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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第63話 前途妖々!

前回のあらすじ:マガタマを見つける為、ガンダブロウとマキはお互いが協力し合う事を約束する!


※後半部分は三人称視点



「皆さん!此度(こたび)の事は本当にありがとうございました!」



 俺たち4人が出発のため「なす乃」を出ると、ヨイチ少年と女将が見送りのために外に出てきてくれていた。



「お気をつけて旅立ってください!」


「ヨイチくんも元気でね!」



 アカネ殿が名残惜しむように言葉をかわす。思えばこの少年とも奇縁であったな。彼に騙されて過ごした時間がなければもっと早く奇跡の湯に行けたかもしれんが、逆に彼と彼の持つ天羽々矢(アメノハバヤ)がなければ三従魔を倒す事は出来なかったかもしれない。



「近くに来た時にはまたなす乃に立ち寄って下さい!今回のお礼に宿泊料を半額にしときますから!」


「ふっ。やはりタダではないのだな……」


「ええ。それはもちろんですよ、ヒデヨさん! ウチも商売ですからね!」



 ヨイチ少年は隙っ歯を見せてほがらかに笑う。この少年といいマキといい、悪びれる事なく強かに生きる者たちを見ると呆れつつも何故か笑いがこぼれてしまう。



 場所に乗り込み、「なす乃」が見えなくなるまで元気よく手を振り続ける彼の姿は、この町に限らず、ジャポネシアの端で懸命に生き続ける民の活力そのものに見えた。



「ガンダブロウさん、あれ見てください!」

「ん?……なんじゃありゃ!」



 キヌガーの町の入り口に「司教・吉備牧薪と太刀守・村雨岩陀歩郎ゆかりの地」という巨大な看板がつけ加えられていた。まさか一夜のうちにあんな物をこさえるとは……全く、商魂たくましいな、この町の人は。




 余談だが、後に判明した三従魔復活の原因は、町の人々が観光の為の観光開発の為ニコニ聖陵周辺の森を伐採していた際、封印石を破壊してしまった事にあるという。商魂たくましさが裏目に出た結果で、そういった意味では自業自得とも言えるかもしれない。しかし、俺はこの失敗を因果応報であると簡単に断罪する事はしたくない。


 未来への正しい備えと急いて事を仕損じるのは紙一重。今を生きる者たちにとって、選択できる行動は常に一つ。そして、どんな選択にも必ず危険は伴う。危険とは必ず避けねばならぬものではなく、場合によっては選ぶべきものだ……と俺は思う。そして、危険に瀕した時にこそ人間は考え、より良い結果を得られるよう工夫をする。



 はてさて彼らの選択と工夫が今後この町をどう変えるのか。いつかまたこの地に足を運び、俺自身の目でそれを確かめたいものだ。




「よーし、目指すはウィツェロピア!全速力でいってみよー!」


「マキ姉様。しばらくは登り坂が続きます。馬車ではあまり速度は出ませんよ」


「えー、そうなの~」


「そうです!というかマキ姉様、ゆっくり帰りたいんじゃなかったんですか?」


「だってしばらくただの山道で何もないからつまらないんだもん」



 俺の感傷をよそに馬車内の雰囲気は明るく、仲間たちの何気ない会話の中になんとはなしの安息感を感じられた。



「ウィツェロピアの南町には大きな賭場がありますもんね」


「えっ! アカネちゃん、何でそれを!?」


「マキ姉さんが読んでいた観光情報の冊子をわたしも読んだんですが、賭場のページに赤丸ついてましたよ」


「いつの間に!? あっ、もしかして"すまほ"を勝手に使った仕返し?汚いわよ~」


「ふっふっふ。油断しましたねー、マキ姉さん!」



 おっ、マキをやり込めるとは、アカネ殿も中々やるではないか。



「姉様!また賭け事をなさるおつもりですか!?」


「あ、いや、これはその……」


「賭け事は七重隊長から固く禁じられていたはずですよね?それをまた破られるとおっしゃるのですか?その様なおハッチャケは紅鶴御殿の司教としてェ……」



 くっくっく。なんとまあ、やかましい……


 しかし、このやかましさも時にはよかろう。



「ちょっ、ちゃんと前見て馬車を操縦してよね……て、村雨くんも何笑ってるのよ!」



 キヌガーの町に限らず、俺たちの行く手にもこれから様々な困難が待ち受けていよう。その時、どのような選択をし、どのような結末を向かえるのか。それは誰にも分からない。


 ならば、今はこの仲間たちとの旅路を楽しもうではないか。それも今選べる選択肢の一つなのであるから。

 



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 旧エドン公国領アラヤド──


 古城の薄暗い一室に不気味な能面をした男が一人佇む。男は荒らされた形跡のある部屋を眺め、何か極めて大切なものを奉っていたであろう大仰な空の祭壇に視線を固定した。男は能面越しにも感情が伝わってくるほど忌々しそうに舌打ちすると、直後、男の背後に音もなく近づくもう一つの影……



「やっかいな事になりましたねぇ。能面法師さん」



「…………ああ、君か」



「まさか、彼がこのタイミングで我々を裏切るとは……」



「他の御庭番が出払っている、この機なればこそでしょう。元より腹の読めない男。此度の事もどこまで計算して行っているのやら」



「ふん。ですが貴方の事です。既に手は打っているんでしょう?」



「無論。人形と手練れを何人か差し向けている」



「ほう。しかし、御庭番でもない者にヤツを捕らえられますかね?」



「腕だけなら御庭番並みさ。ただ、君の言う通りそれだけでは確実ではないだろう…………ここは一つ例の御一行にも力を貸して貰おうと思っていてね」



「では太刀守と異界人の女をヤツと……」



「ええ。都から北上して逃走するヤツと都へ南下する彼らは接近している。手駒も少ないですし、この際、不確定要素同士ぶつかり合ってもらうのも悪くはない」



「くっくっく、なるほど。確かに異界人たるマシタ・アカネが本当に帝を連れ戻すつもりなら、恐らくは()()を求めているはず。奴とぶつかり合う公算も高いですが…………しかし、そう上手く事が運びますかね?」



「駄目ならその時は私自らが出るまで。もとよりヤツもそのつもりだろうが…………まあ、いずれにせよ、どんな手を使っても取り戻すさ。ヤツの奪い去ったマガタマはね」



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