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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第55話 妖怪退治!(後編)

前回のあらすじ:解禁されたあがっての空行の術を食らい、形成不利とみて逃亡を謀る妖!一行はそれを追って山の奥へと足を踏み入れるが……



「ねえ、アカネちゃんってさ。実際のところ、何属性の技が使えるの?」


 大猿を追って山道を走っていると、マキ姉さんから質問があった。


「火、空、風の3属性です」


「おお、さすが異界人!反則的ねえ!」


「ええ、でも高い精度で陰陽術を使るのは火行くらいで、後の2つは火行ほど自在には扱えないんです」


 いかに地異徒の術と言われる異界人の能力も全知全能という訳じゃない。そもそも転生者がもらえる能力は、転生時にもらえるボーナスポイントから交換するシステム(以前は無制限だったがやり過ぎる人があまりにも多かったので最近この制度になったらしい)で、当然便利な能力ほど獲得時にかかるポイントも大きい。それに加え、


「どんなスーパーカーでもジャンボ機のエンジンを積める訳やないし、100人が乗れる訳やないやろ?それとおんなじなんや」


 と、よく分からない例えで神様から説明された通り、人間の形を保つ以上搭載できるチート能力にも限界があるらしい。六行の属性においても、制御可能なレベルで使えるのは2~3個が限界らしく、更に習得する陰陽術の練度も割り振りポイントのバランスと呪力のメモリの関係上、全ての属性を最高レベルで設定するのは現実的ではなかった。そういう訳で、わたしがジャポネシアに来る前にカタログから選んだのは火、空、風の3属性──一応、それぞれに選んだ意味がある──で、このうち最高レベルで使える設定にしたのは火行だけなのだ。


「いや、それでも充分過ぎるわ。この世界の六行使いが使える属性は二つが限度だからね…………と、雑談してる場合じゃないわね。この近くに潜んでるよ!」


 木々に囲まれた開けた空間に出ると、マキ姉さんは注意を促しつつ、更に集中を深め場所を探るのに専念していた。


「ん? しかし変ね……近くにいるのは分かるんだけど……何故か上手く場所を察知できないわ……」


 先ほどはピタリと大猿が接近する方角を予測したマキ姉さんだったが、今度は何故かその出現場所を探りあぐねていた。


「後ろだ!!」

「ギャオウ!!」


 与市くんの声にわたしは振り返り、間一髪で結界を展開!大猿の攻撃を目前ではじく。


「ウバウ!!」

「あ、また逃げた!」


 大猿は再び森の中へと撤退する。

 まさか……ヒットアンドアウェイ作戦!?


「マキ姉さん!」


 すかさずマキ姉さんに場所の特定を促す。しかし……


「んん……待って。これは……大猿が森に隠れた瞬間に私の感知が効かなくなった!? 何故だか分からないけど、この辺りの木々には識行の感知を阻む作用があるみたいね……」


 そんな!ここに来て頼みのマキ姉さんの感知能力が使えないなんて……


「大猿の姿は目視で捉えるしかないようね」


「この四方が木に囲まれた空間でっスか!?それってもしかしてメチャクチャ不利なんじゃ……」


「んー、まあ、そうとも言えるね……」


 与市くんの指摘の通り、確認するまでもなくこちらが不利だ。完全に敵の土俵に引きずり込まれた形……これは、もしかして……いや、もしかしなくても……


「まんまと罠に嵌められたわ」

「ギャオッ!!」


 大猿の追撃!再び結界ではじくが……


「くっ!空行……」

「ウバウ!!」


 やはり、こちらが反撃の陰陽術を発動させる前に逃げ去ってしまう!またも、一撃離脱!これじゃ術の狙いを定める隙もない!


 これは野生の獣というより、獣を待ち伏せて捉える猟師の戦い方。ゴリラやオランウータンは人間に近い知性を持つというが、人間を逆に罠に陥れるなんて、この大猿もかなり賢いみたいね!


「これじゃ、どっちが猿でどっちが人間なんだか分かんないわねえ」



 イヤ、感心してる場合っすか、マキ姉さん……



「ギャウ! ギャウ! ギャウ! ギャオウ!」



 縦横無尽に森に出入りしながらの連続攻撃!


 むう……攻撃方向が読みづらいわね。ただ、離脱しやすさを優先してるためか一発一発の威力はさほど高くない様だ。四方に結界を展開し続ければ攻撃を防ぐ事自体は難しくないが、このままだと継続的に呪力を使い続けなければならず、いずれは呪力切れになってしまう。つまりはジリ貧、大ピンチ。ミイラ取りがミイラ一歩手前だ。さて、この状況……どうしたもんか?



「ウバァ!ギャオワ!」


「くっ……このままじゃ嬲り殺しです!こうなりゃ一か八か、デタラメにでも攻撃してみましょうよ!もしかしたら、それが当たって倒せるかもしれないし……」



 結界の内側で与市くんはそう主張するが……



「ダメね。万が一攻撃が当たっても、結界がある内は致命傷は与えられないし、呪力の無駄遣いでしかないわ」


 と、マキ姉さんが反論した通り、数打ちゃ当たる作戦はあまり意味はないだろう。仮にやるとしてもまだ今はその時じゃない。



「わ、分かりました…………ヤツの結界を破れればいいんですよね?」


 そう言うと与市くんが、背負っていた弓を構える。



「ウギャオッ!ウギァオウ!」


「ちょっと!ただの矢じゃ当たっても結界に阻まれるだけよ!」


「コイツはただの矢じゃない……コイツならヤツの結界も破れるはずなんです」


 与市くんが一本の矢を取り出す。その矢じりは通常のものと違い不思議な黒い金属で出来ていた。


「その矢は……天羽々矢(アメノハバヤ)天羽々斬(アメノハバキリ)と同じく、六行の力を破る力があるという伝説の矢……何故あなたがそれを!?」


「こいつは戦争で死んだおっ父の形見……オイラも詳しい事は分からないけど、トッチキム一の弓取りと言われていたおっ父は天羽々矢(アメノハバヤ)を王より下賜され、5年前の統一戦争を戦ったんです」


