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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第80話 混迷の祭典へ!

前回のあらすじ∶富嶽杯の参加要項、そこに記載された驚愕の優勝賞品とは……


※また、ガンダブロウ視点に戻ります

───────────


─────


───



「はアッ、はアッ!」



 どれほどの時間が経っただろうか。

 阿修羅のごとく無心に剣を振り続け、身体に纏う鮮血が返り血か自分のものかすらも判然としなくなった頃。気がつけば剣を振るう相手はもうおらず、朱く染まる幾多の骸に俺自身も重なるように倒れ込んでいた。



「新入くん、生きてる?」


「…………い、一応」 



 自身を見下ろす上官に何とか返事だけは返す。



「はあ、はあ…………て、敵はもういませんか?」



「たぶん、ね」



 小隊長・明辻泉綱(アケツジイズナ)は息を様子もなく、また返り血ひとつ浴びないその姿で唯一血染めの剣を綺麗に拭う。



「はあ、はあ……やったんですね。俺たち……」



 奇襲したダイハーン軍部隊の拠点に逆奇襲をかける……大胆極まりないこの作戦は、当初敵の数を二十〜三十ほどと見積もり決行したが、異変に気づいた部隊が帰還し、さらに数十人の相手と二人で戦う事となった。


 死闘の果て、味方のフューゴ軍の援軍が拠点近くまで迫った事を察知した敵部隊が自陣深くに撤退した。作戦は成功。初陣を勝利でかざる事ができたが、俺は勝利の興奮をすら感じる事無く、戦傷と疲労で動く事すらままならなかった。



「ええ。この拠点を落とした事で、今後の戦いもだいぶ楽になるわね」



 明辻隊長は剣を鞘に納めながら、ケロリとした表情でそう答える。

 俺より十人は多く敵を斬ったはずだが、戦闘後のこの余裕。体力を使い切って立つこともままならない俺とは大違いだ。これが一流のサムライの実力か。くそっ!俺はまだまだ未熟……最強の剣士にはほど遠いなあ。


 と、俺が無意識に明辻隊長の姿に見惚れていると、ふいに彼女の方もこちらを向き、視線があってドキリとした。



「えっ!? あの……」



 彼女はズンズンとこちらに向かってくると、俺の羽織をひん掴み、突如として脱がそうとしてきた。



「なっ、こんな所で何をするんですか!?」



 ま、まさかこれは噂にきくアレ……!?

 ちょっと、いきなりでボクまだ心の準備が……



「何って味方に拠点を落とした事を知らせるために旗を掲げるのよ」


「え? は、旗?」


「わたしらサムライの羽織はね。こういう時のためエドンの軍旗になるようにあつらえられてるの」



 あ、ああ、そういう事……


 

「しかし、それならば隊長の羽織を使えば」


「あら? 女の着物を脱がす気?」


「あ、い、いや……」



 隊長は近くに落ちていた敵軍の旗をはずし、俺の羽織を取り付けると、イタズラっぽく笑った。



「ふふふ。腕は立つようだけど、まだまだウブいね。新入くんは」


「……ガンダブロウです」


「え?」


村雨岩陀歩郎(ムラサメガンダブロウ)。生き残ったら名前で呼ぶ約束です」



 隊長は旗を掲げると、再びニコリと笑ってみせた。



「…………そうね。よくやったわ。ガンダブロウ」




───


─────


───────────




 閑散とした夜の神社でアカネ殿を待つ事、数十分。



 俺は、ウィツェロピアで渡された文の主……明辻泉綱(あけつじいずみ)と出会った初陣の時の記憶を追想していた。



 幾多の戦場を共に戦った上官にして戦友。

 同門の先輩である剣の実力者…………そして、魅力的な女性でもあった。若かりし頃、彼女には本当に色々な事を教わった。戦場での心構え、公人としての立ち振舞、生活の知恵、そして……



 二人だけで話しがしたい……か。

 何故、今になってあの人は俺に文をよこした?



 いや、そもそも何故俺の居場所が分かったのだ?

 指定された場所、ミヴロには一体何がある?小決闘という子どもたちの遊びが何か関係してるのか?



 明辻先輩を騙る偽物という可能性もあるか?

 いや、「✺」の証文は先輩がごく一部の仲間と連絡を取るときにだけ使う本人証明の暗号だ。その可能性は極めて低いだろう……



 様々な考えが頭を巡るが、答えはでない。



「太刀守殿……」



 サシコが心配そうな顔でこちらを見つめる。

 勘のいいサシコの事だ。俺が木剣での立ち会いに際して気を取られていた事と、今俺が何かに思い悩む素振りをしている事が同じ事柄だと気づいているかもしれん。しかし、事ここに至っては俺も態度を隠せるほど、心乱さずにはいられなかった。



「……あっ! アカネさん!」



 サシコが帷幕から出てきたアカネ殿の姿を視認したようで、俺も顔を上げるとアカネ殿の姿をすぐに確認する事ができた。アカネ殿が手を振るサシコに気づくと、小走りでこちらに近づいてきた。



