第26話 女傑の都アイズサンドリア!
前回のあらすじ:サシコの修行は順調!そして、いよいよマガタマの秘密を知る人物のいるアイズサンドリアへ──新たな町で待ち受けるものは果たして何か?
「村雨君! アタシ、陰陽術の才能があるんだって!」
「へー! すげーじゃん!」
「七重のバアちゃんとこで視てもらったの! したら識行って言って、占いとセイシンカンショウ?が得意な属性なんだって、アタシ」
「ふーん! あんまり強くなさそうな属性だな! 俺は剣士を目指してるから、もっと火行とか空行とか強そうな属性がいいなあ!」
「なら、村雨君の属性を調べてあげるよ! バアちゃんとこの巫女さんに属性の調べかたを教わったの」
「ええ! ホント!?」
「ホント、ホント。教えてもらったらすぐ出来るようになったの……アタシ、結構スジがいいんだってさ」
「それならやってくれよ! 俺、はやく師匠みたいなカッコイイ六行の技を使えるようになりたいんだ! だから自分の属性も早めに知っておきたいんだよ!」
「わかったわ。それじゃ、儀式の準備をするからこっちにきて……」
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「……ハッ!!」
目を覚ますとそこは馬車の荷台であった。
「ホラ、これサシコちゃんの写真!」
「ほんとだ! まるで鏡みたい……すごーい!」
荷台の前のほうからは笑い声が聞こえる。
「で、この自動お化粧アプリを使うと……」
「え! あたしの眼が大きく!? え? まつ毛も伸びて……えっ? えっ!?」
御車をつとめるサシコと、その隣に座るアカネ殿は何やらずいぶんと楽しげに話をしているようであった。
「ふふ、面白いでしょ~…………あっ、ガンダブロウさん、起きました~?」
「ん……ああ」
俺としたことが移動中の馬車で眠ってしまっていたようだ。
いつどこから御庭番十六忍者衆の刺客が襲ってくるとも分からないのに……戦場を離れて久しいせいか感覚が鈍っているのだろうか。
しかし……あの女に会うからか?未だにあの時のことを夢で見るなんてな。
「太刀守殿、この"すまほ"の"あぷり"というの、凄く面白いんですよー!」
「お、なんだサシコ。またアカネ殿に"すまほ"の面白い機能を教えてもらっていたのか?」
アカネ殿とサシコは実に仲がいい。最初はサシコがアカネ殿に対して警戒心を持っていた様子であったが、アカネ殿が積極的に話しかけている内にすっかり打ち解け、今では実の姉妹のようである。
「そうだアカネさん! "すまほ"では写真だけではなく動く姿も記録できるんですよね?」
「そうよー」
「それじゃあ、後でアタシが剣を振っている姿を、記録してもらう事ってできませんか?」
「練習に使うのね。もちろん、出来るよ!」
「おおー、やった! それじゃあ、お願いするっスー!」
うっ……なんか入りにくい雰囲気。
アカネ殿とサシコは十代のなかば、それに対して俺は今年二十六……若者二人の会話に割って入ってくのもなんか変な感じがするが……
「なあ、御車を代わろうか? 女人二人、おしゃべりするのなら荷台でゆっくりしたらどうか?」
「あれ? 太刀守殿、会話に入れずスネっちゃってます?」
「はあ!? いや、そうゆうワケでは断じて無く、ただ俺は大人としてだな…」
「ねえ見て!!」
アカネ殿の声で道の先を見やると、薄い霧の向こうにアイズサンドリアの街が見えてきた。
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「このアイズサンドリアは、かつて他国からの侵略をたった一人で防いだ女戦士の伝説から、女人中心の文化が発展した街なんだ」
町につき、通りを歩きながら俺はアイズサンドリアの町についてアカネ殿とサシコに説明した。
「ジャポネシアでは政治や軍事は男の仕事とされているが、このアイズサンドリアだけは例外で、女人たちがそういった仕事の中心にいる」
「へえ!」
アカネ殿が辺りをキョロキョロと見渡す。
町にはこ洒落た着物屋や茶店など女性向けの店が多く点在していた。
「確かに、女子力高い感じの街並みだね」
「うむ。アイズサンドリアは観光地としても有名で、甘味やここでしか買えない着物も女性観光客には人気が高い……って、どうしたサシコ?」
サシコは何故かそわそわと落ち着かない様子でいるようであった。
「いや……アタシみたいな田舎娘がこんなお洒落な町にいていいのかなって……着物もダサくないかなって気になって……だいたいアタシ今お化粧なんてしてないし」
なんとも年頃の娘らしい反応。やはりサシコもそういう事に興味があるのだな。普段剣術に打ち込んだり、大人たちと話している時は少し背伸びをしているのだろう。サシコは本当はこんな過酷な旅に同行せずに年頃の女の子らしい生活を送る方が幸せだったのだろうが……ふーむ……
「なら少し買い物して行くか」
「えっ!? いいんですか!?」
サシコはしばしばと瞬きして、目を丸くする。
「うむ、店の者に流行りの着物でも見繕ってもらったらいい」
「で、でも……旅の路銀を考えたらそんな贅沢は……」
「なーに、それくらいは良かろう」
「おおーっ、ガンダブロウさん太っ腹!」
俺やアカネ殿と違い、旅を完遂したとしてもサシコにはこれといってメリットが無い。まあ、そもそも危険な旅に巻き込んでしまった負い目もあるし……これくらい旅を楽しんでもらってもバチは当たらないだろう。
「あれ? ガンダブロウさんはどこへ?」
「俺は一足先にヤツに会いに行く」
まあ、女子二人の買い物についていっても邪魔なだけだろうしね。
幸いこの町にも手配書の類はなかったし、尾行の気配もない。万が一、キリサキ・カイトの手先が現れても、雑兵や奉行所の官吏くらいならアカネ殿がその気になれば簡単に撃退できるだろうし。
そういう訳で馬車を停めた厩舎の前で合流する約束で二人とは一時別行動をとる事にしたのであった。




