第24話 狩人たち!(後編)
前回のあらすじ:ヨニズワ村の娘たちが囚われる山賊・煉獄鬼神會の根城に突如カチコミに入ったのはガンダブロウとサシコの二人組!修行と称して山賊狩りに励む二人に山賊の頭にして六行使い・鬼雷坊が立ち塞がる!果たして勝負の行方は──
※今回から通常通りガンダブロウ視点の一人称に戻ります。
「ハッハァ! どうだ驚いたか! 俺様は"空行"の技が使えるのさ!」
山賊の頭……鬼雷坊とかいったか。
得物である蛇腹金棒の放電現象……ふむ、これはからくり機構によるハッタリでは無いな。
「ほぉ……"空行"の電導侵食を応用した技か。山賊風情が意外とやるじゃないか」
まさかこんな所に六行の技を使えるやつがいるとはな。
ハズレだと思っていたが、こうなってくると面白い。
もともとこの山賊狩りはサシコの修行のつもりでやっていたのだが、これなら俺自身の鍛練にもなりそうだ。
「今更驚いても遅いわ! 死ねぇ!」
鬼雷坊が金棒を振り回すと、棒の部分が各節ごとに輪状に分かれ、四方を囲むようにうねる。
えーと……ひい、ふう、みい……全部で16節か。この16節の鉄輪を様々な方位から飛ばすのが、こいつの戦い方のようだな。
「ふー、だが」
そこそこ熟練した技ではあるようだが、ただの16か所からの同時攻撃では俺からすれば少し物足りない。呪力の練りこみも甘いし。
同じ様な攻撃方法を使う伊達の戦い方と比べれば、お世辞にも高度な技量とは言えなかった。
「鬼雷坊とやら……俺を倒すには……」
俺は蛇のように迫る金棒の合間をくぐりつつ、相手の懐へと跳ぶ。
「な、な……!?」
どれだけ周囲を取り囲もうと、相手の攻撃よりも速く動いてしまえば何の意味も無い。
俺は間合いを詰めつつも、金棒の16節すべてに軽く剣で触れていき、呪力の充電を完了させる。
「少し工夫が足りないな!」
「なんだァ!?」
「 秘 剣 " 雷 峰 白 蛇 返 し " !!」
俺は鬼雷坊めがけて剣を振る。
と、草薙剣から稲妻がほとばしり、雷撃とともに鬼雷坊の身体を吹き飛ばす──!
「ぐがああああああぁぁぁ…………!!」
鬼雷坊は勢いよく後方の壁に衝突し、そのまま壁を突き破って山城の外に落下!
直後……ドサッと、頭の巨体が地面に叩きつけられる音が聞こえた。
俺は突き破られた壁から、ひょいと顔を出し外の様子を見る。
山賊の頭は3階ほどの高さから落ち、失神して動かない様子であった。
「いかんなあ、手加減したつもりだったのに……意外と派手に飛んで行ってしまったな」
うーん、剣術自体の腕は衰えていないが呪力の制御についてはまだ本調子じゃないな。まあ元々加減するのは得意な方ではないのだが。
「ガンダブロウさ~~~ん!」
「アカネ殿」
山城の外で待機していたアカネ殿がこちらに手を振っているのが見えた。
「今落っこちてきた人がここのボスですか~~~?」
「ああー! その様だー!」
「そんじゃ、この砦はクリアって事で、ストップウォッチ止めますね! えっと……今回の山賊狩りのタイムは~……デレレレレ、デン! 19分42秒です!」
「おおっ、20分切ったかー! それなら上々だな!」
まったく"すまほ"というのは本当に便利なシロモノだ。
山城に突入する前に、この城を何分で落とせるか外でアカネ殿に時間を計って貰っていたのだが、"すまほ"を使えば寸分、いや寸秒たがわず時間を計測できるというのだから驚きである。
「はあ、はあ……太刀守殿ぉ……こっちもなんとか片付きましたよぉ……」
振り返ると息も絶え絶えながら、サシコが勝利の報告を告げた。
「太刀守殿がおっしゃられた通り、複数と戦う時にも一対一の状況を作って各個撃破するような立ち回りをしたら上手くいきました」
「だろ? サシコもだいぶ戦いのコツが掴めてきたようだな」
うん、うん、サシコもちゃんと成長しているな。ただの山賊相手とはいえ、三対一で勝てるようになったのならば上々だ。これを継続して出来るようになれば、エドン公国の上級兵であるサムライの、まあ、見習いくらいには剣が使えるようになったと言えるだろう。
