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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第42話 薔薇と桜は美しく散る!

前回のあらすじ:熊野古道伊勢矢はこの世界のオーパーツである「拳銃」でマキに撃たれ、ついに切り札である妖怪変化を解禁!紅鶴御殿の戦いは最終局面を迎える!


※一人称視点

マキ→ガンダブロウ



「おおお、オオオオオオオオオォオ!!!!」


 熊野古道伊勢矢の体が黒い霧とともに巨大な妖怪に変容していく!


「な、何なの!?一体……」


 先ほどまでの優男の面影は既になく、そこにいるのは薔薇の花冠の巨大な顔と、蛾のような昆虫の胴体を持つ極めて醜悪な化け物であった。


「うぅ、あれは……御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)(アヤカシ)化……」

「サシコちゃん! 大丈夫なの!?」


 声に振り返ると、気絶から復帰したサシコちゃんがよろよろと立ち上がってきていた。


「ええ、なんとか」


(アヤカシ)化って言ったけど、アイツのあの変わりよう、何か知ってるのね?」


「わたしも良くは分からないんですが……御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)は切り札として自分自身を妖怪の姿に変身させられるんです……前に他の御庭番が変身したのを見たことがあります」


 何ぃ~!?そりゃ聞いてないぞぉ!?


「ギュアアアアアアアァ! ボ、ボクハ……ウツクシイオンナヲ…………コノテ二……」


 身の毛もよだつ咆哮……!ぞっとするわね!どうやら姿形だけでなく、理性も妖になる事で失われたようだ。


「「「 いやあああああああ!!!! 」」」


 町の女たちは妖怪の姿を見て叫び声を上げた。皆取り乱してほうぼうに逃げようとしている。まずい……!ただでさえ、混沌としたこの状況で、これ以上パニックになれば収集がつかないわ!


「待って!!!!」


 アカネちゃんの透き通る大きな声に、皆がぐっとその場に止まる。


「私の結界があるうちはここが一番安全だから! 逃げるなら私がやられてからにした方がいいよ!」


 ふうん、なるほど。異界人だからどうとかじゃなく、彼女には何か人を引き付ける不思議な力があるみたいだ。これは村雨くんが好きになっちゃうのも、頷けるわね……


 って感心してる場合じゃないわね!


「オオ……ウツクシキヒト……ソコニイルノカ……?」


 化け物と化した熊野古道伊勢矢は視線をアカネちゃんに向けると、薔薇のトゲのようなものを無数に発射する。


「ぐっ!」


 トゲは炎の壁に遮られる。が、徐々に炎の勢いは減ってきている。


「はあ、はあ…………ここは、私がなんとかするんだ…………町の人たちを私が守って……はあ、はあ」

 

 アカネちゃん……呪力量が限界に近い中、町の人を庇うためにやせ我慢してるんだ……彼女は長くは持たない。私は妖怪に【稜威の高鞆(イズノタカトモ)】を発砲!命中するも、ダメージを負った様子はなく、振り返って私をギロリと睨めつける。


 【稜威の高鞆(イズノタカトモ)】も通じず、かといって大きな術を使う呪力は私にも残っていない……これは万策尽き果てたわね。


「ウウ……ソノヨウナマメデッポウハモウツウジナイ……ジャマダテスルモノハ……イッキニカタヅケル…………ギュアアアッ!!」


 トゲの連射攻撃……とてもかわしきれない!今度こそ万事休す!眼を瞑り覚悟を決める……


 ……



 …………て、あれ?なんともない?



「…………こいつが熊野古道伊勢矢だな。既に(アヤカシ)化してるという事は戦いも既に佳境という事か」


 この声は……!


「マキ、大丈夫か?」


「ふぅ……大丈夫だけど、もう少し早く来て欲しかったわ」


 真打ちは最後に登場するものだけど……それにしても遅すぎよ!村雨くん!


「太刀守殿ォ~!!!!」

「ガンダブロウさぁん!!!!」



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「マキ、大丈夫か?」


 トゲの攻撃を全て打ち落とし、俺はマキの方を振り返って言った。


「ふぅ……大丈夫だけど、もう少し早く来て欲しかったわ」


 む、助けてやったのに可愛くないやつ……だが……


「太刀守殿ォ~!!!!」

「ガンダブロウさぁん!!!!」


 周りを見渡す。町の人たちを守るために結界を張るアカネ殿に剣を持つサシコの姿。マキも含めて三人ともに満身創痍──どうやら俺ひとりが相当に遅れてしまったのは本当のようだな。


「ギュオオ!! オマエ……クロコノイッテイタ……タチノカミ…………」


 妖と化した熊野古道伊勢矢と対峙。薔薇の花冠の奥のおぞましい眼がこちらを捉えている。


「ああ、そうだ」


 植物の化け物か。ならばちょうどいい。ここは俺とこの草薙剣(クサナギノケン)の出番──と言いたいところだが……


「ふん、随分な有り様だね」


 遅れてきたのは、俺だけじゃない。到着した最後の戦士は混沌の西鶴翼の間を眺めつつ不機嫌そうに言った。


「やれやれ、あたしの城でよくもここまで暴れてくれたもんだね。こんな事なら最初から素直にあたしが出て来てりゃあ良かったよ」


「「「 七重バア!!! 」」」


 七重バアさん!今回は指令官として直接戦いには参加していなかったが、本来は自身で刀を取って闘う事を得意とする根っからの剣士。戦局が終わりに近づいた事を察して、ついに前線に姿を現した。


「オオオッ! ア、アナタハ……ナナエ……サン」


「おや、あたしを知ってるのかい?」


「…………タノム……ボクヲ……ボクヲトメテ……」


「……!!」


 七重バアさんは何かを察したかのように眼を見開く。直後、ズンズンと熊野古道伊勢矢に迫り、六行の力で空中に石剣を精製した!そのまま、投てきし妖怪と化した熊野古道伊勢矢の体を貫く!


