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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第46話 誇りと使命!

前回のあらすじ:六行の力に覚醒したサシコ!その事をガンダブロウに報告しようと司教の間に向かうが……


※一人称視点アカネ



「ガンダブロウさん!?」

「村雨くん!?」


 ガンダブロウさんがその場に倒れるとわたしはすぐ様駆け寄り額に手を当てた。


「すごい熱……!」


 スマホの体温計アプリを起動し、ガンダブロウさんの額にかざすと…………よ、41.8℃!? 一体ガンダブロウさんの身に何が起きてるというの?


「アカネちゃん!ちょっと代わって!」


 マキ姉さんが代わりにガンダブロウさんの様子を見る。


「こ、これは……!」


 ガンダブロウさんの上の着物をマキ姉さんが脱がすと、右肩の辺りにドス黒い薔薇の模様が浮き出ていた。これって……熊野古道伊勢矢の攻撃からわたしを庇った時の……!?


「熊野古道伊勢矢の技……遅効性の呪力の毒……!」


 ……これは、わたしのせいだ。ジャポネシアの人に迷惑をかける事はしたくなかったのに……わたしのせいでガンダブロウさんが毒に冒されてしまうなんて……!


「マキ姉さん! ガンダブロウさん……治りますよね?死んじゃったりしませんよね?」


「…………詳しい事はもう少し調べてみないとまだ分からない。けど、この術は識行によるもの…………ならばこの毒は直接体を破壊するというよりも精神に何らかの影響を及ぼす効果が主体のはず。高熱は副次的なものと考えるなら、すぐに死んでしまうような事はないと思うけど……」


 マキ姉さんはそう言うが、その険しい表情がガンダブロウさんの症状が決して軽くはない事を物語っている。


「ああ、ガンダブロウさん、ごめんなさい。わたしがあの時結界を解除してしまったから……もう少しだけ踏ん張れていればこんな事にはならなかったのに……」


「泣き言言ってる場合じゃないよ!とりあえず、濡らした手拭いもってきて!あと、氷がいるね!下の階の祭事の間に水行を使える巫女がいるから、その人に…」


「太刀守殿!あたし、六行の技を……」


 緊張の走る司教の間にサシコちゃんが駆け込んでくる……ガンダブロウさんに何事かを告げるために入ってきた様子だったが、彼女は倒れたガンダブロウさんの姿を見るなり、驚愕の表情を浮かべた。


「た…………太刀守殿……!? えっ、えっ? これって……どういう……?」


「サシコちゃん。わたしの……わたしのせいなの……あの時わたしを庇った傷が元でガンダブロウさんは……」


「話は後!サシコちゃん!村雨くんを運ぶのを手伝って!」




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「く……ダメ!全然通じない……」


 マキ姉さんの寝室にガンダブロウさんを移し、回復系の陰陽術を得意とする巫女に治療を依頼したが、ガンダブロウさんに回復の兆候は見られない。


「はあッ、はあッ……」


 ガンダブロウさんの息は荒く、全身から汗が吹き出している。


「太刀守殿……」


 サシコちゃんが今にも泣き出しそうな表情でベッドに横たわるガンダブロウさんを見つめる。


「やはり通常の治療術では効果なし……か」


 様子を見にきた七重お婆さんも心配そうに呟く。識行は精神に作用するから普通の傷や病を治したりする術ではあまり効果は期待できない……と事前に説明を受けてはいたが、藁をもつかむ思いだっただけにやはり落胆は隠せない。


 まったく、神様から授けられた力を地異徒だの最強だのとおだてられても、こういう時には何の役にも立たないのだからお笑い草だ……無敵の異界人が聞いて呆れるわね。


「やっぱり(アヤカシ)化した熊野古道伊勢矢の術はかなり強力なものだったようね。自然に治癒する類いの術ならいいけど……いや、楽観は出来ないわ。それなら…………」


 マキ姉さんが一考してから、これしかないという風に思い至った解決策を口にする。


「…………()()()に行くしか手立てはないか」


「……! ガンダブロウさんを治す方法に心当たりがあるんですか?」


「ええ。ここから南西に馬車で4、5日ほどの距離にあるナムタイ火山の麓……キヌガーという小さな温泉町に万病はおろか六行の術にまで治癒効果があるという温泉があるの。そこで六行による戦傷を負った兵士が回復したという話を聞いた事がある。そこなら……」


「そこならガンダブロウさんは治るんですね!」


「いや、確証があるとまではいかないんだけど……少なくともここにいるよりかは遥かに可能性がある」


 確実ではない。でも少しでも可能性があるなら、試さない手はない。


「…………分かりました。それならすぐに行きましょう!そのキヌガーというところに!」


「ちょっと、慌てないで。行くにしても色々と準備が……」


「ま……待て……」


 その時、ふいにガンダブロウさんの意識が回復する。


「た、太刀守殿!!」


「ダメよ、村雨くん!安静にしてなきゃ!」


 ガンダブロウさんは周りの制止を聞かず体を起こす。


「キヌガーと言ったか…………ウラヴァに行くにはかなり遠回りになるぞ…………い、一刻も早くウラヴァに向かわなければならんのだ……そのような寄り道を……している暇は…………ぐっ!」