「よしよし。今回の山賊狩りも重畳であった。それではもうここに用は無いし引き上げると……」
「あ、あの……!」
声の方を見やる。牢に捕らえられた娘たちが不安そうな顔でこちらを見ていた。
「おお、そうだった!」
娘たちがいたのをすっかり忘れていた。事情はよく知らないが、何か理不尽な理由で山賊に連れて来られたに違いない。行き掛かりの事とはいえ、彼女たちを解放して行くのは当然の義務だろう。牢を破壊し、彼女たちを砦の外に誘導するとしよう。
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「本当に有難うございました!」
娘たちを山城の外に開放し終わると、彼女たちからはひとしきり感謝の言葉を受けた。中には村に帰って礼をしたいという者もいたが、こちらとしては彼女たちを助ける事が目的で山賊狩りをした訳では無いのだし、何より旅の途中で先を急いでいる事から好意は丁重にお断りした。
サシコは少しくらい旅の援助を受けてもいいのではないか?と内心思っているのか、やや不満そうな顔であったが、表立っては何も言わなかった。まあ確かに現状潤沢な資金がある訳は無いが、黒石氏からの援助物資もまだ残っているし、今回はかっこつけて気持ち良く去るというのも悪くないだろう。
そうして彼女たちに別れを告げて旅路に戻ろうとしたその時──
「あの!」
一人の少女に呼び止められて振り返る。
「あの……私はヨニズワ村の天童花と言います! こ…………こんな事を頼める立場にないのは分かっているのですが……私たちの村の……用心棒をして頂けないでしょうか?」
「え?」
「キリサキ・カイト陛下が大陸統一を達成なされて、戦乱の世は終わったというのに……未だその事を受け入れられず、平和を乱す輩は後を絶ちません」
……。
「賄賂を渡された役人や兵士たちは力なき我々を守ってはくれません……私たちは……彼らの暴力から身を守る術がないのです……ただ、普通に生活しているだけだというのに……また別の山賊が村にきたら、私たちの運命を簡単に……草花を踏みつけるように、あっけなく蹂躙されてしまうんです……だからっ…」
「俺たちがその平和を乱す輩だとしたらどうする?」
「えっ!?」
「詳しく言えないが俺たちは帝……キリサキ・カイトに弓を弾き、共和国から追われる身なのだ……これ以上俺たちと関われば、山賊以上の災いが君たちに降りかかる事になる」
「そ……そんな……では……では私たちはこれから一体どうすれば……」
少女の顔は絶望に満たされていた。無理も無いことだ。
山賊に拉致され人生を、日常を、安寧の日々を理不尽に破壊されてしまったのだ。元の生活に戻ったとして、外敵の恐怖の無い安息の中で生きる事はもう不可能であろう……しかし。
「備えるしかあるまい」
「え……?」
「山賊だけじゃない。事故や疫病……時に回避出来ぬ災いや不幸も……生きるという事はそれらと向かい合う事だ。戦うか、逃げ出すか……はたまたすべてを受け入れる覚悟を決めるか。いずれにしても備えがなければ生きられないのだ」
「……」
「自分が戦う力を付けるか他の村の者と協力するのか……君たちにできる事が何かは分からないが……備えるためには工夫をするんだ。今の自分に出来る範囲で、少しづつな」
きっと彼女たちに降りかかった事と同じような不幸はこのジャポネシアの至る所で起きているのだろう。それがキリサキ・カイトの行った国家の統一のせいなのかどうかは分からない。
チラリとアカネ殿の顔を見る。同じく彼女の話の聞いていたアカネ殿のその表情からは、何を考えているかは読み取れなかった。しかし、思う所があったであろうことは間違いない。
「……俺から言えるのはそれだけだ」
俺の言葉がどう彼女に伝わったかは分からない。だが、俺の剣で出来る事よりも言葉でできる事の方が大きいと今は無責任に信じるしかなかった。
「あの……あなたたちは一体何者なんです?」
「ただの謀反人さ」




