表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
64/262

第62話 マガタマの秘密!(後編)

前回のあらすじ:マキが語るマガタマの秘密──



 マカダマとは──



 創世紀においてヨロズ神たちがこのジャポネシアの大地や生物を造るために使用したとされる伝説の神器であり、創造と変化、そして調和を司るとされている。


 創世記とはジャポネシアで有史以前を指す時代区分であり、【聖帝】徳川(トクガワ)"国津守(くにつかみ)"佐宇座(サウザ)が大エドンを建国した概ね1000年前より以前の事を言う。


 その時代の事は記録もほとんど残っていないため今では不明な点が多く、史実と神話とが入り交じって判然としないが、考古学者や神官がわずかの遺物を便りに学術調査を進めている。


 中でもマガタマについては古文書や口伝による伝承、遺跡に残る痕跡からもその実在を伺わせるが、今のところその在りかや実態は分かっていない。




「………………と、まあここまでが一般的に知られているマガタマの情報ね。ここまではよろしかったかしら?」



 うむ。ここまでは幼年学校の教科書にも載っている内容。俺にとっては既知の情報であったが、異界人たるアカネ殿にとっては初めて聞く内容であり、マキの言葉を熱心に聞いては忘れないよう紙に書き留めていた。



「さて、こっからが私しらべの新情報。まず、その形状についてだけど、今までは様々な説が唱えられていてね。完全な球体とも胎児の形に似た楕円形とも巨大な石碑であるとも言われていて、専門家でも意見の分かれるところだったの」



 言われてみれば確かにマガタマの形状は俺が読んだ教科書にも記述がなかった気がするな。名前の響きからなんとなく小さな球体のような印象を持っていたが……



「実際、古文書などの資料でも記述がまちまちでね。この点については長らく研究者にとっては悩みの種だった……でも、私はこれをマガタマが水のようにその形状を自在に変化させられる性質をもっといるからだと結論づけた」



 なっ……物体が水のように形状変化!?

 それではまるで……



「まるで水行の"流動変質"の作用ですね」



 アカネ殿が俺の疑問を代弁するように、マキの新説への感想を述べた。



「そう。鋭いわね。古文書のほかの記述や遺跡に残る痕跡などあらゆる角度から分析した結果、マガタマとは六行の力を宿した物質で、水行に限らずあらゆる六行の属性をもっているものに違いない……と私は仮説を立てたの。そして、その仮説を証明するために色々なものを疑似マガタマに見立てて六行の力を半永久的に宿すことが出来ないか実験もしてみた。結果はみんなも知っての通りね」



 おお、なるほど。紅鶴御殿に行った時に見た自動で動く扉などはその実験の成果だったというわけか。



「まあ今のところは1属性を付与させるのが精一杯だけどね」


「とすると、マガタマとは六行を付与させる技術によって生み出された万能属性の物質……という訳か」


「いや、それはたぶん順序が逆ね。伝承を信じるなら、そもそも人間もマガタマの力によって造り出された存在。六行の力自体がマガタマ由来のもので、人間がその力を使えるのも、何らかの理由でマガタマの力が体内に残されていたからと考えるが自然ね」



 ふぅむ。六行は原初の時代に人間に与えられた神の力の残滓……か。なんとも壮大な話だ。とすると六行の力をまったく使えない俺は神からもっとも遠い存在ということか……


 しかし、マキの話が事実なら確かに伝承との辻褄は合う。俺は今まで人間やこの世界の成り立ちなど真剣に考えたこともなかったが、このような話を聞くと嫌がおうにも胸が昂るな。



「今のところはこの仮説を完全に証明できてはいなけど、まず間違いないと言えるほどの確信を持っているわ。何故なら……」


 マキはバッと"すまほ"を取り出し、「通話中」と書かれた画面をこちらに見せた。


「あ、いつの間に!」


 アカネ殿が驚く。こいつ、アカネ殿に無断で使っているのか……

 というか既に機能を使いこなしているところを見るに、俺が伏せっている間に随分と"すまほ"を使い込んでいたと見える。


「何故なら神様に直接聞いてみたからでーす! ねっ? 神様?」

『どーも、神でぇす!』


 何ィ!?

 アカネ殿以外でも直接神様と話すことって出来るの!?



