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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第27話 惑いの路地!

前回のあらすじ:アイズサンドリアにて、ガンダブロウは一時アカネ・サシコと別行動をとる。ガンダブロウはマガタマ伝説について知見の深い旧友に会うべく、彼女の家へと向かった──

一方アカネとサシコは束の間の休息にと、町に買い物に出るのだが……


※この回は前半はガンダブロウ視点で後半はアカネ視点となっています。


「ふー」


 町の東方のはずれ。黒瓦屋根の屋敷の前で俺は深呼吸する。


「ごめんください! 吉備牧蒔(キビノマキマキ)さんはいらっしゃいますか?」


 我ながら何だか変な言い回しだ。

 しかし、幼なじみとはいえもうお互い5年以上も会っていないのだし、いい歳した大人同士が昔のように「おーい、ガンダブロウだぞー、マキちゃんいるー?」とはいかないだろう。しかも、俺たちは同じ道場で育ったとはいえ特別仲睦まじかったという訳ではなく、俺が兵士見習いとしてエドン公国に仕官した十四の時以来、疎遠になっていたと言っても過言ではない。


 最後に会ったのはオウマで任務につかされる直前だったか……確かあの時にもマガタマの事について話していたなアイツ。


 …………。



 返事がない。


 留守だろうか。


 いや、留守だとしても使用人が出て来るはずだ。

 誰一人家にいないというのは考えにくい……と、考えた時にある可能性に気がついた。


 まさか……アイツどこかに嫁いだのか??

 確かにアイツは俺と同い年だから今年二十六。しかも認めたくはないが容姿も美人と言って差し支えないだろう。結婚していても何らおかしくはないどころか、結婚していると考えた方が至極真っ当だ。


 しかし、アイツのあの性格で嫁にもらう男なんているか?

 いや、というより、アイツが婿と認めるほどの男がいるだろうか?


 それに、もし結婚したなら仮にも幼なじみの俺には連絡があってもいいはずだ。うん、アイツが結婚したなんてありえない、ありえない。


 ジャリ……と背後で砂を踏む音と人の気配。


 …………結婚して家を出た訳でもないのに、家が空の理由。それは何か尋常ならざる事態が起こっているからだ。


「はぁッ!」


 背後から切りかかってきた刺客の小太刀をかわし、更にすれ違い様に足をかける。


「んにゃ!」


 刺客は体勢をくずし、前のめりに転んだ。


「ぐっ……」


「何用だ?」


「お前こそ……マキ(ねえ)様の家で何をしている!」


 刺客は女性。それもかなり若い。サシコと同年代くらいであろうか?一見したところ御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)の尖兵ではないようだが果たして……?


「なに。ちょっと用事があっただけさ。俺はここの家主とは旧い知り合いでね」


「嘘をつくな! お前は楼蘭堂(ろうらんどう)の手先だろ!」


「はぁ?」


「しかもそのナリからして、下っ端……せいぜい小間使いといったところか。そんな雑魚を送られるとは我々も甘く見られたものだな!」


 なんだか知らないが、変な勘違いをされているようだ。

 しかも、とてつもなく舐められている様な気もするし……


「あまり男前でもないしな!」


「んなっ!? ツラは関係ないだろ!!」


 いきなり失礼なやつだ!

 俺はこれでもエドン公国に仕えていた時はそれなりにモテたのだ!同僚のサムライの中では1、2を争う……は言いすぎだが7、8番目くらいには男前だったんだ。確かに戦果の割には手紙を受け取ったり、声をかけられる事はあまり無かった気もするし、明確な恋人がいたかというとそうでもないが……うん、絶対俺はモテてた。全体の10番目くらいにはモテてたはずだ。


