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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第78話 富嶽杯!

前回のあらすじ:コケットーに緊急参戦したアカネが見事電之助に勝利する!



「うおおおおー! アカネさん、すげええええっ!」


「本当に勝っちまったよ〜!」



 丙一と乙ニの歓呼がアカネ殿を迎える。



「や、やっぱりすごいですね。あのヒト……」


「うむ。流石だ」



 アカネ殿の対応力には毎度驚かされるな。これが単なる六行使い同士の戦いならば、そこまで驚くには値しない。技術や戦術がなくても神から与えられた地異徒の術の火力だけでゴリ押しできるからだ。しかし、今回のように、玩具同士の戦いとはいえ、単なる力比べではない特殊な技巧が必要な場面でも、彼女は見事に対応してみせる。これは、アカネ殿自身の柔軟な感性と六行の操作をこまめに練習してきた成果と言えるだろう。



「いやー、あはは。照れるねえ!」



 アカネ殿は上機嫌に闘技場から降りると、彼らの熱狂にひとしきり答えると、甲三のもとに歩み寄る。



「ふふふっ!仇は取ったよー!」


「あ、ありがとうございます。でも……」



 甲三は何とも複雑な表情であった。

 宿敵・電之助が倒された事にもっと喜んでもいいと思うが……自分の手で倒したかったという事だろうか?


 彼のその微妙な態度の理由は周囲の反応によってすぐに分かった。

 


「お、おい。この場合【富嶽杯】の出場権はどうなるんだ?」

「電之助に勝ったのはあのアカネという人だし、あの人が資格を得るんじゃないか?」

「いやいや、あの人はあくまで甲三の代打なんだから、やっぱり出場権は甲三だろ?」



 集まった観客の子供たちの間では、いつの間にか勝負の熱狂が消え、そこかしこで議論が始まっていた。そういえば、さっきから【富嶽杯】という言葉を何度か耳にしたが……



「審判!この場合はどうなるんだ?」



 誰かが、審判の男に判断を促す。



「…………そうですねぇ。何しろ想定外の事態ですから。他の委員たちと協議してくるので少々お待ち下さい」


 神社の敷地内に用意された帷幕のような仕切りの中に入っていった。ふむ、あそこにこの会場の設営や催しに関わる大人たちが詰めている訳か。おそらくは板岱屋の関係者だろうな。



「なあ、君たち。富嶽杯って一体なんの事なんだ?」



 近くのお面の少年たちに気になっていた事を聞いてみる。



「なんだ、知らないで観ていたのかい?富嶽杯は小決闘の全国大会の事さ」


「ジャポネシア全土から代表選手が集まって戦うんだ」


「そうそう。今日の戦いはその最終選考だったんだよ」



 おおっ!小決闘とは全国大会があるほどに人気なのか!

 ジャポネシア全土での交易が解禁になったのはサイタマ共和国による統一があったからわずか5年ほど前。その期間に玩具を全国的に商品展開するとは……うーむ、板岱屋おそるべしだな。


 しかし、なるほど。これは面倒な事にクビを突っ込んでしまったな。

 本来、甲三と電之助のどちらかの勝者が全国大会に進むはずが、戦いに物言いがついた上に横から入ってきた代打が勝ちをかっ攫うという不測すぎる状況……こんな事態は想定しろと言う方が難しい。


 だが、まあ筋で言えば甲三が勝ち上がるのが正しいだろう。アカネ殿はあくまで非正規の参加者で、これまでの選考過程には全く関わっていないのだから。


 そもそも、俺たちはまだ旅の途中で、たまたま寄り道しただけ。子供の遊びの大会に参加している暇などないのだ。

 



「おっ、審議が終わったみたいだ」



 帷幕から審判の男が出てくると、再び檜舞台に上がり、聴取に向けて審議の結果を発表する。



「えー、皆さん、大変長らくおまたせ致しました……審議の結果をお伝えします」



 ざわざわとした喧騒はやみ、皆、息を飲んで審判の言葉に耳を傾ける。



「厳正な審議の結果、【富嶽杯】の参加資格者は…………アカネ選手とします!」



「ええ〜!?」



 なんと!

 飛び入りのアカネ殿が全国大会の代表!?



「え? え? アカネさんが、ふ……富嶽杯?の参加権……て、これは喜んでいいんですか?」



 意外な決定にはサシコも困惑気味だ。

 ううむ、恐らくはとても名誉な事ではあるのだろうが……


 アカネ殿が気まぐれで小決闘に参加したのは、卑怯な戦い方で敗れた甲三を見かねての事で、何もそのような大会への参加権を得たかった訳ではない。むしろ旅の途中でそのような目立つ行事への参加はサイタマ共和国の目に触れる恐れもあり、俺達にとってはありがた迷惑でしかない。


