第76話 挑戦者!(前編)
前回のあらすじ:卑怯な手段でコケットーの勝者となった電之助に、待ったをかける声!声の主の正体は……
「ちょっと待ったあ!!!!」
突然、電之助と観客たちの口論に割って入る声──
「あんっ!?」
「そこのキミ!今言ったよね? 文句のあるやつは相手になるから上がってこい……と」
舞台の袖に現れた声の主は、他の観客の少年たちから頭一つ高い背丈。艷やかな長髪をなびかせて立つその姿はお面越しにも美貌を感じさせる……って…
「男に二言はないでしょうね?」
「なんだてめえは?」
「ふふふ。決まってるじゃない……ニューチャレンジャーよ!」
お面を外した少女の正体はもちろん……
「アカネ殿ぉ!?」
「あ、アカネさん……いつの間に……」
今の今まで隣にいたはずのアカネ殿が、いつの間にやら舞台の上に……
ううむ、これはまた波乱の予感だ。
「おおっとぉ!? これは予想外! 謎の挑戦者の乱入だあ!」
審判兼解説役の男が、不測の事態に驚きながら、しかしどこか嬉しげにアカネ殿の登壇を煽り立てる。
「おおおー! いいぞー!」
「姉ちゃん何モンだあ?」
「何だか知らないがメチャマクってんぜぇ!」
観客たちも不穏な空気から一転、突然現れ横暴な電之助と対峙したアカネ殿に喝采を送る。
やれやれ、この雰囲気……今から止めに入るのは至難だな。しばらくは事の成り行きを静観するしかないな。
「おい、ちょっと待てよ! 審判! こんなの認めていいのかよ?」
しかし、こうなると面白くないのは電之助だ。
アカネ殿の乱入に抗議の声を上げる。
「そもそも、あいつは大人じゃないのか? 大人が小決闘に参加するのは反則じゃないのかよ!」
「ふーむ、小決闘には年齢の制限はないですが……」
審判はしげしげとアカネ殿の姿を眺める。
「お嬢さん。貴方は我々の小懸騎士所持者目録には載っておりませんが、小懸騎士はお持ちですか?」
審判がアカネ殿に尋ねる。当然ながら、俺たちは小懸騎士など所持していない。甲三の青橙の栗鼠とやらは破壊されてしまっているし、一体どうするつもりなのか?
「小決闘に参加出来るのは小懸騎士を持つ、選ばれし戦士のみ。小懸騎士がなければ残念ながら電之助選手への挑戦は認められませんが」
「そうですよ! アカネさん! 小懸騎士がないと戦うことは出来ません!」
乙ニと丙一が舞台のすぐ側から壇上のアカネ殿をいさめる。
「気持ちは嬉しいですが、僕たちにはやつに抗う手段は……」
「あるよ!!」
アカネ殿は彼らの問に対し高らかに答える。
戦う手段がある??小懸騎士がないのに??
いかに地異徒の術を使う最強のアカネ殿でも遊びの規定に沿わなければどうする事も出来ないはず。一体どういうつもりで…………て、あ!
「これが、わたしの小懸騎士…………赤黒の金剛石よ!!」
アカネ殿が手にしていたのは血のような赤色の塗装が特徴的な不気味な木人形。あれは、旅の魔除けにと黒石氏から貰ったコケシ……!
「な、なんと……!」
アカネ殿は黒石氏のコケシ……もとい赤黒の金剛石(名前は即興だろうが)に呪力を込める。すると赤黒の金剛石の目の当たりから炎が立ち上り、胴体部の底から火が噴き出し、宙に飛び出し大きく一回転して着地してみせた。
おお、アカネ殿……考えたな。原理は分からんが、小懸騎士とは六行の力で動く玩具だが、それ以外は恐らくは普通のコケシと変わらない。それならば、ただのコケシを実際の六行使いが動かしてしまえばそれは小懸騎士と呼べるのではないか!?
コケシ程度の質量の物質なら、自在に操作する事などアカネ殿には造作もないだろう。しかし、このような屁理屈を大会主催者が認めるかどうか……
「なるほど。これは紛れもなく小懸騎士……アカネ選手の参戦を認めます」
認めるんかい!
「やったぁ!」
そういえば、大会規則には小懸騎士の形状に関する規定はない、と言ってたな。
ちょっと規定がユルユル過ぎないか?小決闘……
「ちょちょちょ……! そりゃないぜ、審判よぉ! これは富嶽杯への参加者を決める大事な試合だろ! それをそんなあっさり代打認めちゃっていいのかよ?」
「ん〜〜〜まあ、いいでしょう!第一、挑戦者を募ったのはもともと貴方の方ですし」
「ぐっ!それは……」
「まあ、我々としても貴方のような方法で勝ち上がられても困るのですよ。それでは覚醒が起こらないですからね。その点あの娘は……」
「あ? なんだって?」
「おっと、失礼。こちらの話です…………さて!では気を取り直してェ……」
審判がバッと両手を上げて、ざわつく観衆に注目を促す。
「さあて、大変お待たせしましたァ! お集まりの皆さん! 想定外の事態に少しばかり確認の時間をもらいましたがァ、今確認が終わりました! 謎の乱入者アカネ選手は有資格者! 小懸主として正式に認められました! 代打出場を許可いたします!」
審判が会場全体に響く大きな声でそう通達すると、再び観客たちの熱は戻り、歓呼の声に沸き立った。
「おおおー!! いいぞー!!」
敗れた甲三も、アカネ殿に一礼し、舞台の下に退く。
「アカネさん。よろしくお願いします。僕の無念を晴らしてください」
「お〜うよ!まかしとけっ!」
アカネ殿が舞台の東端に立ち、対面の西端に立つ電之助を見据える。
「た、太刀守殿! なんだか、すごい展開になっちゃいましたよぉ!」
「……あ、ああ」
……色々と言いたいことはある。サイタマ共和国の中枢ウラヴァに近づきつつある今、追手に悟られぬようより一層注意しなければならないのにこのような目立つ振る舞い……アカネ殿の気まぐれには頭を悩まされる。だがまあ、細かい事は今はよそう。
どのみち俺たちの旅に不測の事態は付きものだ。ならば、起こってしまった事を嘆くのはやめ、いっそ成り行きを楽しもうではないか。
「両者位置について!」
審判の声とともにアカネ殿と電之助は小懸騎士を構える。
「小決闘発気揚〜…………轟!!!!」