「ギィア!ウギュアアッ!」


「そして戦場で帝を狙撃し、結界を一時的に破って手傷を負わせた。あの無敵の帝に文字通り一矢を報いたんです……しかし、それが帝の逆鱗に触れ、激しい逆撃を受けておっ父は戦死。それが原因で旧トッチキム領は統一後も共和国から冷遇される事になって……」


「与市くん……そんな悲しい過去が……」



 …………あのー。



天羽々矢(アメノハバヤ)は虎の子の一発しかないけど、これが当たればアイツを倒せるかもしれない!それなら一か八か、やってみるのがこの矢を引き継いだオイラの使命だ!」


「よく言った!ヨイチくん、見直したよ!」


「ギャオウ!ギャオウ!」



 身の上話は後にしてくれないかしら!こっちの結界もそろそろ限界が近いんですけど!


「そういう事なら手はあるよ!ヨイチくん、天羽々矢(アメノハバヤ)をつがえたままちょっと待ってて!必ず矢を当てる隙を作るから……アカネちゃん!」


「はいぃ!」


「私が合図したら結界を解除して、左右と背後、それから頭上にデタラメに術を放って!」


「ええ!? そんなヤケクソな攻撃じゃ当たる訳……」


「説明してる暇はないの! とにかく任せたよ!」


 うーん……よく分からないけど、何か考えがあるっぽいし、今はとにかくマキ姉さんの策に乗ってみよう!対抗案を考えてる余裕も時間もないし……


 わたしが頷くと、マキ姉さんは攻撃のタイミングを見計らって大猿の動きを注視した。


「まだよ、まだよ…………動きをよく見てぇ……………………いち、にィ、の…………今よ!」


「火行【二十火鼠(ハツカネズミ)】!!」


 大猿の攻撃が途切れた一瞬、マキ姉さんの合図でわたしは術をデタラメに撃ちまくった。



「「「「 チュウ~~!!!! 」」」」



 左右と背後にヒノチュウくんたちの大群が跳ね回り爆発する。まるで隅田川花火大会の様相だ。下から見ても横から見ても打ち上げ花火。弾幕としては効果的だと思うが、それも一時的なこと。しかも、この弾幕は前方がかまくらの入り口の様にポッカリと空いていて、結界を解いた今、そこから攻められたら…………て、あっ!そうか!



「ウバアオォッ!!」


 大猿はやはり前方より現れた。結界が解かれた今が大チャンスと抜け目なく判断したのだろう。炎を纏いながら突っ込んでくる。


「来たっ!ヨイチくん!」

「おおッ!!」


 ヨイチくんは待ってましたとばかりに矢を引く。彼の眼に迷いはない……!


「くらえ!」


「ギャキィ!!」


 矢が命中し、大猿の動きが止まる!


「あ、あ……当たった!」


 攻撃経路が前方の一点に絞れた事で大猿の不規則な動きに惑わされる事なく、正確な狙いで矢を放てたのだ。しかし、それでもこの土壇場で外せないイッパツを決めたのは凄いわ。まさに乾坤一擲!お見事ね!


「……勝機っ…………アカネちゃん!」

「心得てます!」


 わたしは既に陰陽術を発動させる準備に入っており、ひるんで隙を見せた大猿に手をかざしていた。


 皆で繋いだこの絶好機……野球でいえば9回裏満塁サヨナラの大チャンス!ヨイチくん同様わたしも外せないわ!



「空火合行【電光火鼠(デンコウヒネズミ)】!!」


 術を発動させると、黄色の毛並みで火花の代わりに球体状に電気を纏ったヒノチュウくんが出現し、猛スピードで大猿に突撃した。


「チュウウウウゥーーーウ!!」

「ウババババアァーーーア!!」


 激しく感電した大猿は轟音と共に、背後に数十メートル吹っ飛ぶ!身を隠すのに利用していた木々をなぎ倒し、すぐ後ろの崖下に落下!ついでドボンという着水音が聞こえた。


 すかさず走って、崖の淵まで行くと落ちた大猿の姿を確認する。大猿は10メートルほど眼下の沼とも泥ともつかない黒いコーヒーのような色の水場に浮いてきていたが、程なくして蒸発するように煙となって霧散した。


「ふー、何とか倒せたようねぇ……」


 これで妖退治は完了。安堵し、一息つくと蒸し暑さと疲労から全身汗だくになっていた事に気がつく。


「やった!ついにやったっスよ!マシタさん!」


 ヨイチくんとマキ姉さんが後ろから駆け寄ってくる。


「いやー思ったより手強かったわねー!一時はどうなるかと思ったけど終わり良ければ全て良し……ってね!」


「ははは。でも、ちょっと疲れました……早く山を下りて宿の温泉に入って疲れを癒したいですね」


「それなら山を下りるまでもないですよ」


 ヨイチくんが崖下を指さす。


「妖を追ってる内についてしまいましたね……ここが、本当の奇跡の湯ですよ」




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