第257話 絶望のカーテンコール!(中編)
前回のあらすじ:操り人形を使い暗躍していた御庭番の傀儡師・能面法師がついにその姿を現す!
「能面……法師……!! 貴様……が……!!」
能面法師……!!
これまでの旅の道中、幾度も無線傀儡を差し向け裏で暗躍していた御庭番十六忍衆の人形使い……まさか、ここで姿を現すとは……!!
「直接お会いするのははじめて……でもないのですが……くくく。そう。いかにも私が能面法師」
人を小馬鹿にしたような口調は彼が操る無線傀儡……見呼黒子とよく似ている。くくく……なるほどな。ようやく見えてきたぜ……
「…………はあっ!!」
深手を負った身体を無理やり呪力で補強して動かし、能面法師に斬りかかる。
「おおっと! その傷でまだ動けるとは……ほほほ! 流石私がかつて英雄と見込んだ男だけはありますね!」
「……英……雄だと?」
「ええ。当初の計画では貴方こそが主役……このジャポネシアを導く英雄になるはずだったのですよ……と言っても伝わりませんか」
……何を言っているか分からぬが、この男──いや、能面で性別は分からないか──俺が致命傷を受けて虫の息になった姿を嘲る為にわざわざ出てきたと見える。大方【統制者】とやらと組んで明辻先輩の時と同じように俺を利用する策でも企んでいたのだろうが……もはやどうでもいい事だな。
「ぐふ……がはっ!!」
今の切り込みで先ほど受けた傷口から更に鮮血が噴き出す。この身体ではこれ以上攻撃を仕掛ける事は不可能。精神力ではどうにもならぬ真の限界がきたようだな……ふん。せめて最期に一太刀いれてやろうと思ったが、それも叶わぬ……か……
「やれやれ。また俺らには何も告げず勝手に筋書き変更かい」
「……ま、好きにするがええわぃ」
目眩ましで撒こうとしていた膰䳝・猿飛の両御庭番も既にこちらを捕捉し俺の周囲に陣取っている。
これで今度こそ完全な詰み……
もう逃げるどころかまともに動く事すら出来ない俺を仕留めるのは赤子の手を捻る程度の労で出来るだろう。しかし、すぐに攻撃を仕掛けてくる気配はない。裏で指揮を取っていたと思われる能面法師が現場に現れた事は彼らにとっても予想外の事のようだが……
「はあ、はあ……ふ……ふふ……俺とした事が……こんな小細工に騙されちまうとは……な……」
表情もなく目の光すら失って立ち尽くす座鞍に目を移す。その姿からは人間の生気のようなものは感じられない。
「座鞍の姿をした人形……! 悪趣味もいいところ……だぜ……!」
そうだ。
こいつは座鞍の姿によく似せた人形──いや似ているのは姿だけではないか。話し方や仕草すらも完璧に真似ていた。実際その身体に触れても気がつくことは出来ないほどに。想像したくないが、恐らくかなり細部まで作り込まれているのだろう。寒気がするほどの巧緻。まさか俺を騙す為にここまでの細工をしてくるとはな。
「おや、流石に気がついたようですね……くくく。漆號、変身解除」
そう能面法師が言うと、座鞍の姿をしたそれは見る見る内に姿を変え、見慣れた黒装束の無機質な人形の姿になった。
ぬう……これは一体……!?
「彼女は見呼黒子漆號……自由自在に姿形を変える私の最高傑作です」
「ば、馬鹿な……座鞍の姿に似せたのではなくその姿に変身していたというのか……!?」
人の姿に変身できるからくり人形だと!?
なんという事か……今までの黒子人形どもは遠目には分からなくとも近づけば人ならざる者だという事は分かった。しかし、この見呼黒子漆號とやらは完璧に人間に擬態していた。それは識行の幻覚などという次元を遥かに超えた業。このような事が可能であれば密偵、潜入、暗殺、扇動など、あらゆる裏工作をいとも容易く行う事ができるだろう。マガタマによって世界を破壊し尽くす事が可能なほどの力を得た金鹿と同じか、ある意味それ以上に恐ろしい術……はっ!とすると……
「いつから……一体いつから……こいつは座鞍に成り代わっていたのだ……!?」
そうだ。この変身能力によって姿形を座鞍に似せたのは何も今だけとは限らない。
「まさか……まさか最初から……」
思えばあの座鞍が首都を脱出して反乱軍の指導者の1人になり、反乱軍の砦をたまたま訪れた俺の前に現れるなどあまりに都合が良すぎる。明辻先輩の時のように最初から俺の行動を制御する為に差し向けられたと考えると辻褄が合うのだ。
「ええ、その通り。最初から……」
くっ!やはりそうか!
あの時、クギの砦に現れた座鞍は既に人形に……
「8年前に貴方と出会った最初の時から徳川座鞍はこの見呼黒子漆號でしたよ」
……え??




