第77話 挑戦者!(後編)
前回のあらすじ:謎の遊びコケットーにアカネが参戦!甲三の代わりとして電之助と「紫光の鳳凰」に挑む!
「さあ、行くよー!」
アカネ殿は火行の力をコケシに込めると、凄まじい勢いで炎を噴射。その圧倒的な推進力で宙を飛び回る。
「んなっ!? なんて爆発力だよ!?」
電之助も観客たちも、アカネ殿の凄まじいまでの六行の力に圧倒される。
おいおい……こりゃあ……
「アカネさん、まったく手加減する気がなさそうですね」
いやいや、大人気ないというかなんというか。
アカネ殿の陰陽術は最強だ。まともに戦えばこのジャポネシアで相手になるのはキリサキ・カイトだけだろう。今までは相手を傷つけないという制約の元戦ってきたので苦戦する場面もあったが、人を傷つける必要のない今回のような場合、その気になれば一瞬でケリがつくだろう。
まして相手は子供。
いかに卑劣な相手とはいえ、これでは流石に可哀相だな。
「アカネ選手の赤黒の金剛石! いきなり凄い加速だあ! ……あっ! しかし、これは……」
「……ん? あれ?」
勢いよく飛び回るアカネ殿のコケシから黒煙が上がる。
「あ!いけない、いけない!火力ダウン!」
…………むむっ?
「ああーと! これはいけません! 小懸騎士の火力に耐久力が追いついていません!」
「ううー、力加減が意外と難しいな、これー!」
ああ、そうか……いかにアカネ殿の陰陽術が強くともあくまで戦うのはコケシ。その力にコケシが耐えられなければ意味がない、か。
「うぇへへ! なんだぁ? いきなり自爆しやがったぞ!」
当初、あまりの火力に面食らっていた電之助も、調子を取り戻し愛機紫光の鳳凰に指示を送る。
「紫光の鳳凰! ヤツの火力はコケ脅しだ! さっきの戦いと同じく、待ち構えて迎撃しろ!」
アカネ選手の赤黒の金剛石は火力を抑えて体勢を立て直し再び、敵の方に向き直る。しかし、速力は低下し、おそらくは甲三の青橙の栗鼠より少し速い程度の移動速度に落ち着いた。となると、やはり正攻法でいけばヤツの目くらまし技"幻魔一輝"とやらが妨げになるであろう。
「ああ、汚えぞ!」
「またガン待ちする気かよ!」
観客からも非難の声が上がる。
「へっ! 時間切れや判定決着はないんだ! 防御固めて反撃すんのが一番賢い戦い方なんだよお!」
またも電之助が観客たちを煽り返す。
ふむ。男らしい作戦ではないが、戦理にはかなう。先程のアカネ殿の爆発力を見ておいそれと攻め合いには出られないだろうし、堅牢な防御を築いて相手の失着を待つというのは剣の戦いでも勝率の高い戦法だ。
だが、この戦法は相手にも攻め手を考える時間を与えるという側面もあり、また守る側にも忍耐力を強いる。力と技術というより、構想力と精神力の戦い。果たしてアカネ殿は、相手の待ちの一手にどう対応するか……
「ふーん。なるほどねぇ」
アカネ殿は数秒顎に手を当て考える素振りをしたが、すぐに顔を上げた。
「まぁ、まだるっこしい事は考えなくていいか……よーし!赤黒の金剛石!突撃だよ!」
アカネ殿は何のひねりもなく正面からの攻撃を指示。
「おおっと!アカネ選手!ここでつっかけた!しかし、これでは甲三選手の二の舞だぞー!」
審判がアカネ殿の無謀な攻撃に驚く。周りで見ている者たちも動揺した。
「アカネさん!いけません!近づけばやつはまたあの目くらましを……」
甲三が叫ぶも、アカネ殿は親指をグッと立てて見せた。
「だいじょぶ、だいじょぶ。まあ観ててよ」
アカネ殿が仕掛けたのはやけくその攻撃か?いや……
「へっ! バカめ!」
当然、電之助は待ってましたとばかりにサングラスを装着し、すかさず紫光の鳳凰に指示を出す。
「紫光の鳳凰! "幻魔一輝"!」
再び激しい閃光が舞台を覆い隠す!
「あ〜と、再び強烈な閃光! これでは紫光の鳳凰の姿は捉えれない!」
…………が!
「な、なにィ!!?」
電之助の驚愕の声!
「うぅ! これは……一体何が……?」
サシコが目を覆いながらも闘場の異変に気づく。しかし、視界が閉ざされた中ではその詳細まではつかめないようだ。
しかし、俺には見えた。
紫光の鳳凰が光を放つ直前。電之助がサングラスをつけるのと同じ刹那、アカネ殿が"すまほ"で自分の視線を覆った事を……
「カメラの明るさ調整OK!! ちょっと眩しいけどこれなら視えるよ!!」
「ば、馬鹿な! この光の中でも視界が見えてるのか!?」
詳しくはわからないが、どうやらアカネ殿は"すまほ"の"かめら"を通して相手を見る事で、光の強さを軽減してるようだ。光の遮断は完璧ではないようだが、相手の大まかな位置さえ分かれば攻撃には充分。居場所さえ掴めれば鈍重な紫光の鳳凰は赤黒の金剛石の速力には対応出来ない。
…………勝負あったな!
「さあ、いくよ!」
「う……うっ……」
「赤黒の金剛石…………ひっさーつ!! "閃星輝断"!!」
「うわああああああああああああ〜〜〜〜〜!!!!」
電之助の悲鳴!
直後に「ゴシャッ!!」という何かが激突して弾かれる音。
「おお、光が消えました。一体状況はどうなって…………あっとぉ!これはァ!?」
光が消えて回復した視界に飛び込んできたのは先程とは真逆の光景。
鎧が砕け、闘技場の外にはじきだされた紫光の鳳凰と膝をついてうなだれる電之助。そして、宙を舞ってアカネ殿の元に優雅に着陸する赤黒の金剛石……
「こ、これって……!」
サシコが興奮気味気味につぶやく。
乙ニたち観客の子供たちも、暫時あぜんとしていたが、徐々に熱が伝播していき、審判の裁定を告げる声と共に歓声となって爆発した。
「紫光の鳳凰戦闘不能!よって勝者……アカネ選手!!」




