第260話 再びクギへ!
前回のあらすじ:マガタマの力で反乱軍の駐屯地にまで戻されたサシコはマキと共にクギの反乱軍本拠地へと帰還する事となった。
※一人称視点 サシコ
一体いつからこうしているのだろう──
真っ暗な闇の中を貫く一本の細い山道をただ歩いている。歩き始めたばかりのような気もするし、もう何十年と歩き続けているような気もする。道の先には何があるのか分からない。かといって振り返って戻ったとしてどこに帰れるのかも分からない。道から出ようにも道の両端から先はまったくの闇。その先は奈落の底に繫がっているかもしれない。
分かっている事は2つだけ。
この道を歩き始めたのは自分自身という事、そして立ち止まっていても意味がないという事。
ふと道の先に光が見えた。そしてよく見ると光の前に誰かが立っている。しかし、それが誰かは影になっていて分からない。それが誰かを知るにはもっと近くに寄らなければならない。
走る──距離は少しずつ縮まるが、近づくにつれ何故かどんどん足が遅くなっていく。必死に足掻く。今止まってはダメだ。止まってしまえば、きっともう届かなくなってしまう。まるで泥水の中を進むように足が重い。それでも行くしかない。手を伸ばす──あと少し、あとほんの少し──
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「サシコちゃん」
吉備牧薪の声で目が覚める。
陣中に仮設された天幕の隙間から光が煌々と差している。朝──か。連日の疲れが溜まっていたのか、いつの間にか寝入ってしまったのね……
「お疲れの所悪いんだけど、そろそろ出発しましょう」
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「……これから一体どうするんですか?」
クギへの道中、吉備牧薪に尋ねる。
「それを決める為にクギに向かっているのよ」
そっけない答え。
そうだ。
分かってる。今はまだ何かを判断できる段階じゃないって事くらい──
結局、朝になっても駐屯地には誰も戻らなかった。太刀守殿も、アカネさんも、踏越死境軍の連中も。ひょっとしたら朝になれば皆戻り、数多あるの謎や問題がまとめて解決しているかもしれない。どこかで淡い期待を抱いていたが、現実は何も起きない。何も状況は好転しない。いや刻一刻と悪化しているかもしれないが、それすらも分からないという八方ふさがりだ。途方に暮れるとは当にこの事。だからこそ何かを変える為、あるいは何か少しでも知る手がかりを得る為に今は苦しくても目の前のできる事をする。例え、その先に答えがなかったとしても……
「太刀守殿が死んだと思うのですか?」
「……」
「アタシたちが勝手な行動をした事は咎めないんですか?」
「……」
アタシの問いに吉備牧薪は答えない。前を行く彼女の顔は見えないので、どういった感情かは読み取れない。
「……この事を吾妻榛名に相談するのですか?」
「……ええ。一応あの人が反乱軍の最高指導者だしね。総大将が行方不明となれば判断を仰ぐのは当然でしょう。それに……」
「……それに?」
「……いや何でもないわ」
吉備牧薪は何かを言い淀んでやめた。
いつも憎らしいほど飄々とした態度を崩さないこの女でも流石に混乱しているのだろうか。それても他に何か気がかりな事でもあるのだろうか。表面的には至って冷静に見えるけど……
「……でも、なんでアイツも連れて行くんですか?」
後ろを指さす。
アタシたち2人の後方を少し遅れてついてくる赤髪の男は相棒の仕込み槍を両肩に担ぎながら不貞腐れた態度を見せる。
「おい、まだつかねえのか! まだ兄貴たちは一人も戻ってねえし、これからまた砦に攻め込んで戦うつもりだったのによ!」
木下特攻斎こと木下孫悟朗。
正直こいつがあの六行の技が乱れ飛ぶトロイワ砦を突破してここにいるのは奇跡といっていい。いや、そもそも踏越死境軍の連中の無謀な戦闘に何度も同行して生き残っている事から、もはや運だけでない何か凄みのようなものすら感じる。アタシ自身こいつの強運としぶとさのおかげで御庭番十六忍衆との戦闘を辛くも切り抜けられたのだけど……どうも、素直に評価する気にはなれないんだよなあ。
「状況が分かる人間は一人でも多くいた方がいいでしょう」
まあ、そりゃあそうなんだけど……
未だに呪力も六行も全く理解していない孫悟朗の証言がどれくらい役立つのだろうか……
「さあ、そろそろ着くわよ」
視界の先にクギの町が見える。この町の外れにある谷に反乱軍の本拠地がある。まだ、ここを発ってから数日しか経過していないが、何故かとてつもなく久し振りに帰ってきたように感じるわね。
しかし、初めてきた時からそうだけど、思えばここに来る度に何か事態が大きく変化する気がする。しかも大抵が悪い方向に。今回はそうならなければいいのだけれど……




