第37話 三正面作戦!(中編)
前回のあらすじ:三方向から紅鶴御殿を攻める楼蘭堂に対し、それぞれの方向に対処すべくアカネ、ガンダブロウ、マキが出撃する!
※この回は段落ごとに一人称視点がアカネ→ガンダブロウ→マキの順で変わります
「これはこれは……お一人ですか? 異界人のマシタ・アカネさん」
からくり人形が私の姿を認めると、さも知り合いかのようなフレンドリーさで話かけてきた。
「ええっ?キモ……」
私が南側の壁面にたどり着いた時、城郭の一部はすでに穴が空けられていた。しかし、そこから攻め込む兵の姿は見えない。やっぱりこちらはあくまで囮という、吉備さんの読みは当たりね。
「他の二人はどちらです?」
「さあね?」
ふわふわと宙に浮かぶからくり人形は黒子装束に目玉模様の顔布という不気味な出で立ち。姿は前に倒した無線人形とほとんど同じ。私が誰なのかすぐに分かった事から察するに前のやつが見聞きしたデータは人形間で共有されている様だった。
「素っ気ないですねぇ。もしかして私、嫌われてます?」
「好かれる要素何かありましたっけ?」
「ほっほっほ! これは手厳しい! では、汚名返上に遠路はるばる異界からの客人にジャポネシア流のもてなしをして差し上げましょうか!」
いや、別にいらんし。何故か上から目線の鼻につく態度は前のやつと変わらないね……これはノーメンホーシとかいうこいつの主の性格なのかしら?あと異様に楽しそうだけど、何か良いことでもあったの?
「先日は"参號"が大したおもてなしも出来なかったようですが、戦闘用傀儡の私は一味違いますよ!」
やたらとよく喋る人形はマントを開き、腕についた砲門をこちらへと向けた。マントに隠れていた胸の鉄板には「肆」という文字。おそらくこの無線人形たちのナンバリングなのだろう。肆は四番目という事ね。一体全部であと何体いるのかしら?今回のやつが戦闘用で前のやつが偵察用とか言ってたけど、他にも別の機能を持ったやつがいるのかな? 色々気になる事はあるけど……今はのんびり観察してる場合じゃあないわね。
「くらいなさい!」
私は人形の砲撃に対して結界を展開して対抗!
バシュン!
撃たれた砲弾が私の数メートル前で停止し、煙となって霧散する。おお……計算通りとはいえ、目の前に攻撃が来るとやっぱりちょっと怖いわね。
「ほほう! 結界術ですか!」
結界術とは自身の六行の力をバリアーのように展開させる陰陽術の総称──と神様からもらった能力カタログには載っていた。最初はどれほどの防御力があるのか自分でもよく分かっていなかったんだけど、道中、自分の攻撃用の術で実験してみたりガンダブロウさんの剣術で試し斬りしてもらったりで、今はどの程度の攻撃まで防げるのかは把握済みだ。
「流石は異界人を名乗るだけはありますねえ。それならば……」
人形は大砲をこちらに向けて再度砲撃!
うーん、こりないね!何度でも結果は同じ。砲弾は結界に着弾し、煙となって消え…………ない!?
「あれっ?」
砲弾と結界がせめぎ合い、摩擦で火花が弾ける。さっきの砲弾は結界に阻まれてすぐに蒸発したのに……今回の弾をよくよく見るとさっきの砲弾とは形が違う。三角錘型のドリルのような砲弾だ。回転しながら、ぎりぎりと結界を突き破りつつあったが、かろうじて空中で停止してくれた。
「対結界用砲弾も防ぎましたか!ですが今のはギリギリでしたねえ!」
人形が今度は両腕をこちらに向け、続けざまに砲弾を連射する!むむっ、これは……結界だけじゃ受け止めきれないかも!
「さあ! 串刺しにおなりなさい!」
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東側の壁面周辺につくと、すぐに4つの気配を感じた。
「むっ!」
上方向より奇襲攻撃を受ける!
俺は後方に飛び退き4つの剣を回避した。
「お見事!」
「その身のこなし、テメエもしかして太刀守かァ?」
攻撃を仕掛けてきたのはとても敵地に潜入する格好とは思えない派手なナリをした男たち。
「ハン、確認するまでもねえな」
「そうそう、男子禁制のここに男がいたって時点で確定でしょ。トシゾウさんバカなんですか?」
気品漂う落ち着いた優男。
肌黒の野性味溢れる男前。
異国風の目力ある伊達男。
あどけなさの残る美少年。
「あっ!? 何だと!?」
「まあまあ、落ち着いて」
揃いも揃って皆、美形のイイ男たち……こいつらが話に聞いていた楼蘭堂の幹部だな。各々から感じる気配、物腰、呪力などからこの男たちが相当の実力をもってる事が伺える。
が……
「ちっ! こっちに大将首はいないか……」
御庭番十六忍衆の男が東側にはいないとなると当たりはマキの赴いた西側か?
「ふん、不服か?」
異国風の男がこちらを睨む。
「いいや」
六行使いの手練れ四人が相手ならば俺といえど、簡単に勝てる訳ではない。能力も未知数だし、まして"後の先"の剣術を使う俺は本来なら慎重に戦わざるを得ない場面だ。
しかし、戦況がそれを許さない。こちらとしては一刻も早くこいつらを片付けて別方面の援護に向かいたい。特に敵の大将格と当たるマキは心配だ。マキの術士としての実力は相当に高く、御庭番十六忍衆が相手でも易々と負けはしないだろうが……
「悪いが四対一だぜ。確かに熊野古道伊勢矢に比べりゃ役不足かもしんねえが俺らの連携は……」
「役者不足ね?」
「うるせえ、ガキが! 細けえとこを突っ込むな!」
「そうやってすぐ怒る……それに僕の方が大分年上なんだけど?」
ふふ、この太刀守(元)を前にして軽口とは余裕を見せてくれる!こいつらもみな剣士の様だし、ここは実力の違いを見せつけて…………て、え?あの少年いくつなの?
「二人ともお喋りはそのへんで。太刀守も呆れ顔だよ……」
優男が場を仕切ると、こちらに剣を向けて笑みを浮かべる。
「無駄口が多くて失礼。お互い時間もないですし、早速殺り合いましょうか?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
敵が剣を構えつつ四方を取り囲むような陣形になると、俺は草薙剣に手をかけた。
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「美しい」
紅鶴御殿西側、大廊下。白銀のド派手な衣装を身にまとう端正な顔だちの男は、遭遇するなり恍惚の表情で口説き文句を述べ始めた。
「なんて美しい女だ……あなたの様な人が紅鶴御殿にいるなんて……」
「うふふ? そう? ありがとう」
歯の浮くような軟派な台詞。そういえば紅鶴御殿に来る前はいろんな男から同じような事を言われたなぁ。懐かしい。
「お近づきに花を一輪いかがかな?」
男は白いひなげしの花を着物から取り出すと、こちらに投げてよこす。が、花は私の回りに展開した結界ではじかれる。
「おや、僕の思いを受け取ってはくれないかな? 紅鶴の巫女よ」
「そうね~、あまり趣味じゃないのよひなげしも貴方も。熊野古道伊勢矢さん」




