第39話 対決・御庭番十六忍衆③! VS熊野古道伊勢矢(前編)
前回のあらすじ:見呼黒子"肆號"をアカネが見事撃破!一方、楼蘭堂幹部たちと戦うガンダブロウは、対太刀守封じの作戦に対し草薙剣を自ら手放し……
※一人称視点
ガンダブロウ→マキ
「な!? 血迷ったか!?」
俺は戦闘の真っ只中で武器を捨てて目を閉じた──周囲を囲む四人の敵は、この思いがけない行動に戸惑う。
「へっ!余裕かましやがって……!」
「罠か?」
「いや、剣さえ持っていなければ例え太刀守といえど…」
「ああ、今しか勝機はない! 行くぞ!」
敵は無防備な俺に対し千載一遇の機と見て仕掛けてくる。だが、浮き足だった為か連携がやや乱れている。
「終わりです!」
「死ねやァ!」
「おおっ!」
「太刀守討ち取ったりィ~!」
目で見ずとも感覚を研ぎ澄ませば十分に分かる。四人の剣はそれぞれ、ほんの刹那の違いで到達時間に差がある。そして、焦りからか彼らの攻撃には四人それぞれの六行の属性が付与されていた。俺はせまる斬撃に対して手をかざす。
「な!?」
一人目の剣を右手で白羽取り…
「ん!?」
二人目の剣を左手で白羽取ると…
「だ!?」
三人目の剣を右手で取った剣で受け…
「と!?」
四人目の剣を左手で取った剣によって防いだ。
「俺を倒すには工夫が足りないな……エドン無外流【逆時雨】──」
さらに、これによって彼らの六行の属性を吸収完了。そして、四人が密集したこの状態は全員を同時に倒すまたとない好機……この瞬間を待っていた!
「 秘剣 " ス ケ こ ま 返 し " !!!! 」
俺は敵の剣を逆利用し、体を独楽のように回転させ呪力の大渦を生み出した。
「「「「 ぐわああああぁ~~!!!! 」」」」
呪力の暴流に飲まれた楼蘭堂の幹部たちは勢いよく吹き飛ばされ、四方の壁や床に叩きつけられた。
「ぐ……うぅ……」
全員まだ息はあるようだ。殊更に手加減した訳ではないが、吸収した呪力が微量であった事から絶命させる程の威力が出なかったのだろう。だが、全員満身創痍には違いなく、既にまともに戦える状態にはなかった。
「運がよかったな」
戦いの中で命を失うのは戦士の宿命──しかし、戦えなくなった者にはトドメは刺してはならない。その一線を越えてしまえば、人間の戦いではなく獣の戦いになってしまう。たとえそれが、復活して再び敵対する可能性のある者であってもだ……と、師匠の受け売りではあるが、俺は未だにその掟を守っている。
「殺さない……のか?」
草薙剣を拾い、腰に差しつつ俺はマキのいる西側へと足を向けた。
「ああ。倒れた者に剣は向けられん」
「ふっ……あまい……な……!」
異国人風の伊達男はよろけながらも立ち上がると、剣をこちらに向け構えを取る。
まさか──御庭番十六忍衆が最後の切り札として使う妖怪化をこいつらも使えるのか!?
一瞬、身構えたが見た目にも呪力量にも変化は見られない。どうやら、こいつらが立ち上がって来るのは勝機を見い出し得た訳ではなく、単に意地と矜持によるものらしかった。
「分かっているだろう? もう、お前らには万に一つも勝ち目はない。拾った命を捨てる様な事をするな」
「ハァハァ……ならば聞こう。逆の立場なら…………お前は剣を……捨てるのか……?」
他の三人も息も絶え絶えながら剣を支柱に立ち上がる。
「太刀守…………店長のとこへは…………い……行かせない……よ!」
かつてキリサキ・カイトと戦い敗れた時の事を思い出す。そうか──こいつらにとっては今が正念場。命を賭けても引けない局面という事か。
「…………」
こいつらは女をさらい、首都の歓楽街で無理やり働かせる事にどうしてこれほどまでに熱意を向けられるのか?命を張る前に何か自分に恥ずべき事はないのか?それとも……何か俺の知らない重大な使命を帯びているとでも言うのか?
沸き上がる疑問と憤り。しかし、俺は溢れそうないくつもの言葉を飲み込み、ただ剣を抜いた。
「分かった。辞世の句の用意はあるな?」
言葉はそれだけで十分。彼らの……いや、彼らに限らず戦場で相対した敵同士、覚悟の上で戦うならば情けは禁物。まして敵の秘めた事情を慮るなど、戦士に対して侮辱でしかない。
「うおおっ!」
すまんな、マキ。救援に向かうのはもうしばらく掛かりそうだ……
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「後ろ!」
見えない場所から発射された鋭利な刃物のようなオトギリソウ。オトギリソウは「敵意」の花言葉をもつ植物──これは結界の隙間を縫うように放たれた熊野古道伊勢矢の攻撃だ。当たれば何かしらの悪意のある効果があるのだろう。まあ、当たんないんだけど。
「またかわしましたね! "弟切手裏剣"をここまでかわされたのは初めてだ!」
回避はしたが、問題は敵の居所。「偽り」の花言葉を持つホオズキの効果で気配どころか姿形までも視認できなくなった熊野古道伊勢矢の居場所はなかなか察知出来ない。
むーう……声が聞こえるほど近くに居るというのに私の感知能力をもってしても大体の位置しか掴ませないとは……これじゃ遠くからは感知できないのは当然ね。
一輪の花を「触媒」に、その花言葉にちなんだ様々な効果の陰陽術を使い分ける技量──チャラついた見た目とは裏腹に、この男の実力は本物だ。
「さすが御庭番に選ばれるだけはあるわね……っと!」
再び放たれた弟切手裏剣とやらを回避!さらに今度は間髪入れず、術が使われた方向に攻撃用の簡易式神【征矢雀】を放つが……
「おっと! 当たらないよ!」
うーん、はずれ……
敵が技を出す瞬間に出る強い害意。それを感知し、術の出所を見切ってかわす事はそう難しくない。ただ、こちらからの攻撃も必ず一拍子遅れてしまうため、敵もまたそれをかわすのは容易い。更にそこから移動されてしまえば、次の攻撃までまた居所が分からなくなる──さっきからこれの繰り返しだ。
これじゃいつまで経ってもラチが空かないわねぇ。
村雨君たちが敵を倒して増援に来るまで時間稼ぎするのも手だけど…………ここはやっぱりアレを試してみるか。




