第54話 妖怪退治!(中編)
前回のあらすじ:妖退治に出向いたアカネたちの前に件の妖が姿を現す!
「ウバアアアアアアアァァ…………!!」
身の毛もよだつ咆哮……!
現れたのは件の妖──黄色の毛並みに緑のトサカの大猿だ。その姿はどことなく南国な雰囲気を漂わせる。
「で、で、で…………出たァーー!!!!」
与市くんが絶叫すると、それに呼応するかのように大猿も興奮して跳び跳ねる。
「ヴアオッ!!ヴバアオッ!!」
むっ、威嚇のつもりかしら。今にも襲って来そうな感じね。だけど……
「思ってたよりは小さいわね」
と、マキ姉さんが言うように、やや拍子抜けの感もあった。身の丈はおよそ2メートル。確かに大きいのだけれど、先にこれより遥かに巨大な御庭番十六忍衆の皆さんの変身体を見ていただけに、その大きさに圧倒されるという事はなかった。
「二人とも下がって!」
少なくとも聞き込みの証言にあった「木々を腕で軽々なぎ倒す」という話は誇張のようだ。しかし、油断は禁物。相手が未知の能力を持った妖である以上、ここは慎重に……
「ビャオウッ!!」
「……な!?」
大猿がいきなり飛びかかってくる!
は、速い!
「……ヴォア!?」
大猿の突然の攻撃には反応が遅れた。しかし、事前に結界を張っていた事が功を奏し、引っ掻き攻撃は結界にはじかれた。大猿は驚いて後ろに大きく飛び退く。
「おおっ、速っ!」
「ま、まったく動きが見えなかった……!」
飛び込みも逃走も極めて俊敏だ。マキ姉さんと与市くんもその速さには驚いている様子。
なるほど。大きさはさほどでない分スピードが武器なのね。それに加え、デタラメに跳ね回る不規則な動き……これを眼で捉える事は難しいわね。さすがに、寄せ集めとはいえ討伐隊を何度も退けただけの事はある。ならばこちらも火行【媒倍火】で身体能力を強化し、そのスピードに対抗するという手もあるけど…………いや、それより!
「火行【鼯火】!!」
わたしは得意の火行ネズミくんシリーズ、【鼯火】を発動する!
「さあ、頼んだよヒモンガくん!」
この術の最大の特徴は自動追尾であること!どんなに速く動いてもわたしのヒモンガくんはどこまでも相手を追っていく!
「ウヴォアっ!?」
大猿は攻撃を避けようと跳躍するが、三体のヒモンガくんがそれを追って飛んで行く!数秒ほど逃げるも、結局かわし切れずに三発とも空中で命中!大猿は爆煙を上げて地面に落下した。
「やった!」
与市くんが喜びの声を上げるが…………むむっ!
「……ゴアアアッ!!ウバア!!」
「あららっ、元気いっぱい!?」
おーー、ピンピンしているわね……
クリーンヒットしたようにも見えたんだけど、案外硬いのかしら?
「ふうん、今のは結界ね……それも火行の結界」
戦いを見ていたマキ姉さんはそう冷静に分析する。
「攻撃が当たる直前に防御用の炎を展開させ式神と相殺させた。意外と芸達者のお猿さんのようね」
うーん、わたしの術と同じ属性のバリアか……これを破るのにはちょっと苦労しそうだけど、それは大猿の方も同じなはず。この膠着状態、どう打破すべきか。
「ウッ、ウウッ……ヴォバアアアアアアアッ!!!!」
ありゃ、今の攻撃でかなり怒らせてしまったようね。
怒髪天の勢いで再び咆哮を上げると、大猿は体中に火行の炎を纏い、丸まって地面を飛びはねた!そして、ドライブスピンのかかったテニスボールの様にボン、ボンと地面をバウンドしながらこちらに迫ってきた!
「ウバアッ!!」
「……くっ!!」
大猿の回転体当たりはまたも結界に直撃する!しかし、今度は先程にも増してすごい衝撃だ!わたしの結界は大砲の直撃にも耐える強度だけど、防壁の接触面が火花を散らし今にも破れそうな程に軋む!
「こりゃ悠長にはしてられないわね!」
火行と火行。同じ属性なら単純に威力が高い方が打ち勝つ。大猿には炎に加えて物理的なパワーがあるので、まともにぶつかり続ければこちらの結界が先に破れてしまう。ならばと、こちらもより高威力の陰陽術で対抗しようとすれば、詠唱が必要になる分手数で劣るし命中させるのも難しい。かといって相手が動き回っていても当てられるほどに広範囲・高火力な術は、この辺りの小屋とか鳥居なども破壊してしまうし、飛び火して山火事になる恐れもあるので、なるべくなら使いたくはなかった。
「ど、どうするんですか!?」
与市くんが怯えた表情で叫ぶ。
うーん、しょうがない。あんまり練習していないので得意ではないのたけど、あの属性の技を使うしかないか……
「空行【稲荷電】!!」
わたしが術を発動すると、稲光と共にバヂン!という破裂音が鳴り響き、電撃が大猿を襲った!
「ギイッ!!」
「おおっ、効いた!」
大猿の動きが止まる。空行は全ての属性の中でもっとも術の貫通力が高く、衝撃の伝播もさせやすい……という神様からの説明通り火行の結界の上からでもダメージが入った様だ。しかし、致命傷には程遠い。大猿は3秒ほどでまたすぐ動き出すと、今度は身の危険を感じたのか背中を見せて一目散に逃げ去ってしまった。
「あ……待って!」
大猿が逃げた先は与市くんが言っていた奇跡の湯があるという方角だ。
「追いましょう!どっちに逃げようが、私の探知能力とこの"けーたい"からは逃げられないよ!」
マキ姉さんに先導され、わたしたち三人もナムタイ山の奥地へと走り出した。




