表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
51/262

第49話 おしゃべり温泉!

前回のあらすじ:キヌガーに到着した一向は、町の少年・与市の案内で六行の術に効果があるという温泉旅館にやってきた。



「フゥー、生っき返る~!」


 温泉に入るなり、マキ姉さんはグッと伸びをしてそう言った。今日の宿──与市(ヨイチ)少年の旅館「なす乃」には六行の術にすら効くとされる奇跡の湯と普通の温泉とがあるそうで、ガンダブロウさんの湯治の間、わたしたち三人は後者の方で旅の疲れを癒す事にしたのだ。


「はぁ……なかなか良い湯加減ですねぇ」


 ヒデヨちゃんもウットリとした表情でとても気持ちよさそうだ。わたしもゆっくりお湯に浸かるのなんて久しぶりで、肌を包む極上の暖かさに涙が出そうになる。慣れない旅の中でも、何が一番辛かったかって、お風呂に入れない事が一番辛かった。飲料用以外にも水は馬車にも積んではいるし、火行を使えるのでお湯を沸かす事もそこまで難しくはない。だけど体を洗う分はまだしも、桶に溜めて浸かれる程の量は流石に道中では用意できない。こんな事なら水行の属性を神様に貰えばよかったと後悔したくらいだ。


「紅鶴御殿では肩凝ることばっかだったし、たまには温泉旅行もいいわね~」


 マキ姉さんは半身を出して、湯船の岩にもたれるとそのスレンダーな足を組んで楽な体制を作る。


「……」


 なんというかマキ姉さん…………とてもエロい。女のわたしが見てもドキッとする程の凄いプロポーションだ。


「おや?私の体に何かついてるかな?」


 視線に気付いたマキ姉さんは、自分の乳房を艶かしく掴み、見せつけるように持ち上げてみせる。

 わたしも平均的日本人女子高生の数値(保健の教科書調べ)よりは上なのだけど、ハリウッドの女優さんのようなナイスバディを前にしては気圧されるばかりだ。


「マキ姉様!お下品ですよ!」


「あら、ヒデヨちゃん。アナタもまた随分と……うふふ。イイんじゃないかしら?」


「な、何ですか?」


 ジロジロとヒデヨちゃんの身体を眺めるマキ姉さんの眼はまるっきりエロ親父のそれだ。


「いや~、あの小さかったヒデヨちゃんがねえ~。今や立派な大人の女ね~!」


 ヒデヨちゃんは女同士とはいえ、奥ゆかしく手拭いで自分の身体を隠していた。だが、その上からでも分かるほどの凹凸は、年齢に比してはかなり育っていると言える。そういえば、サシコちゃんも年齢に似合わぬバストだったな……ジャポネシアの人は皆こうなのだろうか?何というか、多少はイケる方だと思っていただけにちょっと自信をなくす……


「しっかし、こんなスケベな身体した娘を世の男たちがほっとくなんて思えないわねぇ~。ヒデヨちゃん、誰かイイ(ヒト)いないの?」


「なっ、やめてください!」


 そう問われたヒデヨは顔を真っ赤にして否定する。


「い、い、い、いる訳ないじゃないですか、そんな…………!わ、私は誇り高き紅鶴の近衛兵ですよ!まだ剣の道も半ばの身で恋愛にウツツを抜かしてる暇はないんです!」


「え~、もったいない。そのスケベな足で膝枕なんかして上げたら、男なんていくらでも落とせるのに」


「男になんて興味ありません!」


「ふーん。ウチは男子禁制だけど外での恋愛は禁止されてないし、若い内に色んな男と遊んだらいいのに。大人になってから経験浅いと悪い男にだまされるよ~」


「ほほ、ほっといて下さいっ!!」


 ヒデヨちゃんはそっぽを向いてしまう。マキ姉さん……好きな子にはイタズラしちゃって嫌われてしまタイプね。


「おー、もー、お堅いな~。ねー、アカネちゃん?」


「いや……あはは」


 こっちに振られても困る。だって、わたしも似たようなものなのだし……元の世界に居た頃は勉強に部活に兄探しと、異性に好意を持つ余裕はなかった。まあ、確かにその結果、楼蘭堂のぼったくりホストに引っかかてるんだから、そういう事の場数は踏んでおいた方がいいというのは本当なのかもしれない。


「今のヒデヨちゃんにとっては剣術が青春の全てなんですよ、きっと」


「そうねー。私も彼女くらいの年の頃は陰陽術の修行に打ち込んでたかな。ま、私は要領がいいから並行して色々と遊びもやっていたけど」


「あ……そういえば、マキ姉さんはガンダブロウさんと同じ道場の出身なんですよね?」


「そうそう。今は亡きエドン公国でね」


 エドン公国……兄貴が滅ぼしてしまったというガンダブロウさんの故郷ね。二人はそこの生まれで幼なじみ。あまり仲が良さそうには見えないけど、まあ付き合いが長いが故に気の置けない仲って事なのかな。


「二人がいた道場ってどんなとこだったんですか?」


 これはかねてより気になっていた事だ。ガンダブロウさんは剣術、かたやマキ姉さんは陰陽術。それぞれ専門分野が違うのに同じ道場というのは少しおかしな気もする。


「ああ、そうね。我問塾(がもんじゅく)は……あ、私らが居た道場の名前ね……外面としては一応武術道場というていなんだけど、実際は六行使いの育成機関で、素質のある子供がたくさん集められ、各々にあった六行の開発と実用の為の訓練をしていたの」


 なるほど。六行使いのエリート養成所といったところか……わたしの世界で言うところの名門進学校みたいな感じなのかしら?


