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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第59話 不死鳥の剣!

前回のあらすじ:突如あらわれた2体目の大猿はヒデヨによって倒されたが……



「デ、デ、デ…………」


 赤い毛並み、ギョロリと青く光る眼、胸に大きく刻まれた十字傷……木々をなぎ倒し、その隙間から顔を覗かせたのは身の丈が20メートル以上はあろうかという巨大な大猿であった。


「「「「 デカあああああああい!! 」」」」


 3体目の大猿は今までの2体とは比べ物にならない程の巨体!おそらくはこいつがボスね!


「オオオオオオオオオオオオォォォ……………………!!!!」


「ぐうっ!」


 大気が震えるほどの咆哮に思わず耳を塞ぐ。


「あの胸の十字傷……そうか!この大猿たち"聖帝の三従魔"ね!」


「え……三従魔って、あの!?」


 マキ姉さんの話にヨイチくんが反応する。

 サンジュウマ?一体何の事かしら?


「ウバオオオオ!!」


 大猿は大きく息を吸い込むと、口から炎を吐き出した!


「やば!!」


 結界もまともに張れない今は逃げるより他に選択肢はない。とっさに着替えの服を掴んで近くの岩場の陰に逃げ込む。間一髪で岩を盾に炎をやり過ごす事に成功した。


「……ふぅ。これは厄介な事になったわねぇ」


 着物を羽織りつつ、マキ姉さんが岩場から猛る大猿の様子を伺う。


「マキ姉さん、さっきあの大猿の事をサンジュウマとかって言ってましたけど、何かご存じなんですか?」


「ええ。三従魔とは創世記時代、聖帝が倒して従えたとされる三匹の猿のことよ。名はそれぞれ、卑火猿(ヒカザル)呼火猿(コビザル)火襟弥猿(カエリミザル)…… 聖帝の死後はニコニ聖陵のどこかに封じられたと伝えられていたんだけど、きっと何かの拍子に封印が解けたんだわ」


 うーむ。あの猿たちにはそういう謂れがあるのね……しかし、今はそういった歴史的知識よりも、現状打開の方策が知りたい。ヒデヨちゃんは、さっきの大技の反動でしばらく技を使えなさそうだし、わたし達の体についた奇跡の湯が乾くまでここで耐えるしかないか…………て、あっ!


「グルルル……」


 巨猿は温泉の仕切りを見つめる…………まずい!仕切りの向こう側にいるガンダブロウさんの気配に気付いたんだ!ガンダブロウさんは今は完全に無防備、襲われればひとたまりも無い!


「いけない!」


「ウバアアアアアアアアア!!!!」


 巨猿は火炎を吐き出し、温泉の仕切りを焼き壊す!そして、そのままの勢いで炎は男湯に雪崩れ込み、辺り一面を燃やし尽くし……


「サムライのお兄さん!」

「太刀守様!」

「村雨くん!」


「…………ガンダブロウさん!」



 ……



 …………



 ………………あっ!!




「……ふうっ!!!!」



 ザバン!と黒い水飛沫を上げ、奇跡の湯から何かが飛び出した!



「ウゴアッ!?」



 その()()は目にも止まらぬ速さで奇跡の湯の縁石に置いてある着物と刀を掴むと、流れるように腰に着物を巻き付け巨猿の前に陣取った。


「んん~、いい湯だった」

 

 温泉の中を泳いで爆炎をやり過ごし、一瞬の内に戦闘体勢を整 えるその早業。そんな芸当が出来るのは無論1人しかいない。



「はぁ~、冷や冷やさせちゃってもー!ようやく目が覚めたようね……」

「…………ガ、ガっ……」



 灰色かかった黒髪に、どこか古木のような厳格さと安定感を感じさせる背中。刀を握り、力強く立つその姿は、わたし達が永らく待ち続けた光景であった…………よっ!待ってましたよ、千両役者!



