、あの夜、少年たちの小決闘(コケットー)を取り仕切っていた胡散臭い審判……確か更井とかいったな。



「どーも〜」



 やたらと高揚する更井と対象的にアカネ殿はそっけなく答える。



「さあさ、こちらへ! 船内の控室にご案内しますよ!」



 集合時間は正午だが、試合開始は夕刻から。それまで参加選手は船内の控室で待機する予定と、参加要項にも記載されていた。アカネ殿に続き、俺とサシコも入船しようと舷梯に足を踏み入れたが、そこで更井に止められる。



「おっと、部外者の方はこちらには入れませんよ」


「部外者って……あたしらはアカネさんの旅の仲間ですよ」


「仲間であろうと家族であろうと入れない規則なのです。開場時間になれば観客席に入れますからそれまで外で待っていてもらいましょうか」



 とりつくシマもなく、門前払い……か。


 チラリとアカネ殿に視線を送る。 



「……」



 アカネ殿は無言のまま視線を合わせ、コクリと1つ頷いて見せる。


 

 …………うむ、ここまでは想定の範囲内だ。



 ここに来るまでの2週間、アカネ殿とサシコとは富嶽杯当日に想定される事態について何度も議論をかわした。


 その中で、まず考えたのが御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)金鹿馬北斎(カネシカマホクサイ)とやらが仕掛けた罠の可能性である。あまりにも都合の良すぎる時期と報酬内容であるからして、マガタマの話は俺たちをおびき寄せる餌なのではないか……という疑問。これは当然に疑うべき事だろう。

 

 だがしかし、いくつかの点を検討した結果、これは可能性としては極めて低いという結論になった。

 まず、今回の報酬として俺たちの目を引いたマガタマの存在だが、御庭番の連中はアカネ殿がマガタマを欲しているという情報をまだ知らないはずである。仮に何らかの方法、例えば紅鶴御殿に間者を送りマキやヒデヨちゃんから情報を聞き出すなどしてアカネ殿がマガタマを欲している事を知り得たとしても、これだけ人員と資本を投じた町ぐるみの仕掛けを打つにはいくら何でも準備時間が短すぎる。


 さらに御庭番の名前をわざわざ公開して、こちらに警戒感を抱かせているという点も奇妙だ。落とし穴の上に「落とし穴注意」と立て札を立てる者はいない。むろん、そこまで含めてこちらの心理を読み、裏の裏をかいたという可能性も無いわけでは無いが、他のいくつかの点も考慮しやはり俺たちを直接狙った罠であるという可能性はまず無いだろうと言えた。



「アカネ殿。では、お気をつけて」



 むろん、俺たちへの直接の害意でないにせよ、誰かしらの悪意をはらんだ思惑が介在しているのは間違いないだろう。あの明辻先輩の文の件もあるし……




───────────


─────


───

 


「「 元カノからの恋文!? 」」



 明辻先輩からの文を受け取った事をアカネ殿とサシコに打ち明けると案の定の反応が返ってきた。



「なんでそーなる!? ちゃんと話を聞いておったか!?」



 流石に事態が事態なだけに隠しておく訳にもいかないので話したが……

 くそっ!女子どもめ……やはりこうなるのか。



「だっておかしいじゃないですかっ! わざわざ手紙を隠してた訳だし……それに文面もさぁ」


「二人で話がしたい……て! ねぇ! これは……いやぁ……ねえっ?」


「きゃー!」



 うぐぅ。これだから嫌だったのだ……マキの時もそうだが女が絡むといつもこうなる。

 …………まあ、確かに俺は少年兵時代に先輩に、尊敬とは別の感情をもっていたのは事実。それは事実なのだが……



「だ・か・ら! ハナッからそういう関係じゃないんだよ先輩とは! 歳も9つ離れているし、だいいち明辻先輩は…………先輩はもうご結婚されているのだ!」



 そう。明辻先輩は今はもう結婚され、確か子供もいらっしゃる。

 たとえ俺が今も彼女を好きでいたとしても、既にそれは叶わぬ恋。道ならぬ懸想なのだ。



「分かったか! だからこの話とは君らの考えるような事とは何の関係も……て」



 ん?

 今の今まできゃーきゃーと騒ぎ立てていた二人の表情が明らかに曇りだす。



「え……既婚者が相手って……まさか略奪愛?」


「太刀守どの……人妻にまで手を出すなんて……見損ないましたよ!」


「ないわー。不倫はさすがにドン引きぃ……」


寝取守(ねとりのかみ)! この寝取守(ねとりのかみ)!」



 んがあっ!?

