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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第252話 決着!

前回のあらすじ:ガンダブロウと燕木。最強の武芸者同士の決闘がついに決着の時を向かえる!



「な……!?」



 ほんの僅か、時間にして一秒弱の隙。

 燕木哲之慎という一寸の隙間もない鉄壁にこの蟻の一穴を穿つ事に俺は苦心した。これまでの戦闘経過の大半をこの為に費やしたと言って過言ではない。



「"見えざる……"」



 燕木から奪った技を解除し、その風行の呪力を再利用して自身を瞬間的に加速させる推進力とする。その速度は何度も接近戦を仕掛けては斬り込み、俺の通常の踏み込み間合いと速度に慣れさせた燕木には心理的にも体感的にも想定外のものであったろう。

 無論、六行使い同士の戦闘には絶対はあり得ない。想定を上回る攻撃が来る事など当然の事で、それこそ瞬間移動や時間の停止、幻覚作用により意識外から攻撃される事すら覚悟する心構えが肝要だ。燕木は超一流の武芸者である。戦闘における心構えも既知の情報から対策を構築する分析力も未知の技に即応してみせる柔軟性も完璧であり、ここまでの戦闘でもそれは十二分に発揮してきた。万全の心理状態であればいかに想定外の速度で打ち込もうと奴なら対処できたに違いない。


 しかし、そんな燕木をもってしても──いや人間である以上は誰しもが──必ず隙をさらけだす瞬間がある。特に極限状態で宿敵の奥義を破って勝利を確信したその時には、心構えが揺らぎ油断が垣間見えるものだ。そう信じて俺はこの瞬間を待ち続け、そこに至るために布石を蒔き続けた。


 かくして俺は奴の接近戦対策である"見えざる手"の剣撃もすり抜け、技を発動中の無防備な懐に飛び込み草薙剣を振り抜いた。



「おおおおっ!!」



 速力に風行の呪力を一点集中したため六行による攻撃力付加は剣には行っていなかった。しかし、奴の防御は間に合わず肩から袈裟懸けにまともに斬撃が入る。幾度となく感じてきた人を斬る感触。それは年来の友であり最大の好敵手であるこの男に対してであっても等しく同じ感触であった。



「が……はっ!!」



 燕木を斬った勢いのまま、畳5枚ほどの距離を駆け抜ける。そして、振り向くと燕木もこちらに振り返っており信じられないという表情で血を吐いて得物である槍を床に落とした。



「これは……貴様の弟子の……これを……これをずっと狙っていたのか……?」


「……ああ」



 そうだ。これはサシコの技"蹴速抜足(けはやぬきあし)"──遠間に発射・放出するのに向いた風行の属性を自身の加速に使うというこの型破りな技を俺は風行使いとの戦いに使用できないかと予てから考えていた。

 弟子が師匠の技を使うのは当たり前だが、師匠が弟子の技を使うなど常識的にはありえないし格好もつかないだろう。だが、相手の六行を吸収したり技そのものを奪う俺の『逆時雨』はそもそも邪道中の邪道。どんなに不格好でもどんなに追い詰められても──持てる力も持たない力も全て利用して執念をもって勝利をもぎ取るのが俺の信条であり、かつて道場で何度燕木に負けても食らいついて身につけた不屈の剣なのだ。



「そうか……」



 燕木は満足そうにそう呟くと膝から崩れ落ち、城壁の石畳に手をついた。突っ伏してしまうのをかろうじて止めた形だが、既に槍を拾って戦闘を再開する事はできないだろう。


 決着はついた。


 少なくとも武芸での勝負は──



「ふ、ふふ。村雨……」



 満身創痍の燕木は顔だけを上げてその隻眼で俺の目を見据えた。



「はあ、はあ……」



 俺は草薙剣を握ったまま、立ち尽くす。

 止めは刺さない。いや今は刺しに行けない。呼吸も整わず、呪力も消耗していて素早く動く余裕がないからでもあるが、もう一つ明確な理由がある。


 それは御庭番が追い詰められた時に使う最後の切り札・(アヤカシ)変化を警戒しているからだ。燕木も御庭番である以上あれを使えると考えてまず間違いないだろう。圧倒的な体躯と呪力強化をもたらす強力な術だが、反面理性は失われ、精密な動きや熟練の使い手ならではの戦術も使えなくなるので隙も多くなる。燕木の強みである高度な技巧や思考力がなくなるのであればむしろ弱体化といえるが今は俺も体力・呪力ともにだいぶ消耗している。対して変化した者は人間体時に負った傷が一時的に回復されるので、その状態で今攻められたらひとたまりもないが……



「村雨…………俺は……ぐっ! ぐおおおっ!」



 燕木の身体は煙を上げみるみる内に巨大化。羽毛に覆われた鳥の(アヤカシ)へと変貌していく。


 くそっ……!

 やはり(アヤカシ)変化を使ってきたか!

 となればどうするか……『逆時雨』を十全に使える呪力はまだ回復しない。時間を稼ぎたいところだが所々崩れた砦の外壁は足場が悪く、飛行能力があるであろう奴からどこまでまともに逃げられるか…………と、絶望的な戦況を分析したその時!燕木が落とした槍がひとりでに浮き、俺ではなく(アヤカシ)となった燕木自身へと飛んでいき首の辺りの急所を的確に貫いた!



「グガアッ!!」


 ……え!?

 俺は何もしていないぞ!?

 これは一体どういう事だ!?



「ぐ……うゥ……!!」


 

 致命傷を負った燕木の身体が再び人間へと戻っていく。


 ……そうか。

 そういう事か。

 燕木、お前ってやつは……



「ハァ、ハァ……お、俺は……己が極めし武のみによって……お前を倒したかったのだ……妖の力など……俺には……げほっ、がはっ!!」



「燕木……」



 燕木は俺との決闘には一人の武芸者として挑んだのだ。己が研いた技と力によって好敵手たる俺を超える為に……その戦いには例え自分が勝てるとしても他人から与えられた力は使わない。そう覚悟していたに違いない。だからこそ自分が敗北し、妖に変化しそうになった時には理性を失う前に自身を介錯しようと決めていたのだろう。なんと滑稽なまでの純粋さよ……燕木。どこまでも誇り高き男だ。



「……俺の負けだ。村雨」





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