「流石に直接は教えてくれないんだけどね。私の仮説を披露した反応を見る限り、まず間違いなさそうなのよ」


『探り入れるのはやめてーやぁ。いうとくけど、ワシは何も言っとらんからね~』


「でも間違ってはないんでしょ?」


『…………ほんまマキマキちゃんには敵わんなぁ、もう!』


「あ、こら!マキマキ言わない!マキちゃん、もしくはマッキーと呼んでって言ってるでしょ?」


『でっへへ!ごめんごめん☆』


 神様ってこんな軽いノリの方なのか……何か想像とはかなりかけ離れてるな。マキもマキで巫女という立場にありながら神様に対する配慮とか一切感じられないし。


 もっとも、マキは神官より学者としての側面が強く、儀式や祭事ではなくあくまで研究のために紅鶴御殿に入ったという経緯がある。故に神様へのその手の敬意はもともと薄いのかもしれんが。


「とまあ、神様のお墨付きを貰った私のマガタマ仮説だけど、やっぱり実物をこの目で確認するまでは完全な証明にはならないわ。で、その肝心の在りかについては…………残念ながらまだ目星がついてない。神様が教えてくれれば一番早いんだけど、それはどうしても教えられないっていうしね」


『そやなー。ゴメンなー。世界のバランスに関わる事は神様の口からは言えん決まりなんよー』


「もー、ケチー」


 だろうな。教えてくれるのならアカネ殿に直接話してるはずだし。


「やっぱり場所までは分からないですか……」


「まあね。でも、そう落ち込まないでアカネちゃん。全く手がかりが無いって訳でもないからさ…………実は以前発掘に行ったとがある遺跡に面白い記録が残っていてね。曰く…」


 曰く、マガタマはこのジャポネシアの大地を生み出すと同時に世界が形を失い壊れてしまわぬよう維持をする装置としての役割も担っている、と。


 故にジャポネシアのどこかにマガタマは必ず存在し続けなければならないが、裏を返せばマガタマは今なお世界に絶大な影響を与え続けているという。つまり、もしもマガタマが誰か特定の個人に占有される様な事になれば、その者の意思次第で世界の均衡は容易に崩れ去ってしまうのだ。そうさせないためにもマガタマは一ヶ所だけには留まらず、定期的に場所を移転しつづけ、それを見つけた者があっても長くその力を使えないようになっているのだ……と。


「そして仮に一時であっても悪意ある者にその力を使わせないため、時代時代の選ばれし神官がその在りかを探り、しかるべきお社を立てて管理を行うべし……と遺跡には書かれていた。創世記時代の遺跡にはマガタマを祀っていたとされる神殿が色々な場所にあるんだけど、マカダマ自体が時代によって転移し続けているというなら、それも合点がいくわ」


「という事は……今この時代にも誰かがマガタマを管理しているかもしれないって事ですか?」


「あるいは、まだ誰にも見つからずどこか誰にも知られない場所にひっそりとあるか……いずれにしても、マガタマはそのあまりに強大な力ゆえ、何らかの形でその地に痕跡を残してしまうものだと考えられるわ。例えば天変地異や触れた動植物の突然変異などによってね。つまり……」


「誰かの手で保管されているならその保管されているお社を、そうでない場合はその痕跡を探せばおのずとマガタマにたどり着く……という訳ですね!」


「アカネちゃんご明察!」



 さすがアカネ殿。理解が早いな!


 しかし、選ばれし神官か……この話が本当なら創世紀時代から連面とその使命を遂行してきた組織という事になるな。仮にそいつらがマガタマを所有し管理しているとなると、果たして一時でもマガタマを使用するのに協力してくれるだろうか。場合によっては争いになる可能性もあるやもしれん。キリサキ・カイトを相手にしつつ、まだ見ぬ新たな勢力とも争わねばならんとなると…………ふっ。いや、考えるのはよそう。心配性なのは俺の悪いくせだな。いずれにしてもマガタマ探しに光明が見えてきたのは間違いないし。今はその事を素直に喜んでおこう。



「マガタマを見つける事は私の子供の頃からの夢。私はこのマガタマ探しに人生をかけているわ。司教の地位にいるのも遺跡の調査や文献を手に入れるのに一番都合のいい立場だから…………そして幸いにも今の時代、国境がなくなってくれたおかげで調査はだいぶしやすくなっているし、そう遠くない未来には必ずそのしっぽを掴んでみせるわ」



 マキがここまで熱くなっているのは初めて見たな。マガタマや創世紀時代のおとぎ話などが幼い頃から好きだったのは知っているが、まさかこれ程に心血をそそいでいるとは。


「だから二人がマガタマを探すのなら私も協力するし、二人にも私の夢に協力して欲しいの」



 …………あっ。なるほど、読めたぞ。マキが今まで俺たちに親身になってくれていたのは、昔のよしみだけではないと思っていたが、こういう算段もあった訳か。相変わらず真意の読みにくい奴……人を小馬鹿にする女狐めいた態度といい、やっぱり完全に信用する事はできんな。


 だが…………俺はこんなに頼もしい奴を他には知らない。それにどんな思惑があれ、これ程の熱意と献身には誠意をもって答えねば男としてサムライとして年来の友として、その名が廃るというものだ。



「では、これはまた取引だな」


「ええ、そうね。"取引"…………私たちの利害は一致している」


「うむ。では、俺もお前の夢を叶えるために力を貸そうではないか」




「…………男に二言はないわね?」




「無論だ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