第250話 対決・御庭番十六忍衆⑥! VS燕木哲之慎(転)
前回のあらすじ:ガンダブロウVS燕木の決闘もついに最終局面へ!
一人称視点:ガンダブロウ→地備衛
「はああぁぁ……!!」
燕木は大きく跳び上がると風行の力を纏いながら宙空で停止。月を背負いながら槍を優雅に振るい、風が燕木に吸い寄せられる様に空気の流れを作る。
術師が強力な陰陽術を発動させる時の予備動作に近い……明らかに大技を狙っている!
「させるか!!」
本来、後の先を旨とする『逆時雨』の特性上、相手の技が強ければ強いほど逆利用するには都合が良いため、技の発動を阻止する為に自ら進んで危険を侵す事もないのだが、今度ばかりはそうもいかない。燕木はその『逆時雨』の特性を誰よりも熟知した上であえて大技を繰り出しに来ているのだ。これまでの攻防の中で何度も見せたように『逆時雨』を破る為に練り上げられた奥義である事に疑いはない。となれば指を咥えて見ている訳にもいかない!
俺は跳躍して燕木が技を発動させる前に剣撃を叩き込もうとするが、そこに再び"見えざる手"による刀の物理攻撃が飛んでくる。後の先でしか六行の技を出せない俺は当然、一旦は刀を受けるか躱すしか選択肢はない……つまり、これで一手どうしても遅れる。ここまで読んだ上であえて防御がしづらい宙空に跳び上がって技を出したか……見事だ!
「ダイハーン無外流『飛燕翼』……"極義"……!!」
燕木が纏う風がより一層強まり、球体状に乱気流を産み出す!!
「"鸞狂無盡界"!!!!」
身体が燕木を中心に吹き荒れる球状の暴風域に引き寄せられる!これは燕木の飛燕・三段刃の一つ"禽游積嵐巣"と同種の技……いや、違う!
「う……おおおっ!? これは!?」
頬が鋭い風刃で切れ、出血する!
引き寄せる風だけじゃない!引き寄せる、突き放す、断ち斬る、捩じ切る、擦り切る、そして吸収する……燕木の使うそれら全ての性質の風が混沌としているのだ!
「これがお前を倒すために編み出した俺の答えだ!」
「く……!」
先程の"捻渦螺子鴉"と同様に自分の技を自分で吸収して半永久的に風を産み出し続け、俺が『逆時雨』で技を返そうと即座に吸収して倍返しする事が可能……更に引き寄せる呪力は俺が再利用しても相手を引き寄せるだけで、逃げる事も出来ない。またこれだけ複雑かつ多様な風を全て見切るのは不可能で、破るには以前に三蔵寺が"禽游積嵐巣"を解除させた時のように燕木が吸収できる風行以外の技を高出力でぶつけて無理矢理突破するしかないだろう……が、自分の六行の属性を持たず相手の属性を再利用するしかない俺にはそれも出来ない。つまり……
「フッ! どうだ村雨! この技を返す事はお前にも出来ないだろう!」
そう。この技を返す事は俺には不可能。
奴が『逆時雨』を破る為に、恐らくは想像を絶する修行と創意工夫を経て練り上げてきたであろうこの技はまさに極技と呼ぶにふさわしい完璧なものだ。
ここまで完成度の高い技は今まで見たことがない。燕木哲之慎……やはりこの男は凄い。気高い。尊い。これほどの男が俺を倒す為にこれだけ心血を注いでくれた事に感動すらも覚える。
ならば……
「エドン無外流『逆時雨』……」
俺も持てる全ての力を使って答えねばならない!
「無駄だ!! どんな返し技であろうとこの"鸞狂無盡界"は即座に吸収し、新たな乱気流を産み出すだけだ!!」
そうだ。今の俺にはこの技を返す事も破る事も躱す事もできない。だが……一つだけ対抗する手段が俺には残されている。
俺は"鸞狂無盡界"の暴風域に向け静かに草薙剣を突きだした。
「 "凪 雨" 」
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「おおおっ……あれは燕木の技か!?」
螺旋階段塔の壁に空けられた大きな穴から空中を見上げると、猿飛丈弾は驚愕の声を上げた。
「アイツめ、この砦ごと壊す気かい! 俺たちもいるって事を忘れてねぇか……まったく膰䳝といい、滅茶苦茶やりやがる」
現在の御庭番十六忍衆という組織は大陸の統一前後に全国各地から集められた異能戦闘集団と聞いている。同じ目的を共有しているといえど仲間意識は低いようだな。
もっとも、踏越死境軍が言えた事ではないが。
「まあ、膰䳝の奴が砦を変形させた時にできた隙がなきゃ、俺らはアンタに負けてたかもしれないからそこは感謝しなくちゃだが……なあ、猪村とやら」
「……」
死闘の末に倒された俺を見下ろしながら猿飛はそう言った。
「ぜぇ、ぜぇ……この野郎……ようやく動かなくなったな……つって……!」
珍妙な髪型の男は壁に手をつき息も絶え絶えながら恨み節を吐き捨てる。
「3人掛かりでやったってのに……まさか一人殺られちまうとは……不覚だっつって」
「羅蝿、お前もまた生き残るとはなかなかツキがあるじゃねーか、ええ?」
「へへ……運も実力もうちだっ……つって」
その通り。
運のない者が討たれて消えるのは戦場の常識……今の俺のように突如放たれた誰かの技の影響で砦の形が変形し、足場が崩れて機動力を封じられて倒されてしまう様は男が戦場で生き残る事は叶わないのである。むしろ今まで戦場で何度も無謀な戦闘を繰り返してきて生き残れたのは運が良かっただけで、これまでのデカいツケを今払わされたというだけなのかもしれない。
いずれにしても俺の命運は尽き、死が確定した事は間違いない。
「……太刀守と槍守。どちらが……勝ちそうか……?」
「さあな。ここからじゃよく見えんが……気になるのか?」
「……いいや」
地獄の死線を幾度となく往来し、いつも待ちわびてきた今わの際、もう一言二言しか言葉を残せないであろうこの状況でまさかそんな事を口にするとはな……ぬくく、まったく自分でも驚きだ。もっと特別な感情が湧くかとも思ったが、こんなものか。
緋虎師匠や牛鬼の兄貴たちは果たして同じ死の際に何を思ったのだろう……
「バラギ新陰流の……最強を示すことあたわず……しかしてその勇名は……幾百の戦場に刻まれ……幾星霜にも……残るであ……ろ……う……」