 い、いや……今はそんなことより……


「君こそ何者だ? この家の不在と何か関係あるのか?」


「ふん! 白々しい! お前のようなエセ紳士どもはわたしが追い払ってやる!」


 少女は小太刀を握りなおし、再びこちらへと迫る。

 ふうー、やれやれ……


「はっ!」

「……ウッ!?」


 俺は斬撃がせまる前に少女の腕をつかみ、そのまま塀に押しつけた。


「くそ! は、離せ!」


 少女は暴れるが、この体勢になってしまえば腕力の差はいかんともし難く、既に勝負はあったと言えるだろう。


「質問に答えてもらおう……君はいったい何者だ? 何故この家を見張っていた?」


「……殺せ」


「俺はここの家主に会いに来たのだ。マガタマの伝説について話を聞くためだ」


「殺せ! わたしはお前らのような下衆共の言いなりになるくらいなら死を選ぶ!」


 むっ、取り付くシマもなしか……と、その時、少女の腕に鶴の紋様が刻まれているのが見えた。


「キミ……紅鶴(べにつる)御殿の近衛兵か?」


「く……何を今更……」


 紅鶴(べにつる)御殿の近衛兵は女性だけで構成されたエリート兵士だ。神事を司る施設──通称"紅鶴御殿"と呼ばれる聖殿とそこに従事する巫女を守るのが主な任務で、アイズサンドリアでは最上級の畏敬を受ける存在だ。この若さでその地位にいることも驚きだが、一体なんだって彼女が俺を襲ってきたのか……


「そこまでだよ!」


 声のほうを振り向くと長身の老婆が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 なっ!? あの人は──


「久しいね。ガンダブロウ」


「七重バア!?」


「あの娘に会いに来たんだろ? でもちょっと今は立て込んでいてね……」



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「らっしゃい! 何をお求めで?」


 禿げた頭のイカツイ顔の店主にこれまたイカツイ声で話しかけられる。


「え……ええと、今流行りの着物を……」


「女ものの服の事は俺じゃ分からんね」


「ええと……じゃあ、女性の店員さんに聞きたいんですけど……」


 オッサンがこちらをギョロリと睨めつける。


「うちの店に女はいないよ」


「は……はあ……」


 そそくさと店を出る。これで4店目……ううーん……


「この町…………ぜんぜん女の人がいないじゃん!」


 店を出るなり、サシコちゃんがそう叫ぶ。


「確かになんだか話と違う感じねぇ」


 ガンダブロウさんいわく、このアイズサンドリアは女人文化の町というが、どの店に入っても出て来るのはむさ苦しいオジサンだらけ。というか女子受けしそうなお店が並んでいて気付かなかったけど、町中どこを見渡しても若い女性の姿は見当たらなかった。


「さあー! よってらっしゃい見てらっしゃい! 男らしいふんどしが入ったから是非見てってよぉ!」

「今日の見せ物の演目は相撲だぞ~!」

「こっちは筋肉を美しく黒光らせる油剤(オイル)! 今お買い得だよ~!」


 ぐ……むさい!もさい!

 なんか……考えてたのと随分違う…………


「わー! どこもかしこもオッサン、おじさん、お爺さん! こんなの聞いてないっす~!」


 うーん、最近になって町の雰囲気を変わったのかな?

 それにしたって、もうちょっと女の子が喜ぶもてなしがあってもいいと思うんだけどなァ……


「そこ行くお嬢様がた、何かお困りで?」


 振り返ると、そこには派手な装束のお兄さんが立っていた。

 顔立ちはかなりの美形、そして髪は金色にロン毛……ええと、なんというか……ホスト?


「えーと、あのー……」


「旅の方かい? もしかして……このヘンに良いお店がなくて困ってるんじゃないの?」


 テレビで見るようなホスト風の男はサシコちゃんに顔を不必要に近づけながら語りかける。

 免疫が無いのかサシコちゃんが顔を赤らめて視線を落としてしまう。


 ふーん、元の世界でもホストなんて行った事無いけど、こっちの世界でもこういうのあるんだな~。


「よければ僕たちが相談にのるよ。すぐそこにお店があるんだけど、そこでちょっと話していかないかい?」


 男が指差す先を見ると、いかにも派手な看板に「楼蘭堂(ろうらんどう)」と店名が書かれていた。


「俺は困ってる女子がいると放っておけないタチでさ。大丈夫、お金はいらないから……ちょっとおもてなしさせてくれよ」


 うーむ、本来こういう誘いには乗っちゃいけないんだろうけど……異世界のホストというのは凄く興味が引かれる。

 お金もかからないって言うし、面白そうだから少し覗いて行ってみようかしら。


 という訳で他にやる事も無いので、夜のお店というやつにちょっと顔を出してみる事にしたのであった。



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