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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第47話 湯治へ!

前回のあらすじ:ガンダブロウにかかった術を治療するため一行はキヌガー温泉に向かう!



「うーーーん、久しぶりの外ね!」


 紅鶴御殿を出発すると間もなく、マキ姉さんは馬車の荷台で大きく伸びをした。


「普段はずっと紅鶴御殿の中にいるんですか?」


「そうそう。紅鶴の巫女には色々と古くさい規則があってね。特に司教ともなると、公務以外で外に出るには長々とメンドーな手続きがいるの。一応自分の家もあるんだけど、その家にすら最近は使用人たちに任せっきりで全然帰れてなかったし。だから今回は例外中の例外ね」


 紅鶴御殿の巫女を辞めるとまでタンカを切ったマキ姉さんだったが結局は留意され、今回は楼蘭堂撃退の功労者たるガンダブロウさんの命を救うためとあって特例として紅鶴御殿を離れる事を許可されたんだとか。


「いやー、ホント解放感すごいわー!紅鶴御殿は好きな事を研究できるのは良いんだけど、儀式だとか祭事だとか言って肩こる行事が多いのよ」


 ははは、仮にも司教の立場にある人がそんな事言っていいんだろうか。七重婆さんの忌々しそうな顔が目に浮かぶようだ。


「ま、そういう意味じゃ、村雨くんに感謝ね」


 そう言うと荷台の後方を見やり、横たわるガンダブロウさんの額をペチンと軽く叩く。


「ぐっ……こらマキ……!」


「おっと、起きてたの。ダメダメ、病人は寝てなきゃさ」


 ガンダブロウさん……相変わらず辛そうだけど、病状の悪化はひとまず止まってはいる。高熱には変わりがないものの、当初の状態と比べれば多少マシにはなった様な気もする……


「ヒデヨちゃんも外出るは久しぶりなんじゃないのー?」


 御者を務める紅鶴御殿の近衛兵──野内日出代(ノウチヒデヨ)ちゃんにマキ姉さんが話しかける。彼女は若年ながら今回のマキ姉さんの護衛……という名のお目付け役に抜擢された。


「いえ、わたしはマキ姉様のお屋敷をお守りするのにしばらく紅鶴御殿を離れていましたよ」


「ああー、そうだったわね」


「はい。でもアイズサンドリアを出るのは紅鶴御殿に来て以来はじめてです。任務ではありますが、今の世界がどうなっているか、知見を増やすいい機会とも思ってます」


 わたしとガンダブロウさんとマキ姉さん、それにヒデヨちゃん。ガンダブロウさんにかかった術を治すための湯治はこの四人で向かう事になった。



 そのメンバーにサシコちゃんの姿はない──



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「えっ!サシコちゃんここに残るの?」


 あれほどガンダブロウさんの事が大好きで旅の同行が決まった時にも大喜びしていたサシコちゃんが同行しないと言い出した時には心底驚いた。


「はい。今のあたしが付いていっても、太刀守殿に何もしてあげられないですから」


 サシコちゃんは寂しそうに、そして力強い意思を感じさせる瞳でそう言った。


「あたしだって本当なら付いていきたい。でも、今はそれより覚醒した風行の力を鍛えて、太刀守殿が元気になった時に一人前の戦士として馳せ参じる事が一番お役に立つ道だと思うんです」


「サシコちゃん……」


 サシコちゃんが六行の力に目覚めた事は聞いた。しかし、だからと言って実際の戦いでそれがすぐに役立つかといえばそうではないだろう。六行の技を使えるのはあくまでスタート地点で、そこから訓練を重ねてようやく一人前といえる……というのはガンダブロウさんの受け売りだ。勉強やスポーツでもそうだが、才能があっても努力を積み重ねなければ結果が出せないというのはどの世界も共通なようだ。神様からいきなり最高レベルの陰陽術を使える様にしてもらったわたしとしてはサシコちゃんの健気さにはいたたまれない気持ちでいっぱいになる。


