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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第40話 対決・御庭番十六忍衆③! VS熊野古道伊勢矢(中編)

前回のあらすじ:楼蘭堂の幹部をガンダブロウが圧倒!一方、敵の大将格・熊野古道伊勢矢と戦うマキは一進一退の膠着状態!

状況を打破すべく先に仕掛けたマキであったが……


※一人称視点

マキ→サシコ



 私は背後に飛び退き、熊野古道伊勢矢(クマノコドウイセヤ)との戦闘領域から一気に離れた。


「……おや?」


 畳二十枚ほど離れた所で一旦止まる。これでヤツの攻撃の射程外には来ただろう。


「撤退してくれるなら助かるよ。僕は女性とはなるべく戦いたく無いからね」


 おっと、キザな言い回しね。紳士的なのは素晴らしいけど、私が飛び退いたのは、もちろん逃げる為じゃない。


「うふふ、自分のお庭で逃げたりなんかしないわ」


 私は壁に描かれた鳥の模様に手を当てた。紅鶴御殿の内部の至るところには動物の絵や模様が描かれている。これは装飾の意味もあるのだけど、緊急時には巫女が身を守るため、陰陽術の「触媒」としても使えるよう描かれているのだ。そう──緊急時とはまさに今この様な時の事だ。


建春(けんしゅん)臨む三位(さんみ)の眼…… 宜秋(ぎしゅう)(いろど)る三色紋…… 」


「むっ、これは……!?」


 熊野古道伊勢矢がいると思われる場所一帯があちこち光り始める。「触媒」となった周辺の鳥のレリーフや飾りが詠唱に反応しているのだ。


 退いたのは逃げる為じゃない。広範囲の術を発動させるために術の間合いを取ったのだ。


「 ……建礼(けんれい)秘めて成す三才で 朔平(さくへい)越えて三界を巡れ! 双頭一対、我れに在り! 識行【破麻矢雀(ハマヤスズメ)】!」


 紅鶴御殿の西大回廊に鳥型式神の大群が出現する!その数、実に百三十六体!一体一体の攻撃力はさほど高くはないものの、これだけの範囲攻撃であれば敵の居場所を感知出来ずとも術を当てる事が出来る。平たく言えば、数打ちゃ当たる作戦。まあ、美しい戦い方ではないけれど、これが一番てっとり早いのよね。


「相手の居場所が分からぬなら、当たるまで無差別に攻撃すればいいという訳かい。なんと……なんと大胆な発想! 美貌に加えて、この胆力! ああ、女神さま! そう貴方はまさに女神そのものです!」


 …………この期に及んでまだ女性を誉めちぎる軟派根性は見上げたものね。


「それにこれだけの術を難なく発動する呪力。もしや…………貴方は噂に名高い紅鶴の凶司教・吉備牧蒔(キビノマキマキ)女史か?」


 ええ……? 今まで気づいてなかったの……?

 確かに名乗ってはなかったけど、普通もっと早く勘づくものじゃない?外面はいいけど中々残念な男ね、こいつ……


「今さら気付いても遅いわね! さあ、式神ちゃんたち! その辺り一面に一斉攻撃を仕掛けるのよ!」


 号令をかけると、式神は矢となって一帯を縦横無尽に飛び回った!たとえ結界が張られていたとしても、当たった箇所には必ず空間の歪みが生まれる。その歪みを感知し、そこを更に集中して狙い撃てば、どれほどの結界であっても破る事はそう難しくないだろう。さあ、御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)……この状況、どう動く?


「まったくもって見事な技量! 惚れ惚れするよ! では、僕も……」


 突如、熊野古道伊勢矢が透明化を解除。その姿が視認可能となる。


「本気で行かせてもらうよ!」


 位置は2時の方向、畳二十五枚ほどの距離だ。


 何故姿を現したの!? と疑問が沸く前に私はすかさず【破麻矢雀(ハマヤスズメ)】の攻撃方向をその一点に集中させた。熊野古道伊勢矢は対抗すべく陰陽術の詠唱を開始する。


「 嵐が丘に地が昇り…… 風吹峠に(てん)下りる…… 黒き修羅の()鬼岩(きがん)を穿つ…… 」


 えっ!?

 この術ってまさか………

 

風行(ふうぎょう)曇風庵(ドンフアン)】!!」


 風行の技!?この男……二行使いなの!?


「くっ!」


 熊野古道伊勢矢が扇子をバサッと広げると黒い風がうねりを上げて出現!大きな竜巻を形成して、私の式神たちを次々と吹き飛ばしていく!