「六行使いが珍しいのは今でもそうだけど、戦争中は今より更に六行使いが重宝されたからね。お国のために働く優秀な六行使いの育成はどの国も血道を開けて取り組んでいて、特にエドンでは六行使いの地位はとりわけ高かった。だから、道場では皆身を立てるために必死で、毎日が競争だったわ」


 受験戦争や出世競争など、わたしのいた日本でもそういった横の争いはある。実際わたしも高校受験は結構頑張って、そこそこの偏差値に入れた。だが、この世界での争いはそれこそ文字通りの戦争。きっと平和な日本の普通の家庭で育ったわたしの乏しい人生経験じゃ想像もつかない、壮絶な世界なのだろう。


「でも、結局戦争の終わった平和な世では六行使いの戦士は不要になった。私は七重バアの口利きで紅鶴の巫女になれたけど、あの時同じ釜の飯を食べた仲間たちは散り散りになって、今はどこで何をしてるのやら……」


 戦争は疑うまでもなく悪い事だ。人の命より大切なものはない。これは絶対の真理で、どんな世界でも変わらない……と割と強めに信じている。だから戦争が終わった事は、異界人のわたしが言うのはおこがましいが、とても良い事なのだと思う。


 しかし、兄貴が行った統一とそれによる歪んだ秩序は、本来ならば戦乱の世界で活躍するはずだった人たちの人生を大きく狂わせてしまった。彼らは仕事と生き甲斐を失った。これもまた事実であり、そうして行き場を失った人たちが悪事に手を染めるのはこの世界にきてから何度か目にしている。これを平和な世界に順応できない人たちの暴挙と断じる事は簡単だし、テレビや新聞を通して見知った事ならばきっとわたしもそう思えたのだろうが、現実にそういう現場を見てしまった今のわたしには単純にそう思う事は出来なかった。


「別に道場の連中とは仲良しこよしだった訳じゃないんだけどね。司教になって、毎日せわしなく仕事をしている中でも、何となくあの時の仲間たちの事は心に引っ掛かっていたのよ。だから村雨くんが、紅鶴御殿に会いに来てくれた時は正直嬉しかった。ああ、世界が変わっても何だかんだ頑張って生きてるヤツもいるんだなって」


「……」


「……ま、私の話はいいわ。それよりアカネちゃんの話を聞かせてよ。ぶっちゃけさ…………どうなの?村雨くんとは?」



 感慨にふけっていた所に強烈な不意討ち──

 おお……それ聞くか。わたしも女子である。こういうガールズトークでの作法はわきまえているつもりだ。当然、マキ姉さんの問いの意図するところは即座に分かったが、あえて分からないフリではぐらかす。



「えっ?どうって……?何がですか?」


「うふふ。決まってるでしょ。村雨くんとの事よ」


「……いやいや、何もないっすよ。もちろん」


 ガンダブロウさんに対する思い……家族以外の異性とここまで時間を共にした事はないし、ぶっちゃけ意識しないという事はない。


「ふーん、ホントカナ~?」


「ないですナイデス。ほんとにホント二」


 あえて取り澄まして否定する。確かに彼の人柄はどんな側面で見ても誠実だし、意外と女々しいところもあるけど、男性としてこれ以上頼りに出来る者もそういない。彼氏を作るならこういう人がいいなと素直に思う。ただ、だからと言ってこれより先の関係にすぐに進みたいかと言えばNOだ。ガンダブロウさんとの間には人格的な部分とは別次元でクリアしなければいけない問題が多すぎる。


「そっかー。村雨くんはナシかー。うんうん。アカネ的には村雨岩陀歩郎はナシ……と」


「あ、いや、そういう訳じゃ……なくもなくもないというか……ガンダブロウさんは素敵な人だと思うんすよ。でも……」


 異界の者同士だし、年齢も離れているけど、わたしはそれを理由に分かり合えないとは思わない。だが、わたしのような存在はこの世界では言わばゲームのバグみたいもの。この世界に与える影響は少ないに越した事はないはずなのだ。第一、ガンダブロウさんがわたしの事をどう思ってるかは分からないし、表立っては言わないが、彼が兄貴から受けて仕打ちを考えれば、異界人でしかもその身内であるわたしに嫌な感情があっても不思議ではない。


「…………でも、わたしがガンダブロウさんを取っちゃったらサシコちゃんに恨まれちゃいますからね!あははは!」


「ふぅーん」


 とりあえずこの場は、そう言ってお茶をにごした。何もないというのは少なくとも現時点では事実であるのだし、これ以上突っ込まれて思ってもみないような事を口走らないようにしないと……


「なかなか難儀ねー」


「な、何がでしょうか?」


「ん?いや、何でもなーい」


 うっ、マキ姉さん、なんすかその眼は。なんかあらぬ誤解をされてはおりませんかね……?


「ていうか二人とも……」


 今まで黙っていたヒデヨちゃんが話に割って入る。その顔は、よく熟したすもものように赤くなっており……


「いつまで浸かってるんですかー!のぼせちゃいますよー!」


 あっ、言われてみれば確かに……雑談に熱中して長湯し過ぎたわね。ガンダブロウさんも温泉から上がっている頃だろうし、わたしたちもそろそろ出ないと。


 今後ガンダブロウさんとの関係がどう変わっていくにしても、まずは元気になってもらわないと。なにはともあれ、話はそこからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