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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第28話 花の貴公子!

前回のあらすじ:息抜きに町を散策するサシコとアカネ。二人は怪しい客引きが声をかけられ、ホストクラブ風の店、楼蘭堂に招きいれられるのであった──



「フゥー↑! 君、カワイーねぇ! イケてるねー! 俺、好きになっちゃったよー!」


「えっと……いや……」


 うす暗い大部屋に怪しい色の灯り。黒く焼けた肌のワイルドな見た目のイケメンが馴れ馴れしくサシコちゃんに絡む。


「貴様、姫に失礼だぞ……ああ、姫。姫はさぞ高貴な生まれの方とお見受けしますが……是非、私に仕えかせて頂けませんか?」


「……えへ。そんな……姫だなんて」


 今度は対照的に紳士然とした王子様風のイケメンが歯の浮くようなセリフを投げ掛ける。


「なあ、サシコって呼んでいいか?」

「無礼だぞ、我が姫に対して……こんな粗忽(そこつ)な男は放っておいて、私とお話しましょう」

「あん!? 俺の女に手ェ出すのか!?」

「貴様に、この方は相応しくない」


 両隣に座る男たちがその様なやり取りをしている間も、サシコちゃんはまんざらでも無さそうな表情を浮かべていた。イケメン二人が自分を取り合うように争う様を眺めるのは、女冥利に尽きるというか……正直、気持ちがいいだろう。


 私たち二人は通りの客引きに促されるまま、楼蘭堂というホストクラブ風の怪しげなお店に招き入れられていた。楼蘭堂は旅の女性をおもてなしする為の店との事で、店長の好意で観光客からはお金を取らないそうだけど……


「お姉ちゃん……」


「えっ!?」


「あっ、ごめんなさい! 生き別れた僕の姉によく似ていて……つい……」


 私よりも年の若そうな美少年。所謂ショタと呼ばれるジャンルに属するのだろう。

 少年は私の座る長椅子の右隣におもむろに腰掛ける。


「あなたを見ると思い出すんです。姉と二人で暮らしていた時のことを……」


「はあ……」


「僕は本当に姉のことが大好きだったんです。今日だけでいいので……お姉ちゃん、と呼んでもいいですか?」


「あらあら」


 母性……というか姉性をくすぐられる。私に弟はいないのでよくは分からないが……

 なるほど、こういうのもあるのか。


「おい、アンタ。その格好……異国の者か?」


「え? ああ、そうね」


「どっから来たんだ?」


「え~と、凄く遠くだね」


「フン、うっとうしいな」


「え!?」


 今度は背の高いぶっちょう面の男が私の左隣に腰掛ける。例によってイケメンだ。タイプとしてはホリが深く、鋭い目つきのハーフ顔である。


「俺も異国の血が混ざってるんだ。お袋が異国人だったからな」


 男はおもむろに自分語りを始める。


「俺は昔はケンカばかりしていた。俺のような異国の顔は目立つからな。チンピラどもによく絡まれた……それでお袋には随分苦労かけたな」


「……はあ」


「女手一つで俺を育ててくれた……そんなお袋も数年前に逝っちまった。楽させてやりたかったのに、その望みは叶わねえまんまだった」


「お、おう」


「だからお前のような異国の女を見るとお袋を思い出しちまうんだ。そして、あの頃の無力だった自分も……」


「……え、ええーと」


「ちっ! 下らねえ事話しちまった! 目障りだからあっちに行けよ!」


 ツンデレ不器用男。悪そうに見えてに悲しい過去から実は母性を求めているタイプの。少女漫画では王道だ。不良と子犬現象というのだろうか……ストレートにキュンとくる。

 ふむふむ、女の子をもてなす為に色んなタイプのイケメンたちを取り揃えている訳ね。これが、ホストクラブか。


 うん、何というか率直に言って……………………悪くないわね。


「あはは、いやー、たまにはこういうのもイイもんだね、サシコちゃん。ガンダブロウさんにはこんなとこ行ってたなんて言えないけど」

「……そうですにぇ~」


 ん? ……サシコちゃん?


「あはは、スゴクいい気分れすぅ~」


 その手に持ってるグラスって、もしかして……


「ひゃはは、イイねえ! サシコ! 最高の飲みっぷりだよ!」

「姫、もう一杯お注ぎしましょうか?」


 お、お酒!?

 こいつら未成年のサシコちゃんにお酒を飲ませたの!?


 男がこういう事をする時の目的はいくら私でも分かる。脳裏にオウマでの牛鬼のゲス顔がよぎる。


「どいてください!」


 私はすぐに立ち上がり、ふらつくサシコちゃんの手を引いて出口に向かった。すると、外で私たちを店に勧誘した客引きが前に立ちふさがる。


「どこ行くんですか?」

「私たちもう帰ります」

「そうは行きません。お支払いがまだですからね」

「支払い!? 外ではタダだって……」

「もちろん、あなた方が飲んだ分はタダです。が、あなた方をもてなす為にウチの男たちが飲んだ分は有料です。お会計は占めてこれくらいになります」


 会計の紙を渡されるも、そこに載っていたのはとても払える金額ではなかった。


「そんな、たったアレだけしか飲んでないのに……」

「フッフッフ、でもあなたもお楽しみになりましたよねぇ。それなら払っていただかないと」


 これが噂に聞くボッタクリ!

 なるほど。夜のお店(まだ昼だけど)は、どこの世界でも同じような仕組みでやっているという事ね。

 社会勉強になる。


「でも、そんなお金がありませんから」

「おや。それなら仕方ありません…………店長!」


 男の呼び声に応じ、店の奥から男が出てくる。


「どうしたんだい、RYOMA(リョーマ)?」

「はい、こちらのお嬢様がたが支払いを拒否しておりまして……」


 金の巻き毛に異様に長いマツゲ。そして整ったビジュアル系の顔立ち。

 店長と呼ばれたド派手な衣装の男は、こちらを値踏みするように眺める。


「それは困りものだ。お金がないのならば……カラダで払ってもらうしかないかな」


 その時、ふいに体から力が抜ける。


「あれ!?」


 隣にいるサシコちゃんが膝から崩れ落ちて、床に倒れる。

 どうやら眠ってしまっているようである。そして、わたしにも猛烈な眠気が……


「こ、これは……? 何か飲ませたの……睡眠薬?」


「いやいや、そんな無粋な事はしないよ。これは陰陽術さ」


 そう言うと店長と呼ばれた男は一輪のひなげしを胸ポケットから取り出し、匂いをかぐようなキザな仕草を見せる。


「白のひなげしの花言葉は『眠り』……」


「一体……どうする……気なの?」


「なに、ちょっと眠ってもらうだけさ。乱暴なことはしやしないよ。なんせこの僕、"ワグマヤの光る君"こと熊野古道伊勢矢(クマノコドウイセヤ)御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)イチの紳士で通っているからね」


 御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)……意識が遠のく瞬間、はっきりとそう聞こえた。



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