「よく言った!その心意気、気に入ったよ!」


 サシコちゃんの話しを聞いていた七重お婆さんも、その覚悟に心打たれたようである。ズンズンとサシコちゃんに近づき肩をバシッと叩く。


「私が師匠になって一人前の戦士にしてあげるよ!」


 七重お婆さん、凄い乗り気ね……意外とこの人熱い人なのかな。


「ありがとうございます。でも、あたしの師匠は太刀守殿だけと決めていまして……」


「なーに、私はガンダブロウの小僧にも、やつの師匠にも剣を教えた事があるんだ。師匠の師匠なら実質師匠みたいなもんだろ?」


「えっ、いや……」


「安心しな!超短期集中型で鍛えてあげるから三ヶ月後には一人前の剣士として元気になったガンダブロウたちと合流できるようにしてやるよ!」



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「サシコちゃん、頑張ってるといいなぁ」


 サシコちゃんは立派だ。そもそもこの旅自体がわたしのワガママみたいなものなのに、手を貸してくれている彼女やガンダブロウさん、マキ姉さんたちは皆揚々と協力してくれている。感謝してもしきれないが、それは言葉じゃなくて行動で示さないと。だから、わたしも出来る事は労を惜しまずやろう。それがジャポネシアの人たちの流儀だから……って、ふふふ。何かわたしもガンダブロウさんに似てきてるのかな。


「ねえねえ、アカネちゃん。さっきから八咫鏡(ヤタノカガミ)を触ってるけどそれは何をしてるの?」


 わたしがスマホを使ってガンダブロウさんの熱を少しでも和らげる方法を──現代医療や民間療法が陰陽術に対抗できるとは思わないけど、ダメ元で──探していた時。マキ姉さんは液晶画面をタップするその動きを目ざとく観察していた。


「ああ、これはネットって言って……なんていうか、色んな人が記録した知識を探してこの鏡面に映写させる機能なんです」


 スマホの機能についてはサシコちゃんやガンダブロウさんにも何度も聞かれただけに、説明するのはさすがに手慣れてきた。


「例えば、『解熱 民間療法』と文字を入力すると、ネット上で共有されている文章で一致するものがあればこんな感じで検索結果が表示されるんです」


 スマホの画面を向けて、操作して見せるとマキ姉さんは物珍しそうに「ほうほう」と何度も頷いた。


「帝は八咫鏡(ヤタノカガミ)から神の叡知を得ていると話には聞いていたけど……なるほど、こういう方法でやっていたのね」


「はは、神の叡知ではないですよ。あくまで一般の人たちの間で共有されている知識で…………あ、でも本当に神様の話を聞く事もできるか」


「へ?」


 マキ姉さんに神様とのトークアプリの履歴を見せる。内容はちょうど昨日ガンダブロウさんの事を相談した時のものだ。



::::::::::::::::::::::


 マガタマの手がかりを教えて貰える様になりました>(★‿★)


【神】<さすがお嬢ちゃん!順調やな~!


 ただガンダブロウさんがロクギョウを食らって>(★‿★)


 病気になってしまいました……>(★‿★)


【神】<ほ~ん


【神】<そら、大変やね


 あたしのせいなんです>(★‿★)


 何とか治す方法はないでしょうか>(★‿★)


【神】<お嬢ちゃん可哀想……


【神】<ワシ慰めてあげたい


 あの、治す方法は>(★‿★)


【神】<男には唾つけときゃええよ



::::::::::::::::::::::



「ナニ…………これ?」


 神様とのやり取りを見て、マキ姉さんはポカンとした表情だ。


「神様と文通のような事をしているんです」


 驚くのも無理はない。この事を知ったガンダブロウさんやサシコちゃんもやはり驚いていたし、逆の立場ならこんな事、到底信じられない。


「あ、神様のルールに触れない範囲で色々教えてくれますけど、何か聞きたい事とかありま…」


「あるに決まってんでしょ!!」


 そう叫ぶと、それからキヌガー村に着くまでの道中、マキ姉さんは自身の研究にまつわる事をトークアプリで神様に延々と質問攻めしていた。マキ姉さんにはこれで少し恩返しできたかな?



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