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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第251話 対決・御庭番十六忍衆⑥! VS燕木哲之慎(結)

前回のあらすじ:『逆時雨』の返し技を封じられ絶対絶命のガンダブロウが起死回生の奥義"凪雨"を放つ!



「なっ……なんだこれは!?」



 燕木は俺が放った技を目の当たりにすると、これまで見せた事がない程に動揺した。



「技が霧散していく……だと!? 馬鹿な!! これではまるで七重婆さんの天羽々切(あめのはばきり)!! 貴様の呪力にはそのような特性があるのか!?」



 俺の返し技以外の唯一の技にして、『逆時雨』の真骨頂・"凪雨(なぎさめ)"。かつて死闘の末に討ち倒した戦国七剣・緋虎青龍斎(ヒドラセイリュウサイ)との決闘以来、実戦では二度目の使用となるこいつは相手の技を無力化するのが目的の技だ。しかし、その効果は天羽々切(あめのはばきり)や奇跡の湯のように六行の効果を無害な呪力に戻すという類のものではない。

 


「いや……違う! 俺の技は消えてはいない! 俺の技は……」



 そうだ、燕木。お前の技は消えていない。



「奪われているのか!!」



 燕木の纏う複雑な風行の気流は少しずつ俺の周囲へと流れていき、逆に俺の身体の周囲で風刃の壁を形成する。

 "凪雨(なぎさめ)"は発動した相手の技をそっくりそのまま奪い取る技である。原理としては単純明快。通常俺が『逆時雨』の返し技を放つ際には身体の周囲に纏った無行の呪力に相手を技を触れさせる──つまりは防御するかギリギリまで引き付けて躱すかの動作を要するのだが、"凪雨(なぎさめ)"はそのような受け身の姿勢ではなく纏っている無行の呪力を周囲に伸ばしていき、相手の技の効果範囲に直接触れて技を吸収する技なのだ。



「……村雨! これがお前の奥の手か!」



 そう。この技が俺の奥の手。真の窮地にしか使わない、エドン無外流『逆時雨』の究極奥義だ。



「フッ! これが無行による六行吸収の真骨頂……これ程恐るべき特性の呪力を持ちながら六行の才が無いなどとはよく言えたものだ! だが!」



 燕木が隻眼を刮目させる。



「お前の技の弱点、見破ったぞ!」



 そう宣言すると同時に燕木から俺の身体の周囲に向かっていた風行の流れがピタリと止まる。



「むぅ……!!」



 く……まさかもう気付いたのか。

 この技のキモが……「呪力の綱引き」だという事に。



「奪われたとはいえ元は俺の呪力によって産み出された技! ならばお前の無行の呪力と俺の呪力が接していれば、こちらから奪い返す事も可能という事だ!」



 ……くっくっく。まさにその通りだ。

 俺の"凪雨(なぎさめ)"は要するに相手の六行を我田引水する技。人の田んぼから水を引くという事は自分の田んぼの水路も相手の水路と繋がるという事。流れを変えれば今度はこちらが水を奪われる。

 考えてみればこれも単純な理屈だが、通常の六行使いの戦闘ではありえないこの状態にいきなり陥って即座にそこに思考を至らせるのは至難の業。この短時間で"凪雨(なぎさめ)"の原理に気づいた天才的な戦闘着想力はただただ脱帽するしかない。



「くっ……ははは! 初見で"凪雨(なぎさめ)"に対応するとは……ちょっとここまでくると笑いが出ちまうぜ…………!」



 燕木はニヤリと笑う。今まで見た中で最高の笑顔だ。


 勝利を確信したか?

 ふふ。そうだ燕木。今この瞬間はお前が圧倒的に有利だ。


 何故ならこの技"凪雨(なぎさめ)"はもう何十秒ともたないからだ。今までの返し技は相手の呪力を再利用する事で俺自身の呪力消費は最小限だったが、この技は違う。俺自身の呪力を大量に消費する。それでも相手の強力な技を完全に奪えれば呪力を消費してもあまりある戦果が得られるが、奪い切る前に途中で気付かれて妨害されてしまえば途端にこの技は効果に見合わない消耗を強いられるいわば奇襲専用の技なのだ。


 俺が奪えた燕木の技は半分にも満たないが、今技を解けば燕木の技に拮抗出来ずに敗北が決定する。だから効率が悪かろうと呪力切れが怖かろうと、それでも呪力の綱引きに勝って少しでも燕木の技を奪うしか残された手はないのだ。俺は呪力を振り絞り、燕木の技を奪う事に最後の望みをかける。そして、燕木も俺のそんな一縷の望みを断つべく全力で応じる。



「「 ウオオオオオオオッ!!!! 」」



 呪力の綱引きは単純な呪力の出力勝負。技術も経験も関係がない。太刀守である俺と、それに比肩する最高峰の武芸者である燕木の勝負を決するのが六行の技でも剣技でもなく、このような形になろうとは……我ながら格好の悪い戦い方をしたものだ。だが、思えばをいつも重要な戦では太刀守などという大層な称号に似つかわしくないこのような泥臭い戦いになる事ばかりだった。泥にまみれ、砂にまみれ、どんな逆境でも雑草のごとくしぶとく戦う。それが俺、村雨岩陀歩郎という男の剣なのだ。



「ぐ……!!」



 徐々に。

 ほんの少しずつ。


 だが、確実に燕木との呪力の綱引きに勝ち、風の流れが俺へと傾いていた。



「はあっ、はあっ……!!」



 正直限界は近い!

 が、あと少し……あと少しでいいのだ!

 十秒か二十秒か……もってくれよ!俺の呪力よ!



「なんという執念か……やはりお前は最強だ、村雨太刀守! しかし!」



 燕木が突如として技を解除!



「ああっ!?」



 俺がこれまでに燕木から奪えた技の割合はおよそ5割。この瞬間に俺が"凪雨"を中止し、燕木側に残された技と激突すれば五分と五分であった。しかし、燕木が技を解除した今この状況では技が残る俺が勝つのは明白。だが……



「風よ再び我が周囲に集れ!」



 むっ!?

 技の再発動だと!?

 "鸞狂無盡界(らんきょうむじんかい)"は奴の奥の手。それも既に大きく呪力を消費していた状態で発動した技だ。再度同じように技を出せるとは思えんが……


 いや……俺が奪えた技が5割程度しかないのだから、再発動はそれを上回る程度の出力でだけで良いと割り切ったのか!その方が俺と呪力の綱引きで技の奪い合いをするよりも合理的だと判断したのだな!確かにこの"鸞狂無盡界(らんきょうむじんかい)"は強力無比な技だが、速攻性のある攻撃技ではなく相手を封じて詰みの状態にしてからじっくり削り倒す技。その効果が発動するまでの猶予という弱点を自分自身が利用し、技を再発動する為の時間に当てるとは……この土壇場にしてこの応変の判断力!見事なり……燕木哲之慎!



「ダイハーン無外流『飛燕翼』……」



「だが…………」



 だが、しかし。


 勝ちを確信したであろう燕木と同じく、この瞬間に俺も勝ちを確信した。何故なら俺は──この決着の瞬間を作り出す為に布石を打ち続けていたのだから。


 俺は満を持して燕木から奪った技を解除した。



「エドン無外流『逆時雨』……

" 秘 剣 ・ 燕 万 年 青(つばめおもと) 返 し "!!!!」


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