 何やら興奮気味の様子であるが…………



「もう、アカネさん! びっくりしましたよ、いきなり舞台に上がっちゃうんですから……」



「ゴメン、サシコちゃん! つい、アツくなり過ぎちゃって…………でも、とりあえず、一旦これを見てほしいの!」



 アカネ殿がなにやら数枚の紙束をずいと差し出すと、条件反射でサシコがそれを受け取る。



「な、なんですか、この紙は……? 大会参加要項?」



「いいから! ちょっと読んでみて!」



 その紙は富嶽杯の詳細な内容について書かれているらしかった。おそらくは大会の場所やら時間やらを知らせるため参加選手に配られたものだろう。アカネ殿が興奮しているのは、その書類の内容に関係してる様だが……

 


「なになに…………富嶽杯はミヴロの町で開かれる、ジャポネシア最大級の玩具と遊戯の祭典である。主催する板岱屋の商品を中心に様々な玩具が展示され、それらの商品を体験・購入できる露店も多数設置予定です。中でも板岱屋の主力商品として注目を集める小懸騎士を使った小決闘全国大会は、催しの目玉として……」



「もうちょい先! 大会優勝者への褒賞のところ!」



「えー、と…………大会優勝者には褒賞として賞金……賞金百万鍍鎦(どる)を進呈!?」



「な、なにぃ!」



 玩具の大会に賞金が百万鍍鎦(どる)も!?


 お、恐るべし、板岱屋の資本力。

 一体この富嶽杯とやらのためにどれほどの金銭が動いているというのか。尋常ではない。尋常ではないぞ。やはり、富嶽杯とやら、何かとてつもない秘密が隠されているに違いないぞ。



「そう! そこも凄いんだけど、見てほしいのは副賞のとこ!」



「副賞……? ええと、大会優勝者には褒賞として賞金百万鍍鎦を進呈。更に副賞として…………え!? これって!?」



 サシコは大会要項を二度見、三度見しアカネ殿を見つめ返す。



「でも、こんなの…………ありえないですよね? だって、こんなの、偶然にしたって」



 むう、百万鍍鎦(どる)の賞金よりも驚くべき事…………一体何が書いてあるというのだ?

 


「貸してくれ」



「なになに、大会優勝者には褒賞として賞金百万鍍鎦を進呈。更に副賞として伝説の……伝説の秘宝マガタマを拝観する権利を与える!?」



 マガタマだとォ!?

 馬鹿な!まだ公には誰も発見した事がないとされる、あのマガタマが玩具の大会の副賞で見られる……ってこりゃあまりに都合が良すぎるだろ!



「いやいやいや!十中八九、偽物だろう!」


「ええ、わたしもそう思います。でも、この世界に来てマガタマの在り処について初めて得た手がかり。ダメでもともと確認してみたいんです」



 確かにアカネ殿の旅の目的はあくまで元の世界に兄を連れ戻すこと。いかにキリサキ・カイトを説得出来ても、元の世界に戻るため必要なマガタマがなければ意味がない。なにか少しでも手掛かりになる様な事があれば、当然確かめてみたいだろう。しかし… 



「賞金といい、マガタマといい…………やっぱりまた何かヤバい事に巻き込まれているんじゃ……」



 うむ。サシコが指摘するまでもない。

 これは裏がある。間違いなく何か秘密が隠されている。明辻先輩の文といい、ミヴロには想像以上に何かとんでもない事が起ころうとしている。直感よりも確信に近い感情が俺にはあった。



「やっぱそう思う? ここまでの情報だけでも充分に怪しいしねぇ……でも、衝撃の情報はまだあるのよー」


「まだ何かあるのか!」


「その副賞の先のとこを読んでみてください」



 ぐっ!ここまででも十二分に情報過多なのに、まだこれ以上悩み事が増えるのか!? 


 おそるおそる、参加要項の先を読み進んでみると……



「えーと…………なお、マガタマの提供者は、小懸騎士(コケナイト)の共同開発者にして御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)金鹿(カネシカ)馬北斎(マホクサイ)先生で、優勝者を直々にマガタマのある場所へ案内…………て、えええ!? 御庭番十六忍衆ガーデンガーディアン!?」



 おおっ!?

 なんと……まさかここで御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)までも絡んでくるのか…………六行を使ったコケシ、かつての恩師の文、板岱屋、富嶽杯、マガタマ、そして御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)


 君子危うきに近寄らず。という格言がある。


 ここまで目に見えた危険なら、君子と言わずまともな者は近づかないだろう。しかし……



「アカネ殿」


「はい」


「アカネ殿はこの危険を知りつつ、それでも富嶽杯に参加されたい。そう言うのだな」


「……はい。でも、二人を危険に巻き込みたくはありません。もしも気が進まないのならば、わたしは一人で…」



 俺は手でアカネ殿の言葉を制止する。



「俺はこの旅、どこまでもアカネ殿について行く所存。この覚悟はとうに出来ている。だから、そのような口振りはよして頂こう」


「ガンダブロウさん……」



 旅は道連れ世はなんとやら。

 どの道を行けども命の保証はない狂者の旅。ならば、面白い方に進むが正道。またひと暴れふた暴れする事になろうとも、俺はもう一向に構わない。



「あたしも行きますよ!」


「サシコちゃん……」


「以前までのあたしじゃないですから! 足手まといにはなりませんよ!」



 ふっ、やれやれ……

 まだ、小決闘(コケットー)の熱に当てられているのだろうか。



 深夜の神社に愚者3人。決意を胸に、新たな旅の指針を定める。



 その目的地は西南西におよそ五十里、夢と創造の町ミヴロ!!



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