 こいつらまだそんな妄想を……!?


 まったく最近の十代の女子の頭の中は一体どうなっているのだ?



「あーもう!いい加減本題を話させてくれ!」



 強引に淫らな話の雰囲気を断ち切って、主題を切り出す。



「明辻先輩は今は引退しているが元はサムライの連隊長を勤めたほどの方!御庭番はもとより旧エドンの緒勢力との繋がりも深い!」



 俺が話しておきたいのは俺と明辻先輩との男女の仲がかつてどうだったかという事ではない。彼女がサムライとして軍部でも高い地位にいて、今のサイタマ共和国においても謀主となりうる可能性のある層とも繋がりうる地位にいる。



「御庭番衆の能面法師(ノウメンホウシ)とやらは俺の顔や技を知っていた。サイタマ共和国の内部に旧エドン軍に関係ある人物がいるのは間違いないが……」 


「……そ、それが明辻さんの可能性もあるという事ですか?」


「違う…………とは言い切れない。俺は彼女の人となりはよく知っている。彼女は卑怯な陰謀に進んで加担するような人ではないが、自身の意図とは別に動かざるをえない事もあろう」



 そう。彼女はたとえ自身の命が危険に晒されても俺の情報を売ったりはしないだろう。しかし、それが自身の家族の命とあれば話は変わってくる。


「じゃ、じゃあ、明辻さんが誰かに脅されて旧知のガンダブロウさんに接触を図ろうとしてるかもしれない……と?」



「むろん、憶測の域は出ないがな。能面法師に限らず御庭番の連中は何かキリサキ・カイトの命令だけでない、独自の行動理由がある気がするのだ。謀略の糸を引いているのが誰なのか、どのような思惑なのか。それは分からん。しかし、今この時期に渦中のミヴロで俺と会いたいというのが、偶然とはとても考えられない」



 闇の中に垂れた複数の糸。その主は悪魔の釣針か仏の助けか。

 あるいは寓意の産物か。複雑な情勢である事は間違いないが、ハッキリとしている事もある。それは少なくとも今俺たちは自由に行動を選択でき、罠にせよ偶然にせよ進むべき道標が目の前にあるという事だ。



「では、この手紙は無視して待ち合わせの場所には向かわないのですか?」



「………………………………………いや」



───


─────


───────────




「ガンダブロウさんもお気をつけて」



 アカネ殿はそう言うと、船の内部に繋がる舷梯を登っていきやがて姿が見えなくなった。


 いかに罠の危険性は低いとはいえ、大会参加要項の記載に間違いがなければ御庭番が近くに潜んでいる可能性が極めて高い。遭遇してアカネ殿の正体が知られれば、戦闘状態に入る可能性ももちろんあり得る。その時は急ぎ援軍に向かわなければならないが、彼女の立ち回りを信じて今は俺の任務を果たす事に専念しよう。



「さて、俺たちも行くか」


「……太刀守殿。本当に一人で行かれるのですね」



 サシコか不安そうな表情でこちらを見る。



「ああ、心配はいらないよ」



「やはり、あたしも付いて行った方がいいのではないでしょうか?」 



「おいおい。今日の手はずはちゃんと伝えただろ?サシコは連絡役として町で待機し、俺かアカネ殿に何かあれば狼煙で合図を送るから状況に合わせて援軍に向かう……これって凄く大事な役だぜ?」



 そう、サシコにはいわば後詰の遊撃隊としての役目を担ってもらっている。サシコはもっと俺たちの傍らで直接役に立ちたいと思っているようだが、連絡や後方支援も戦場では前線と同等以上に重要な任務だ。 



「で、でも……」



 もちろん、それは建前でサシコにはなるべく危険を犯してほしくないという思いもある。彼女にも剣の道を極める夢があるの理解しているが、俺やアカネ殿ほど今回の旅で直接の益を得る訳ではないのだから、当然その分負担も減らすのが筋というもの。まあ、この事を口に出してサシコに言ってしまえば、ダダをこねられるのは目に見えるので言わないが。



「なに。明辻先輩はたとえ脅されていたとしても卑劣な罠を仕掛けるような人じゃない。それに、あるいは俺の危惧など単なる杞憂で、サシコの言うとおり不義の愛の告白という可能性だってあるさ」



「……そっ! それはそれで困ります!」



「ははは。それじゃあ、な」



 俺は冗談めかした態度のまま、サシコに背を向け約束の地へと向かう。



 目指すは町の最北部の水車小屋だ。




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