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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第67話 腕比べ!(前編)

前回のあらすじ:サシコの手にしていた剣は伝説の"天羽々斬"だった!



 サシコが無造作に取り出した剣は七重婆さんの現役時代の愛剣にして伝説の名刀"天羽々斬(アメノハバキリ)"であった。



「サシコちゃんが何でその剣を!?」


「え……やっぱり、この剣ってそんなに凄いモノなんですか……?」


「凄いなんてものじゃないわ! "天羽々斬(アメノハバキリ)"はジャポネシアでも三大名剣に数えられる名刀中の名刀よ! 」



 "天羽々斬(アメノハバキリ)"は天下に知られた名刀。その造形の美しさもさることながら、相手の六行を無効化するその実用性も三大名剣に数えられる所以だ。事実幾多の戦場で戦果をあげ、サシコ自身も紅鶴御殿での戦いでは熊野古道伊勢矢の結界を破るのに用いと聞いていたが、どうやらこの剣の希少価値には気づいていなかった様だな。



「ふ~む。あの婆さんが"天羽々斬(アメノハバキリ)"を人に託すなんてね。あの小路乃(コジノ)ちゃんすら渡すにはまだ早いと判断していたのに……」



 そう。驚きなのは実にその点だ。


 七重婆さんは現役を退いて以降も今まで誰かに"天羽々斬(アメノハバキリ)"を継承させようとはしなかった。それは剣の力が強大過ぎるゆえ、精神と実力の両方をそなえた者でなければ剣の使用者に値しないと七重婆さんが考えていた為であり、七重婆さんは後進の育成に携わりながらその対象者を探しているが長らく見出だせないでいる…………と、巷では噂されていたのだ。


 実際の七重婆さんの意図は分からんが、「剣の指南を受け、"天羽々斬(アメノハバキリ)"を手渡された」という事実だけを見ればサシコは七重婆さんに後継者として認められたという事になる。少なくともそう見なす者は多くいるだろう。



「たった1ヶ月で、"天羽々斬(アメノハバキリ)"を継承…………紅鶴御殿の近衛兵たちが今まで誰も為しえなかった事をたった1ヶ月で……」



 そして、ヒデヨちゃんの目にはやはりそう映ったようだ。その複雑な表情には畏敬よりも嫉妬と懐疑の色が強いように見える。



「ふ…………ははっ!サシコさんはとてつもない大天才ですねっ!どうやら貴方は私などの下っ端には及びもつかぬ領域の方のようだ」



 迂遠な言い回しだ。強がってはいるが、相当悔しいのだろう。

 同じほどの歳の者……それも自身より遥かに後に修行をはじめた者に追い抜かれたという思いは強烈な劣等感になる。まして彼女くらいの歳であれば、その悔しさを抑えられぬのも無理からぬ話だ。



「いや、私なんかそんな大した事はありませんよ! きっと太刀守殿に旅の途中に受けた教えがよかったのです! それにこの剣を預かったのだって、そんな大した意味はないのかもしれないですし!」



 サシコは謙遜してみせるが、その言い方は余計に彼女の気に障ったのだろう。ヒデヨちゃんは語気を強めて問いただす。



「大した事がない!? 大した事ない訳なんてないですよ! あの"天羽々斬(アメノハバキリ)"を一時的にでも渡されるのはとても名誉な事なのですよ!」



「あっ……そうですよね。私なんにも知らなくて……前にお借りした時にもそんな凄い剣だなんて全然気づかなかったですし、私のような新入りより、経験が豊富なヒデヨさんの方がこの剣を持つのにふさわしいのかも……」



 わざとなのか無意識なのか。悪気がある訳ではないのだろうが、サシコの言葉は己が才を誇り、才なき者を貶めている様にも聞こえた。



「経験か…………どうやら、才なき身ではいくら経験を積んでも足りぬようですね」



 ううむ。ヒデヨちゃん、かなり卑屈になってるな。ここは俺が口を出してなだめるべきか……



「ヒデヨちゃん。良い加減になさい」



 と、迷っているとマキが先に彼女に口をはさんだ。



「マキ姉様……」



「この世界は結果が全てよ。人の才を妬んで嫌味を言っても自分の実力が上がる訳じゃなし。ウダウダ言うのはおやめなさい」



「…………し、しかし」



「ふふ。ヒデヨちゃん。貴女は誇り高き紅鶴御殿の近衛兵でしょ? 相手の実力に疑問があるのなら、言葉ではなく己の実力でもって確認してみたらいかが?」



 マキのその言葉を聞いたヒデヨちゃんはハッとした表情をする。確かに人の実力にケチをつけたいのなら自分の実力を実際に示すのが一番だ。しかし、この場合実力を示すとは…………おいおい、まさか……



「サシコさん! …………いや、宮元住(ミヤモトスミ)殿! 一度この凡才に剣の稽古をつけて下さらんか?」



「ええェっ!?」




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 石造りの橋の下、河原の空き地にてヒデヨちゃんとサシコが畳一枚ほどの距離を隔てて向き合う。



「いいですね? 立ち会いは紅鶴御殿での試合形式……木剣で相手から一本先に取った方の勝ちです」



 ヒデヨちゃんは立ち会いの取り決めを確認する。



「はい。六行の使用はアリ。ただし、相手に打ち込む時に木剣に六行を込める事はナシ……ですよね」



「その通り」



 二人は条件を確認すると作法に乗っ取り木剣を交換して、それぞれの得物に不備がないか確認しあう。



「おい、マキ。お前が煽るからこんな事になってしまったじゃないか」


「んー? まあ、しょうがないんじゃない? 剣士同士、びしっと白黒つけといた方が後腐れもないでしょ~」


「や、それはそうだが……」


「それに同門同士、試合形式で剣を合わせるのは普通の事じゃない?」



 う~ん、まあ、そう言われればその通りだが……



「…………それにサシコちゃんに会った時に感じた違和感のようなもの。その正体がこの立ち会いで分かるかもしれないしね」



「違和感?なんだそれは?」



「う~ん。何というか言葉で言い表しようもないおかしみ、というか矛盾感と言うか……」



 マキのやつは、サシコに普通ではない何かを感じているようだ。確かにサシコの成長速度はちょっと尋常ではない。何か秘密があるようにも思えるが……



「ガンダブロウさん、この場合どっちを応援すればいいでしょうか?」



 アカネ殿が心配そうに彼女たちの戦いの行方を見つめる。二人はちょうど互いに礼をして試合を始めんとするところであった。



「うーん、そもそも応援すべき類の試合なのかどうか……」



 まあ、マキの言う通りあまり深く考えずに、単なる手合わせくらいに考えておけばいいか。



「それじゃ私が審判を務めるわ! アカネちゃんは審議が必要な時の撮影係をお願いね!」


「あいさー!」



 マキはそういうと両者の中間あたりに陣取り、右手を振り上げた。



「二人とも準備はいいわね? それじゃあ、待ったなし、一本勝負! 位置について…………始めィっ!」




 マキが右手を振り下ろすと同時に、両者が地面を蹴った!

 

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