「みんな、心配をかけたな」

「ガンダブロウさぁーん!!!!!!」



 剣を構えたその姿には、先程までの衰弱しきった様子が嘘のように覇気がみなぎっていた。肩口にあった薔薇の呪印も既に消えており、彼の体から醸し出す雰囲気には以前の様な頼もしさと生気が戻ってきているのが分かった。



「ウバアッ!!ウバフォアッ!!」


「ほう、随分と立派な猿だな……ふーむ、状況はよくは飲み込めんが……」



 ガンダブロウさんは威嚇する巨猿を見上げて頭をかく。妖の件は彼には伝えてなかったし、ガンダブロウさんからすれば目が覚めたらいきなり化け物に襲われているという状況だ。混乱するのも仕方ないが、経緯をゆっくり説明してる暇もない。



「なあ、この巨大な猿は斬っちまっていいんだよな?」



 ガンダブロウさんはこちらを振り返って事も無げにそう言った。猛り狂う大猿を前にしても、動揺するような素振りは微塵もない。


「もちろん!やっちゃって下さい!」

「……承知した」


 ガンダブロウさんが視線を再びに大猿に向けた時、大猿の不気味に光る瞳もガンダブロウさんを捉えた。


「ヴフォオオオォ……………………!!」


 そして巨猿は再び息を吸い込み始める!これは火炎放射の予備動作!先程にも増して大きく息を吸い込んでいるところを見るに、今度のブレスは今までよりも更に強力なものが来るであろう事が伺えた。


 しかし、完調したガンダブロウさんが前に立つ今、その恐ろしさは全くと言っていいほど感じられない。



「いけない!太刀守様は奇跡の湯から上がったばかり!六行の技を発動させられない今は逃げるしか……」


 そう叫んだのはヒデヨちゃんだ。彼女の言う通り、確かにガンダブロウさんは六行の技を自分から発動させる事は出来ない。だが、それは奇跡の湯で身体が濡れている今この状況に限った話ではなかった。



「ウゴオオオオオオオオオオオオ!!!!」



「…………猿よ」



 大猿が吐き出した火炎はやはり先程よりもかなり大きい!炎はガンダブロウさんをひと呑みにする勢いで一直線に迫りくるが……



「俺を倒すには……」



 ガンダブロウさんが草薙剣を振り抜くと、炎はまるでワタアメのように彼の周りに纏わり、空中にいくつかの流れを形成。そして、次第に一つの生物の姿を型どっていく。



「少し工夫が足りないな!!」



 翼、尻尾、嘴……炎の流れが作るのは巨大な鳥の姿!それは伝説の鳥、鳳凰やフェニックスのようであり、不死鳥のように復活したガンダブロウさん自身の姿になぞらえているかにも感じられた。


「ウッ……ウゴッ……」



 火の鳥のその荘厳なまでの威容には大猿すらも圧倒され後ずさる。



「す、すごい………でも、何で?六行の技は封じられてるはずじゃ……?」


「ふふふ。ヒデヨちゃんは村雨くんの技を知らないんだったわね」



「エドン無外流【逆時雨】…………」



 ガンダブロウさんは巨大な火の鳥を纏った草薙剣を振りかぶり、息をすって大猿を見据えた。



「あの男はもともと六行の技なんか使えないのよ。昔っから笑えるくらい才能がなくてね。でも……」



 そして──



「秘 剣 " 天 鳳 十 字 (テンホウジュウジ)返 し " !!!! 」



 剣を振り抜くと火の鳥が大猿に向かって燃え盛る翼をはばたかせた!



「あの男は相手の六行の力が強ければ強い程、その力を利用してはね返す……」



「アババアアアアァーーーーァ………………!!!」



 火の鳥は大猿の十字傷のある胸を凄まじい勢いで貫き、ナムタイ山の山頂を越えて天へと登って消えていった。



 直後、大猿の巨体は崩れ落ち、黒い煙となって消滅した。



「な、なんという破壊力……これが……」


「逆境なら逆境ほど強くなる。それが"太刀守"の……ジャポネシア最強の剣士、村雨岩陀歩郎の剣なのよ」



ちなみに


一体目の猿が火卑猿

二体目の猿が呼火猿

三体目の猿が火襟弥猿


でした。元ネタは日光のミザル、キカザル、イワザル+サウザーのあの名言……て、言わなくても分かるか。

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