 ガンダブロウさんが頭を抑える。


「そんな体で何言ってんの!」


「な……なんのこれしき…………寝たらバッチリよくなった……ぜ!」


 言葉とは裏腹にガンダブロウさんの顔色はむしろさっきよりも悪いくらいだ。無理しているのは誰の目にも明らかである。


「はあ、はあ……それに俺は……これ以上アカネ殿に迷惑を……かけられは……」


 ガンダブロウさんは泣き言ひとつ言わず、気丈に振る舞う。


 本当に責任感の強い人だ。そして、この後に及んでもまだわたしの事を慮る優しさ……こんな立派な人は元の世界にいた時にも会った事はない。だけど……いや、だからこそ……


「ガンダブロウさん!困ります!」


 わたしはガンダブロウさんの献身には答えない。代わりに彼を一喝する。


「わたしはガンダブロウさんがそんな体のままじゃ兄の元には向かいませんし、向かえません! あんな兄の事なんかより、貴方の体の方がよほど大事です!」


 自己犠牲の武士道精神は本当に素晴らしいけど、あたしは自分のためにそんなものを貰っても嬉しくない。


「アカネ殿……俺は……」


「ガンダブロウさんがどうとか関係なく、わたしが嫌なんです!ガンダブロウさんに助けられっぱなしで何もお返しも出来ないまま、またわたしのせいでガンダブロウさんが苦しんでいるなんてとても耐えられない……!だから、どれだけ遠回りしようと、時間がかかろうと関係ない。わたしは何としてでもガンダブロウさんを治します!」


 そう言い放つと、七重婆さんとマキ姉さんも追従してガンダブロウさんをたしなめる。


「ふふふ、ガンダブロウ。女にここまで言わせたんだ。男は素直に甘えるのが甲斐性ってもんさ」


「そうよ、村雨くん。それに今のアンタじゃあ、帝の追手とまともに戦えないでしょ?」


「そ、それはそうだが……しかし……」


「しかし、じゃない!ほんと女々しい男ね!あー、ムカつく!」


 !?


 ……マ、マキ姉さん?


「アンタの心配事は分かってるのよ!俺がいなければアカネ殿を誰が守るんだ~……でしょ?アカネちゃんを守る事が自分の使命だとか思っちゃってるでしょ?ハッキリ言うけどね。献身もそこまで行くとキモいよ!」


「な、何ぃ…………!」


 えぇ……!?


「ちょっと!幼なじみか何か知らないけど太刀守殿になんてこと……」


「はい、アナタは黙ってて!」


 サシコちゃんの抗議を有無を言わせぬ圧で遮る。


「だいたい昔っからそうよね村雨くん。女の子にモテたいくせに変に気取ってさ。頼れるところを見て欲しいのに、あえて口では言わずに、自己犠牲的な態度だけでほら見て、男らしいでしょ、惚れるでしょ?…………ってね(笑)」


 えーと。もうちょっとオブラートに包んで言った方が……いや、わたしも言いたかった事ではあるんだけどね……ウン。


「いやいや、そういうところ見せられても、だから何?って感じなのよ。こっちとしてはさ。言いたい事があるんなら言えば?自分では言わないのが男らしい行動だと思ってるんだろうけど、直接言いたい事も言わずにそういう無言の圧に頼ろうとする魂胆がまず女々しいのよね」


「…………う……ぐぅ」


 辛辣な言葉の数々。仮にも身を挺して戦ってくれた恩人に対して労りの気持ちとかないのだろうか……


「きっといつか自分の優しくて強いところを分かってくる人と巡り合えるとか思ってるでしょ?いやいや、分かってるから、みんな。アナタが女々しいのは。一目瞭然だから。そういうところ見透かされてるからモテないって自覚してるの?ああ、そうそう、昔こういう事があったわね。村雨くんが道場に見学にきた娘さんに……」


「ぐふぁっ…………!!」


 ガンダブロウさん気絶したー!!


「太刀守殿~!!」


「あ、ようやく寝たわね」


 言葉だけで人を失神させるなんて……マキ姉さん、なんて恐ろしいヒトなの……


「さて、これでごちゃごちゃ文句言われなくて済むね。それじゃ早速支度しないと」


「ちょっと待ちなマキ!あんたも行く気かい?」


「……え?ダメ?」


 マキ姉さんは七重お婆さんの指摘にバツが悪そうに答える。


「司教の仕事はどうする気なんだい?アンタは仮にも紅鶴御殿の最高職なんだ。ガンダブロウの事は他の近衛兵に任せて、アンタは……」


「んじゃ、辞めるわ司教」


 唐突に凄い事を言い出す。七重婆さんもそのあまりにも軽い爆弾発言に驚き、次いで顔を真っ赤にして怒りだす。


「辞めるって……アンタ、紅鶴御殿の司教を何だと思ってるんだい!」


「どのみち部屋にこもってやる研究には限界を感じていたところなのよ。それより、村雨くんたちといる方がよっぽど面白い発見がありそうだしね。それに……」


 ふいに肩をグイッとだきよせられる。


「マキ姉さん!?」


「村雨くんじゃないけど私もこのコ気に入っちゃったのよね!だから村雨くんが寝てる間、アカネちゃんの護衛はこの私がやるわ!」



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