「ギュゴッ!」


 これは土行の"凝固重点"の作用で空気中のチリを剣に変えたのだ。七重バアは体の周りに石剣を次々と精製していく。


「お、おいおい!」


「ガンダブロウ。悪いけど、ここはあたし一人でカタをつける……手出しは無用だよ!」


 まったく、血気盛んな婆さんだ。言われなくても手出ししやしない。第一、加勢したくても、七重バアの六行の技は俺が間合いに入れば邪魔になるしな。遅参の汚名返上の機会と思ったが、先を越されたのならまあ仕方ない。ここは紅鶴の鬼兵長に任せるとしよう。


「さあ、大将戦といこうか!」


 七重バアは石剣を容赦なく熊野古道伊勢矢に突き刺していく。


「ギュオオオオオオアアアッ!!」


 熊野古道伊勢矢は石剣を当てられる度に体を身悶え、出鱈目に棘を飛ばす!七重バアにそのような攻撃が当たるはずもなく、あっさりと回避。


「す、すごい…………うっ!」


 七重バアの戦いを見ていたアカネ殿が膝をつく。同時に炎の結界も解除。呪力の力が限界に達したようだが……むっ!いかん!熊野古道伊勢矢の苦し紛れの棘攻撃がアカネ殿の方へ……


「アカネ殿!」


 俺はアカネ殿に駆け寄り、棘を打ち払う…………が、二、三発打ち漏らした棘が肩に刺さる……


「ぐウっ!」


「ガンダブロウさん!?」


「いや、大丈夫。ほんのかすり傷だ。それよりアカネ殿に怪我はないか?」


「はあ、はあ、私はどこにも怪我はありません……でも……」


 アカネ殿は外傷こそないものの、凄まじい疲労具合だ。相当無理をしていたのだな。


「情けないですね……助けがきたと思ったら体の力が抜けて……へへ。でも、何とかこの場は守りきりましたよ」


 無線傀儡をおそらくは倒した後の連戦。いかに無敵の異界人といえど、慣れない戦闘でしかも人を攻撃しないという縛りの中では消耗も激しかった事だろう。なんと殊勝で健気な事か……まったく、楼蘭堂の幹部たちに食い下がられたとはいえ、一番遅れてきてしまった事が我ながら不甲斐ない!


「ギュガアッ……ギュグゥ………ウ………!」


 一方、妖怪化した熊野古道伊勢矢には七重バアの攻撃によって既に12本もの石剣が突き刺さっていた。これでは身動きもまともに取れまい…………勝負あったな。


「ググ……ナ…………ナナエサン……ボク……ハ……」

「…………」


 七重バアさんは、熊野古道伊勢矢が動けなくなった事を確認するとサシコに近付き剣を受けとる。むっ、よく見るとあの剣は天羽々斬(アメノハバキリ)ではないか!何故サシコが持っているんだ!?


「よく頑張ったね……サシコ」


「は、はい!」


「よく見ときな。天羽々斬(アメノハバキリ)の真の使い方をね……」


 七重バアは愛剣である伝説の名刀を構えると、刀身が光を放ち始める。


「………………フォクシム理心流【八重桜(ヤエザクラ)】……」


 七重バアは大きく跳躍し一気に間合いを詰めると、十二本の石剣で拘束された熊野古道伊勢矢を斬りつける!するとすべての石剣が炸裂し、熊野古道伊勢矢の巨体が閃光と共に激しく踊った!


「 "烈石散華(レッセキサンゲ)十三単(ジュウサンヒトエ)の太刀" !!!!」


「ギュゴオオオオオオオオオォおおお……!!!!」


 おぞましい断末魔が人の声へと変わっていく。黒い霧と共に妖化した熊野古道伊勢矢の体がボロボロと崩れていき、後には致命傷を負った人間としての体のみが残った。七重バアは刀を鞘に納めると、数十秒ののち死を迎える彼に近付き哀れむように見下ろした。


「な、七重さん……………………あ、ありがとう……………………女たちを……傷つける前に…………僕を止めてくれて…………」


「…………」


「君は……僕の事など覚えていないだろうが…………僕はかつて……君を…………ごふっ! がはっ!」


「ふん。男の顔なんかいちいち覚えてらんないよ。特に…………()()()()()()()なんかね」


「……な、七重さん!? 僕の事……覚えて…………!?」


 熊野古道伊勢矢は満足そうな顔で「本望だ」と小さく呟いた。


「辞世の句を聞こうか」


「……………………華やかに 激しく生きろと生まれた薔薇は 気高く咲いて 美しく……散る…… 」



 彼は静かに眼を閉じた。この熊野古道伊勢矢(クマノコドウイセヤ)の死によって、楼蘭堂の幹部は今回の侵攻作戦でその全員が討ち倒された。御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)の庇護を失った楼蘭堂の残党はアイズサンドリアより姿を消し、ほどなく壊滅する事になる。


 のちにジャポネシアの歴史年表に小さく刻まれる事になる「紅鶴の戦い」はこうして終結した。しかし、歴史書に一行の記述で終わるその内容とは異なり、記述される事のない様々な事柄がこの事件にはあった。当事者たちはその事を胸に秘め、終わる事のない各々の歴史をこれからも延々と続けていくのである。


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