 マズイわね……完全に術が力負けしてしまっている。風行の特性は"拡散放射"──全属性の中で最も遠距離での戦いに特化しているし、こと飛び道具の威力に関しては識行の技ではやはり及ばない……


「この僕に風行の技まで使わせるとは。やはり君は素晴らしいよ」


 熊野古道伊勢矢は六行使いでもかなり珍しい二色の属性持ち。しかもよりによって風行とはね。純粋な攻撃術の撃ち合いになれば私は不利。こうなると、間合いを開けてしまった事が悔やまれる。


「ふふふ。でも、どうやら遠間からの陰陽術合戦では僕が少し有利の様だね?」


「ええ、その様ね」


「どうだい? この辺りで降参してはくれないかな?」


「……」


「悪いようにはしない。君たち巫女や近衛兵たちにも、ここに匿われている町の女性たちにも。僕は決して女性がに不幸になるような事はしない。むしろ今後起こる不幸から僕が女性たちを守ると約束しよう」


「それ、信じると思う?」


「信じてもらうしかない。僕は女性が傷つく所は見たくないんだ。もう一度言う……降参してはくれないか?」


 紳士的な立ち振舞いも、ここまで来ると狂気ね。


「…………お断りよ」


 私にはまだ奥の手がある。しかし、まだアレを使うには条件が揃わない。今しばらくは攻撃に耐えつつ、機を伺う必要があるわね。


「そうか。残念だ」


 熊野古道伊勢矢は風の力を纏いながら、ゆっくりとこちらに歩を進め始めた。



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「はあー、みんな大丈夫かなぁ」


 西鶴翼の間。匿われていた町の女性たちは、今この大部屋に避難している。太刀守殿に任された使命──彼女たちの警護を全うすべく、あたしは入り口の扉付近を他の警備兵2名と共に守りを固める。


「ねえ、大砲の音聞こえなくなったねー」

「もう追っ払っちゃったんじゃない?」

「ここの近衛兵は強えーからな~」


 ざわざわと聞こえる声。女性たちはこんな状況でも呑気におしゃべりに興じている。

 もうっ、緊張感がないなぁ……今まさに太刀守殿やアカネさんたちが戦っているというのに気楽なものね。


「あの……今戦況がどうなっているかは分かりますか?」


 いてもたってもいられず、近衛兵のお姉さんに聞いてみる。

 

「さぁ。正門の戦いは優勢のようだけど、他の地点からの報告はまだないねぇ」


 うーん、もどかしいっ!


 本当は私も太刀守殿について戦いに行きたかった!そりゃあ、私の実力じゃ足手まといになるのは分かり切ってるけど……


「安心して。私ら近衛兵はみな六行使いだ。その辺の男たちじゃいくら束になったって相手にならないから」


 六行……実際、六行の技が使えなければ、強敵には歯が立たない。近衛兵のお姉さんたちと違って今の私じゃ六行使いが攻めてくれば全くの戦力外。せめて自分の身だけでも守れるようにと、七重のお婆さんから護身用の刀を授けられた(楼蘭堂に捕まった時に小太刀は取り上げられていたので武器がなかった)けど、果たしてどれだけ役にたつか……


「それにいざとなれば七重隊長や吉備司教もついているよ。あの二人がいる限り、紅鶴御殿は難攻不落さ」


 近衛兵たちが絶対の信頼を寄せる二人。確かにあの二人がただ者でないのは私でも何となく分かる。特に七重お婆さんはあの太刀守殿に指導していた事もあるというお方だし、過去の戦争でも輝かしい戦果があったという。吉備牧蒔(キビノマキマキ)とかいう淫乱女も、信用はできないけど太刀守殿からも実力を認められているようだった。でも、私は御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)の強さも知っている。果たしてそう簡単に行くだろうか。


「もう、そろそろこっから出て町に戻りたいわね」

「ほんとよねー。亭主に店を任せて来てるんだけど、あの人1人じゃ心配なのよ」

「七重隊長、早く楼蘭堂の連中を町から叩き出して欲しいわ~」


 町の人たちからも、紅鶴御殿の警備への全幅の信頼を感じる。敵に攻められているこの状況でここまで気楽に出来るのも彼女たちの強さあっての事。まあ、太刀守殿もついてるし、負けるとは思えないけど、不意討ちとはいえあのアカネさんを術で眠らせたほどのヤツもいる。ここはあたしだけでも集中して……


「ねえねえ、今ここに男が来てるらしいわよ」

「えー! うっそ、やだー!」


 むむ、太刀守殿の事を噂している……?


「何でも七重隊長と吉備司教の古い知り合いなんだとかで……」

「まあ、緊急時の特例らしいけど」

「それで、それで。その男って、男前なのかしら?」

「いや、それが全然なんだって!」

「えー! なーんだ! 期待しちゃって損した!」


 カッチーン!太刀守殿が今まさに戦われている最中だというのに、何て言い種なの!確かに太刀守殿は男前ではないかもしれないけど、凛々しくも独特の可愛らしさがあるというか、何とも言えない深みというか、とにかく推せる良さがあるというか……


 ええい!ダメだ!

 あたしが、太刀守殿の良さを直接説明しなきゃ!と、女たちの方に歩き出した時……


バーーーン!!!!


 轟音とともに壁が崩れ、猛烈な風が部屋に吹き荒れた。



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