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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第68話 腕比べ!(後編)

前回のあらすじ:サシコVSヒデヨ、勃発!



「はあっ!!」



 最初に攻め込んだのはヒデヨちゃんの方であった。間合いを一気に詰め、瞬く間に十数発の連撃を打ち込む。



「……くっ!!」



 サシコはそれをかろうじて捌く!円を描くように木剣を振る受け太刀で一発の有効打も許さない!サシコのやつ、ちゃんと教えた通りの動きで攻撃に対応出来ているな……しかし、いきなり()()()を作るとはヒデヨちゃんも中々やる。



「さすがヒデヨちゃん。定石通りの攻めね」



「えっ? 定石?」



 納得するマキと、状況がうまく掴めていないアカネ殿。うむ、アカネ殿には少し説明がいるだろう。



「サシコの属性である風行の特性は"拡散放射"。遠距離での攻撃が得意な反面、近距離では力を発揮できない事が多いんだ。故に、風行使いとの戦いでは間合いを詰めて技を有効に使わせない事が定石とされている」



「へー!」



 俺の解説を聞いたアカネ殿は得心したのか、うんうんと頷いてみせる。



「加えてヒデヨちゃんの属性は空行。"電導侵食"の特性を持ち、一撃の破壊力は全属性でもピカイチなのだが、呪力の燃費が悪いのが弱点。だからサシコに遠間から攻撃される前に速攻に出るのは当然の戦略と言えるだろうな」



「しかも、ヒデヨちゃんには防御不能の必殺剣"(ウツロ)"がある。技が使えるのは1回きりだけど、その気になれば受け太刀させた瞬間に木剣を破壊して決着がつくわ」



 マキが更に補足する。相手の武器を破壊するのも六行使い同士の立ち会いでは立派な戦術。はずした時の危険は大きいが、ヒデヨちゃんがその作戦に出る可能性は充分にあるな。



「どうしましたか? この程度の攻撃で手詰まりというなら継承した"天羽々斬(アメノハバキリ)"が泣きますよ!」



 ヒデヨちゃんは距離を詰めたまま、間断なく攻め続け優勢を維持する。正しい戦術を選択できる知見とその戦術を実行する技量は紅鶴御殿の近衛兵の名に恥じないものだと言えるだろう。



 しかし、考えてみればこの勝負、サシコには少し不利だったかもしれん。もともと風行は乱戦向きの属性で、面と向かって一対一の勝負をするにはあまり向かない。



 一対一の立ち会いをこそ剣士同士の唯一神聖な戦い方だと考えていた一昔前は「剣を志す者は一に空行、二に土行。風・識ならば術に寄るべし」という格言がよく使われた。つまりは自分の属性が一対一の戦いに向かない風行・識行ならば剣士は諦めて術士を目指せ、といったのだ。今は一騎討ち信仰もかなり薄れ、風行使いの剣士の数も増えたが、それでもこのような試合形式では力を発揮しきれない事が多いのもまた事実。



「はあッ!!」

「……ぬっ……くぅ!」



 サシコはほとんど反撃が出来ないまま、川縁にまで追い詰められた。これでは背後に跳躍して間合いを空けることは出来ない。うーむ、勝負あったかな?



「…………期待はずれですね! このまま決めさせてもらいますよ!」



 ヒデヨちゃんも勝利を確信したのか、今までよりも大振りで上段から打ち下ろす。受け太刀した木剣を破壊するつもりだ。




「これで終わりです!」



 ヒデヨちゃんの打ち込みは目論見通りサシコの受け太刀を破壊した…………が……



「とおっ!!」



 サシコは武器をおとりに跳躍し、ヒデヨちゃんの頭上をすり抜け間合いを空けた!



「何ぃ!?」



 むぅ!最初から二の太刀のない大振りを狙っていたのか!

 しかし、武器を破壊されてしまっては反撃の術がない……どうするつもりだ?



「すぅー…………エイオモリア無外流『武蔵風(むさしかぜ)』…………」



 サシコは無手のまま深く息を吸い、腰を落とした。そして、次の瞬間──



「"蹴速抜足(けはやぬきあし)"!!」



 体に風をまとい、再び地面を蹴った!



「なっ!!?」



 飛び技が来る!とヒデヨちゃんは思ったのだろう。実際に見ている俺たちもそうだと思った。しかし、サシコはせっかく空けた間合いを一挙に詰め、反応する間もなくヒデヨちゃんの背後に移動していた。


 そして、首もとにストンと軽く手刀を当てた。



「いっぽん」



 サシコが発声する。完全に背後を取った上での首もとへの一撃。その気があれば、失神させる事も出来ただろうし、これが実戦ならヒデヨちゃんの命はなかっただろう。だが……



「サシコちゃん。今のは一本にはならないわ」



「え!?」



「近衛兵同士の試合では木剣による攻撃のみが一本と見なされるのよ。だから……」



「つまり…………木剣がなくなったあたしの…………負け?」



「そうなるわね」



「がーん! しまった~!」



 本来なら木剣が破壊された時点で、審判であるマキが決着を宣言せねばならなかったが、サシコの一連の動きがあまりに速過ぎた為にその機を逸したのだ。残念ながらこの試合はサシコの負けだ。しかし、腕比べという意味ではどちらの腕が上かは明白に示されたと言える。



「…………」



 それは実際に戦ったヒデヨちゃんが誰よりも感じた事だろう。それは彼女が勝負が終わった後も、敗北したかのようにうつ向いて立ち尽くしている事からも伺える。



「…………サシコさん、ひとつ聞いてもいいですか?」



「え?」



「何故、一度距離を空けるまで反撃をしなかったんですか? 貴女の技の性質なら反撃するのにわざわざ間合いを空ける必要もないでしょう」



 風行使いの剣士は遠距離からかまいたちのような攻撃を射出して戦うのが一般的だが、サシコは自ら風をまとい、いわば自分自身を射出した。これならば間合いを空ける必要性はなく、むしろ近間の打ち合いの中で発動させれば相手の虚をつく意味でも有効だったはずだ。



「いや、それは、その………えーと…………」



 サシコは答えを濁すが、俺にはその理由が分かる。そして、マキも同様に真意を察し、彼女の代わりに恐らくは自身でもその事に気がついているであろうヒデヨちゃんへ回答した。



「木剣とはいえ目の前で加速すれば威力が抑えきれずにヒデヨちゃんを傷つけてしまう恐れがあるからでしょう……違うかしら?」



「…………」



 サシコは黙ったが、その沈黙が答えだった。


 サシコは勝負で相手の身を気遣い力を抑えた。また、おそらくその気になれば試合直後に決着をつける事も出来ただろうが、それをしてしまえば相手に屈辱感を与える事になるので、あえて見せ場を与えたのだろう。もしかすれば木剣を破壊させて反則負けになったのも狙った事かもしれない。


 それはサシコの優しさだったが、結果的に瞬殺するよりも大きな敗北感をヒデヨちゃんに与える事になった。




「…………完敗です」



 ヒデヨちゃんは圧倒的な力量差を認め言葉を絞り出した。



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