第69話 背きし者たち!(前編)
前回のあらすじ:サシコVSヒデヨ、決着!
「ちょっと待ちな!」
サシコとヒデヨちゃんの勝負が終わり、河原から引き上げる途中。ふいに、ガラの悪い若者たちに呼び止められた。
「アンタら、さっき広場で憲兵を倒しちまった人たちだろ?」
若者たちはジロリとこちらを見やると、わらわらと回りを取り囲むように展開した。
「そうよ……と言ったら?」
マキは若者たちを睨みながら一歩前に出る。アカネ殿やヒデヨちゃんもすぐさま警戒態勢をとる。俺も刀に手をかけ、いつでも剣を抜けるよう身構えた。が……
「どうするかだって? そりゃ当然……」
俺たちの警戒をよそに若者たちは無邪気な笑顔をみせた。
「…………祝福するに決まってるぜ!」
「ああ、最高だよ、あんたたち!」
「本当によくやってくれたよ! 町の皆も喜んでるぜ!」
次々と若者たちから称賛の声があがる。
む……御庭番の手先かと思ったが、どうやら違うみたいだな。
「君たちは?」
「俺らは反サイタマ革命戦線のものだ」
反サイタマ革命戦線……は、このあたりで活動している反統一派の組織。そういえば先ほど憲兵たちの取り締まりを受けていたのもこの組織の者だったな。
「広場の事件は人混みから見てたんだ。憲兵のクソ野郎どもには俺らも頭にきててさ」
「そうそう。それで俺らがキレて飛び出そうとしてたら、先にその嬢ちゃんが出てったもんだから、そりゃあビックリしたぜ」
「ああ、なかなかやるよ。お嬢ちゃん」
「い、いや……そんな……」
ヒデヨちゃんは蛮勇を誉められるも、照れて赤くなる。そもそも奴等がこれみよがしに反サイタマ革命戦線の若者をリンチしたのも、仲間である彼らを釣りだすため。まさか、俺たちが現れるとはまったく計算外だった事だろう。
「しかし、本当に驚いたよ。憲兵どもだけならいざしらず、御庭番のクソ人形までぶっ倒しちまうんだからさ」
「ああ、しかもそれをまだ若いお嬢ちゃん達がやってのけたってんだからぶったまげるぜ! あんたらがいなかったら俺らあそこで一網打尽にされていたかもしんねえし、仲間も捕まったままだった。だから是非とも礼がしたくてあんたらの事探してたんだよ」
「でもまさか、まだこんなとこでウロウロしてるとは思わなかったけどな」
言われてみればその通り。憲兵に楯突いておいて町から逃げるどころか呑気に河原で剣の試合なんぞしてるんだからな……どうも、アカネ殿と旅をしてる内に感覚が麻痺してきたのか警戒を怠る癖がついてきてるな。
「でも、かえって良かったかもしれないぜ」
「ああ、今この町から出ようとするのはマズイだろうからな」
「え?なんでです?」
アカネ殿が聞き返すが、今に到ってはその理由もある程度は想像がつく。
「憲兵どもが町の各門で検問しているのさ。あんたらを町から出さない為にね」
「ええ!?」
…………うーむ、やはりな。
「もっとも、このあたりの捜査網が手薄なところをみると、俺らと同様やつらもあんた方がまだこんなとこに居るなんて思っていなかったようだが……」
「そっかー、いやあ、困りましたねぇ」
今まで御庭番十六忍衆の刺客とその直属の手下たちとは剣をまじえてきたが、彼らはあくまで帝直属のいち部隊とその私兵。いわば個人同士の戦いだったが、憲兵隊そのものが敵になるとなればその人員と組織の規模は桁が違う。彼ら個人個人の戦闘力は御庭番十六忍衆の足元にも及ばないし、まともな戦闘なら何人束になったとしても力ずくで突破出来るだろうが、捜査と追跡においては彼らに一日の長がある。
充分に予測し得た事ではあるが、やはり憲兵と御庭番十六忍衆が俺たちを捕らえるために連携されるような事があれば、少々厄介な事になるやもしれん。
「いっそほとぼりが冷めるまでこの街でブラブラするなんて、どうかしら? 特に南町あたりを……」
「ダメです」
マキの提案はヒデヨちゃんに一蹴される。
まあ、彼女たちは帰るだけなのだから最悪それでもいいが、俺たちはこれからウラヴァに向かわなければならない。かといって強硬突破して憲兵隊との争いを大きくするのも出来るだけ避けたい。何とかして穏便に町を出る方法を考えなければな……と、思案を巡らせようとした所で、若者たちがお互いの顔を見合わせニコリと笑った。
「ふふふ。やはり、俺たちの出番みたいですね」
「あら? というとアナタたち、何かいい考えがあるのね?」
「ええ。俺らに任せてもらえれば、無事に外に出してあげられますよ」
若者たちは広場の事件の礼が出来ると喜び勇んだ。
「もっとも、馬車ごと出るなら少し小細工がいりますが…………まずは俺らについてきて下さい。一旦隠れ家に寄って準備しますから」
おお。これぞ、情けは人の為ならず、か。広場での騒動がこのような僥幸に繋がるとはな…………て、いや、そもそも騒動を起こさなければ憲兵に追われることもなかった訳だから、それはちょっと違うか?
まあ、何にせよ状況打開の手があるならばよかった。
「ガンダブロウさん! 気を付けた方がいいですよ! こういう上手い話には裏があるかもですよ!」
今までお人好しだったアカネ殿が逆に強い警戒心をみせる。
どうやら、アイズサンドリアとキヌガーでの苦い経験が背景にある様だな。
「マキ、どうだ? やつら信用できそうか?」
「うーん、少なくとも彼らからは悪意は感じないし、大丈夫だと思うけど……」
マキの見立てでも怪しいところが無いというのなら問題はないと思うが……それにしてもこういう相手を警戒する仕事は本来俺の領分。やはり、この気の緩みを正さんと今後旅の佳境で重大な失敗に繋がるかもしれんな。反省せねば。
「どうしたんスか?」
「いや、何でもない! では、すまんが君たちの隠れ家に案内してもらおうか!」




