第248話 対決・御庭番十六忍衆⑥! VS燕木哲之慎(起)
前回のあらすじ:ガンダブロウVS燕木の決戦は第二幕を迎える!
「ダイハーン無外流『飛燕翼』……」
燕木は物見塔の上で技の予備動作に入る。俺の物見塔からヤツのいる塔まではおよそ畳14〜15枚(25メートル前後)ほどの距離。こちらから一足飛びでは届かないが、風行使いのヤツにとっては絶好の間合いだ。
「"群翔・飯綱燕"!!」
燕木が槍を振るうと無数のかまいたちが放たれた!
むっ……しかも、透明な刃と呪力を強く纏って目視できる刃が混在しているな!今までの単調な攻撃とは違う、明らかに俺を仕留めにきている複雑な攻め……燕木め、いよいよ本気になったという訳か!
「はっ!!」
俺は物見塔から空中に飛び出し、迫りくる風の刃を回避!
かつ、何発かの風刃はわざとぎりぎりで見切って呪力を吸収する。完全な闇夜では紙一重の見切りは出来なかっただろうが、月が出ていてくれて助かったぜ……
俺は先程の変異で砦から隆起した突起物に着地する。と、すかさず燕木は"飯綱燕"を飛ばし、追撃をかけてくる。俺はそのまま止まることなく、跳躍を繰り返し砦の起伏や物見塔などをムササビのように飛び移りながら燕木との距離を詰めていく。
燕木まではあと畳8枚……7枚……5枚……ここだ!
「エドン無外流『逆時雨』……"秘剣・燕去月返し"!!!!」
俺は燕木の技から吸収した呪力を巨大な風刃にして放つ!
その威力は今まで燕木が飛ばしてきた"飯綱燕"一発のおよそ10倍ほどだ!
「"鶏転冀流"!!」
しかし、燕木はすぐさま例の逆時雨対策の技に移行!
身体に纏う気流によって俺の放った風刃は吸収され、更に威力を上乗せした技に再利用される!
「"轟空・飯綱燕"!!」
燕木の凄まじい風圧を纏った一撃を俺に向けて叩きつけてくる!受け太刀など到底できぬ破壊力!まともに当たれば骨まで粉々になるであろう!
だが、呪力による攻撃である事には変わりはない。再び逆時雨で跳ね返す事も出来るが、ここはあえて……
「むっ?」
ズドン!!
と、0.2秒前まで俺がいた足場が大砲の弾が命中したかのように爆ぜ、砦の城壁を構成していた石材が、大小の破片や粉塵となってあたり一面に弾けた!!
「……ちっ」
俺は噴煙に紛れ、同時に呪力の気配も断つ。
「くだらん真似を」
俺は燕木の視界から消え、俺からもヤツを視認できなくなった。しかし、その気配からヤツの方は大きく移動していないようだ。この様に煙幕された相手は事前に予測していなければ、自分から動くことは中々出来ない。そこを突いて一挙に間合いを詰めて死角から攻撃するか逆に間合いを空けて体勢を整えるかが、次の一手としては常道である……が、燕木ほどの達人にそのような戦法は見え見えだ。
燕木は一瞬の動揺もなく、周囲に気を張り煙に紛れて行動する俺の動きを捉え始めており、俺が背後に回って畳2枚の距離に迫った時にはほぼ完璧に俺の奇襲を察知した。
「そこか!!」
「……ぬうッ!!」
燕木は一部の無駄もない身のこなしで身体を反転。槍の一突きをもって俺の攻撃を制して見せた。
「ふっ……流石だな!」
俺はそれ以上打ち込むことなく、再び間合いを開けた。
遠間からの攻撃が駄目なら接近戦……というのが風行使い対策の基本中の基本である。その為に煙幕や物陰を使って的を絞らせないのも使い古した戦法。燕木に対してはこれが決定的な対策になろうはずもなく、多少の牽制程度にしか効果はなかっただろう。
苦し紛れの時間稼ぎ……と燕木は思うだろうか?
先程技を放った際、どちらかが返せなくなるまで返し技合戦を行うという選択肢もあった。それも悪くはないのだが、実行するなら乾坤一擲。ヤツにトドメを刺すと決めた段階でだ。
今はまだその時じゃない。それよりも、今は燕木にいくつかの攻め手の可能性を考えさせる事が肝要だ。思考させ予想させ読みを使わせる。そして、その上で立てた戦術を外させる。その為の布石だ。
「いいのか? 間合いを開けたら俺を仕留められんぞ?」
燕木はそう言いつつも再び俺に"飯綱燕"を放つ。
俺は城壁を利用するなど最低限の労力で攻撃を回避。先程とは違い、大きく動いて間合いを詰めたりはしない。
「まさか俺の消耗を狙うなんてつまらない作戦じゃないよな?」
挑発。
無論乗らない。
「それとも物陰に隠れてまた近間からの打ち込みを狙っているのか?」
燕木は散発的に技を出しつつ、言葉による探りを入れてくる。恐らく大した意味はないが、この間に奴は奴で次の一手の為の布石を打ってきているのかもしれない。俺がヤツの戦術を予想し、その裏をかこうとしているのと同じようにヤツもまた俺の行動を読んで裏をかくつもりでいるのだ。
どちらの判断が正しいか、戦闘経験と戦闘思考力が試される。俺と燕木。果たして次の一手が実るのはどちらか。
「フフフ! いずれにせよ風行使いの俺との間合いは詰めたかろうな……では、今度はこちらから近づいてやろう」




