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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第253話 最期の友誼!

前回のあらすじ:ガンダブロウは最強のライバル燕木哲之慎を死闘の末についに下す!


※一人称視点 燕木


───────────


─────


──



「……ったく、やってられへんわ」



 紅鶴御殿の鬼兵長・新島七重のしごきは噂以上だった。かの有名な戦国七剣に稽古をつけて貰えると聞いてこれは絶好機と思ったがこの調子じゃ身体が持たない。現に他の道場生はほとんどが彼女の指導についていけずに潰れたり逃走したりしてしまった。俺も出来るなら逃げ出したいが、立場的にそういう訳にはいかない。


 エドン公国とダイハーン帝国の戦争で俺は両親と共に捕虜になった。その時、ダイハーンの将軍だった父は一族の助命とエドン国内での安全を保障されるのと引き換えに俺を六行使いのサムライとするため俄門塾へと入塾させるという条件を受け入れた。


 売られた……とは思わない。むしろ六行の才を認められ、捕虜の身でありながら栄達の道が開かれたと思った。だから俺は六行の修行にも人一倍励んできたし、実力で捕虜である身への偏見や蔑みの目を黙らせてきた。舐められるまいと必要以上に孤高を気取り、師匠以外の人間とはろくに口も聞かずにやってきた。だが、それ故弱みを誰にも見せる事もできず、辛いときに誰かに頼る事も出来なくなってしまっていた。自業自得ではあるが、こういう時に苛まれる孤独と閉塞感には本当に心が押しつぶされそうになる。



「はあー、ダイハーンに帰りたい……」



 そう無意識に呟いてしまった事に気付いた時、俺自身限界が近い事を自覚した。やはりもう逃げ出してしまおうか……ふとそう思い立ち衝動的に道場を出て裏手の雑木林をあてもなく歩いていた時。林の中から何やら物音がするのを耳にした。



「だりゃあっ!!」 



 既に夜も深い時間。こんな雑木林の中に人がいるはずなどないと思っていた。星明かりを頼りに木の陰から物音の方をそっと覗くとそこには木刀を持ってボロボロの丸太に打ち込みをする少年の姿があった。



「村雨……」



 村雨岩陀歩郎。六行の基本すら出来ない一番の劣等生でありながら俺に何度も勝負を挑んでくる身の程知らずだ。師匠の温情でこの道場に残っているものの誰にも期待されていないつまはじき者。俺とは別の意味で周囲から白眼視されているが、それでも未だ剣の道を諦めず七重婆さんの特別稽古にも参加していた。正直ヤツは修行には全くついて行けておらず、誰よりもボロボロにされていたはずだがまだこのような秘密特訓をする気力があろうとは……



「せい! おりゃ! うお……あっ!」



 村雨は打ち込んだ衝撃に耐えられず木刀を落としてしまう。もう握力もほとんどないのだろう。



「くっそ! これじゃあダメだ!」 



 再び木刀を握ると闇雲に丸太に打ち込みを再開する。既に太刀筋はヨレヨレで正しい姿勢で打ち込みをする事すらままならない。



「ふっ」



 剣術の筋はいい。隠れた努力の甲斐もあって体力と粘り強さは誰よりもあるかもしれない。

 だが馬鹿なヤツだ。そんな事をしたって六行の技は身につかないし、六行の才がなければどんなに剣の腕があろうと俄門塾ではやっていけないというのに……


 くっくっく。おかしな話だ。

 六行の才能が全くない村雨が六行使いになれるはずもないのに必死に修行に明け暮れ、六行の才能を人一倍持っている俺が途中で投げ出して逃げようとしているなんてな。



「おい」



 俺はふいに木陰から姿を現し村雨に声をかける。



「うわ!? て、ええっ!? 燕木!?」


「隠れてコソコソとくだらない努力をしているようだな」


「な……く、くそ! まさか、よりによってお前に見られちまうとは! これでは秘密特訓の意味が……」



 ……ふっ!まさか今のが俺を倒すための秘密訓練だというのか?六行の技も使えないというのに?

 くくく!とんだお笑い草だ!馬鹿馬鹿しいにも程があるが……



「ふふ!」


「な、なんだよ! 何がおかしいんだ?」



 しかし、俺にはその自分より遥かに弱い男の一見無意味に見えるど根性が何故かたまらく美しく、そして尊いものに感じられた。


 こいつはもしかしたらとんでもない大器なのかもしれない。そして、いつか俺を超え、師匠や七重婆さんをも凌ぐ程の大剣豪になるかも……



「いや、なんでもない。それよりもうその辺にしておけよ。身体がぶっ壊れちまうぞ。明日だって七重婆さんの稽古があるんだからさ」


「ぐ……それはそうだが……ていうか、お前こそなんでこんなとこにいるんだよ!」


「森林浴だ」


「こんな夜中に!? 絶対嘘だろ!!」



──


─────


───────────



「……俺の負けだ。村雨」



 あの夜、俺が感じた直感に狂いはなかった。

 村雨は偉大な剣士となり、最強の武芸者の称号・太刀守を継承するまでに至った。


 いやただ強いだけではない。単純な戦闘力だけならばキリサキ・カイトや御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)の一部の強豪たちにもある。だが、俺が憧れ焦がれ越えたいと思える「武」を持っているのは村雨だけだった。全てを投げうってまで追い求める尊さがあると感じられたのは奴だけだったのだ。



「燕木……」


「そ……そんな顔をするな村雨……俺は……お前と戦えて満足しているのだ……お、俺自身の……武の限界……これ以上ない高みへ来られたと……そう感じているのだからな」



 敗北。無念がない訳では無い。だが、キリサキ・カイトに敗れた時とは違う。俺自身がこの先何十年生きても辿り着けぬ境地へと至り、勝敗よりも尊いものを得られた。自分自身の肉体と魂を最大限昇華させられた。たとえ幻でも命尽きる直前に心の底からそう感じられているのであるから、死の苦痛を差し引いても幸福だと言えるだろう……



「ありがとう……俺の……わ……わがままに付き合ってくれて…………ずっと俺の……目標でいてくれて……あり……がとう……俺の……唯一の……と……友……よ……」



「………………辞世の句を……辞世の句を聞かせてくれ。燕木」



「 闇夜の木々の狭間より 差し込む月の光条は 我が道を照らし 輝かせる 標の紅き灯明なり 」 




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