第254話 運命の女神たち!(前編)
前回のあらすじ:死闘を終え、満身創痍のガンダブロウの前に意外な人物が姿を現す──
※一人称視点 ガンダブロウ→サシコ
最強の好敵手・燕木哲之慎を討ち倒すと高揚感と疲労感と虚無感が一挙に吹き出し身体を包みこんだ。体力も呪力も感情も全てを出し尽くした勝利。満足げな表情を浮かべて事切れた燕木の美しい顔と比べ俺は今どんな表情でいるだろう。
「はあ、はあ…………!」
感傷に浸る暇も身体を休める時間もない。
ここは敵地の真っ只中で、しかも俺は成すべき事をまだ成せてはいないのだ。囚われているアカネ殿は首尾よく解放されただろうか?先刻砦の形までも変形させた技の主──確か膰䳝梵蔵とかいう──とサシコやコジノちゃんは戦闘になっていたのだろうか?彼女たちは無事なのだろうか?
様々な思考が頭を巡る。だが、その思考が次の行動を決定させる前にまたも新たな事態によって俺の判断は制限される事となる。
「やれやれ。ようやく終わりましたか」
ふいに背後から聞こえる女の声──
「誰だ!?」
御庭番の新手……!?
いや、違う……この声は……俺はこの声を知っている!しかし…………しかし、とすれば何故……!?
俺は信じられないという思いと共に、信じがたいその姿を見るために身を翻らせる──そう。あの日、アカネ殿がさらわれて絶望に打ちひしがれた反乱軍の砦と同じように……
「何故……何故貴女がここに!? 座鞍姫っ!?」
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「急がなくちゃ……!!」
アタシはトロイワ砦の中をがむしゃらに駆け抜ける。突然地下からマガタマの力で瞬間移動させられてしまったのと、膰䳝梵蔵によって放たれたと思しき技の影響で砦内部の構造が変形してしまっている事から中々思うように進む事は出来ない。しかし、それでも向かう先は取り急ぎは地下。コジノさんの救援の為、とにもかくにも階下を目指して突き進む。
「おい! はあ、はあ! ちょ、ちょっと、待……はあ、はあ……待てって!」
後ろからかろうじて孫悟朗がついてくる。
正直、もう彼の身を案じている余裕などない。先程の変異によって逃げ出してしまったのか砦の守備兵たちがいる様子もないし、仲間の踏越死境軍を探すなり脱出するなりもう勝手にして欲しいのだけれど……
「……なんで付いてくるのよ?」
「あン!?」
「ついてきて欲しいと頼んだ覚えはないんだけど」
「なんでってそりゃあ……ほれ、お前また捕まるかもしれないだろ? そしたらまた助けてやろうと思ってな。はははっ」
えぇ……さっきはたまたま相手が油断してたから上手くいったけど、手練の六行使いにあんなのは何度も成功しないし、足手まといになる可能性のほうが遥かに高い。ましてこれから向かう先にいるのは御庭番最強とも言われる膰䳝梵蔵……こいつが来ても役に立つ可能性は0に等しい。というか御庭番やそれに準ずる力を持つ六行使い達が入り乱れるこの砦において彼が活躍できる可能性は極めて低いだろう。今まで命があった事じたい奇跡としかいいようがない。
「いや、それはいいから……あ、そうだ。アナタ他にやる事ないならアカネさんを探してくれない?」
「なに!?」
アカネさんが囚われていると言われた牢屋には彼女の姿はなく代わりに亜空路坊が待ち構えていた。という事は恐らくアカネさんは奴によって他の牢屋に移されたのだろう。膰䳝梵蔵ならまだしも六行の実力的には亜空路坊が異界人のアカネさんを抑えておくなど到底出来ないだろうけど、彼は六行を封じる「殺界縛鎖」という黒い荒縄や瞬間移動の力があるマガタマを所持しており、それらを用いてアカネさんの行動を制限していたのだと推理出来る。というかむしろそれらの道具があればこそアカネさんを今まで閉じ込めておけたんだろう。いかに御庭番が強くともあのアカネさんを完全に封じ込めるとなると数人で付きっきりにならないとならないだろうし、ただ一人の為にそこまでの労力をずっと割けるものなのか?と疑問に感じていたが、そういう事ならば合点もいく。
「呉光さんのところで一度見た事があるでしょう。黒い髪で年の頃は16、7くらいの美人。服は変わってなければ少し派手な色合いの異国風で…」
と、そこまで説明したところでハッと気がつく。
「あ、いや見つけたとしても別の御庭番が見張りについているに決まってるか」
そうだ、別の牢屋に移動されたとしても結局そこに別の御庭番かそれに準ずる実力者が見張りに配置されていれば六行の使えぬ孫悟朗ではどうする事もできない。
「しかもマガタマで瞬間移動されたならこの砦の中にいるとは限らないし……いや、でもいるかもしれないなら探す意味はあるかもだけど……」
「おい、なんだ! その女を見つけて見張りがいりゃ、オイラがそいつをぶっ倒せばいいんじゃねーのかよ?」
はあ、それが出来るなら誰も困ってないっての……
「うーん、でも今この状況を打開する手があるとしたらアカネさんを見つけて彼女を頼るしか方法はないし……やっぱりとにかく彼女を探してもらって見張りがいた場合は速やかにその場から去ってアタシに…」
「その必要はないわ!」
ふいに声がする。
「え……あっ!」
振り返るとそこにいたのは……
「アカネさんっ!!!??」