 第一、このような裁定が下れば当然観衆は……



「おーい、それはねえだろ、公式〜!」


「そうだ!今まで頑張ってきた甲三があんまりじゃないか!」



 うむ。そりゃあ、こうなるだろうな。

 今まで卑劣な電之助を倒したアカネ殿には喝采が送られていたが、大会の参加権問題になれば一転、批判の声が紛糾する。



「えー静粛に!これは大会を運営する板岱屋の公式見解です!裁定が覆る事はありません!」



 審判は場を抑えようとするも、不満の声は全くもって収まらない。


 どうも、この大会の運営は不手際、不公平が多いように見受けられるな。玩具の販売促進でやっているのなら、もう少しちゃんとした方がいいと思うのだが……



「え、えーと……」



 当のアカネ殿は、闘場のすぐ袖でポカーンと立ち尽くしていた。 

 状況をよく理解できないまま、すっかり議論の渦中に放り込まれてしまった様だが、本人としては不本意もいいところだろう。



「いやあ、何だかよく分からないですが、わたしはその……フガク何とかいうのに参加する気は……」



 ふむ。まあ、アカネ殿からしてみれば全国大会など当然参加する気はないのだし、棄権の意思を明示するのがいちはやく場を収める事に繋が…



「待った!!」



 アカネ殿が彼らに自分の意思を伝える前に突然甲三が声を上げた。

 観衆の紛糾がピタリと止まり、皆、今度は彼の言葉に傾注する。



「みんな!俺はこの裁定に納得してるぞ!」



 ……え?



「でもよ!甲三!それじゃ、今までの苦労はどうなんだよ!」


「そうだ! 悔しくないのかよ!」



 丙一と乙ニが甲三に訴えかける。



「悔しいさ!悔しいに決まってる……だが、それは富嶽杯に参加できない事にじゃない!俺自身の弱さについてだ!」



「こ、甲三……」



「どんな卑怯な戦い方だったとしても、俺は一度電之助に負けた! そして、その電之助を倒したのは俺じゃない! アカネさんなんだ!」




 おいおい、また何か変な方向に話が進んでないか!?



「俺の力じゃ、たとえ万全の状態で再戦したとしても電之助を倒せたかどうかは分からない。小決闘では真に強き者が勝者になるべきだ。だから、富嶽杯にも一番強いやつが出るのがいい。そう、今この場で一番強いのは俺でも電之助でもない!アカネさんだ!」 



「甲三っ!お前ってやつは〜!」 


「キワってる!キワみにキワってるよ〜!」 



 …………甲三はとても立派だ。十歳ごろの少年で、ここまで清廉な態度は中々とれない。称賛に値する男だ。


 だが、その潔さによって俺達は甚だ困った事態になってしまっている。こうなってはアカネ殿も断りづらいだろうが、これ以上話がこじれる前になんとか上手く場をおさめて……



「甲三くん!君の熱い思い、伝わったよ!」



 …………へっ??



「アカネさん!俺の……俺たちの思いを継いで戦ってくれますか?」 


「もちろんよ!」



 て、おおい!

 何流されてんだ、アカネ殿ぉ!



「太刀守殿!なんか、変な事になってませんかぁ!」


「なってる!すごくなってるよ!」



 俺たちの動揺をよそに、会場は一体となり、今日一番の盛り上がりを見せる。



「アッカッネ!アッカッネ!アッカッネ!」



 誰が始めたのか、戦士を鼓舞するように観衆たちがアカネ殿の名を連呼し始める。



「アッカッネ!アッカッネ!アッカッネ!」



 彼らの熱狂に呼応するかのように、舞台を囲う篝火もより一層の猛りを見せると、その火の粉を振り払うようにアカネ殿が舞台に再び登る。



「みんなー! わたしが皆の思いを背負って富嶽杯で優勝してみせるよー!」



「「「うおおおおおーー!! いいぞーー!!」」」



 アカネ殿のノリのいい性格が災いしたか……

 やれやれ、ここまで来たら後戻りは出来ないか。



「どうやらハラは決まったようですね?」



 いつまでも続きそうな程の大盛り上がりを見せる会場を収めるため、頃合いを測っていたかのように審判が場を〆にかかる。



「では、今宵の小決闘はこのへんでお開きとさせて頂きます!後ほどアカネ選手には正式に招待状と参加要項をお渡し致します!」



「あ、はい!」



「……さあッ!! いよいよ次回の小決闘は史上初の全国大会となる【富嶽杯】!! 全国の猛者たちが集う空前絶後の戦いの幕がついに上がります!! 小決闘小僧ならこれを見逃す手はありません!! お誘い合わせのうえ、是非是非ご観戦を!! 開催日は2週間後の満月の日!! 場所は板岱屋の本店がございます夢と創造の町ミヴロでございます!!」




「なっ!? ミヴロだと!?」


「太刀守どの? どうかなされたのですか?」


「い、いや……」



 

 ミヴロ……


 こ、これは……偶然か?何者かの作為か?





 ウィツェロピアで渡された文を懐から取り出し、その内容を再び確認する。



/////////////////////////



二人だけで話がしたい


満月の日の、正午


ミヴロの町の北端、水車小屋にて待つ



     明辻泉綱 ✺


\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\




 いずれにしても、行かなければならぬようだな。

 

 


 運命の交差する町──ミヴロに!



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