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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第247話 変異!

前回のあらすじ:膰䳝が紅孩童子に放った技の影響は砦の各所に伝播していき……


一人称視点:ガンダブロウ→サシコ



「むううっ!?」



 轟音ののち床が隆起し、建物の軸が傾く!

 明らかに六行の技の影響……それも相当な規模だ!



「ちっ、膰䳝(バッドリ)か……!」



 燕木が呟いた膰䳝(バッドリ)という名前……心当たりはないが、それがこの技の主という事であればその実力は並外れている。恐らくはこの砦を守る御庭番の一員なのであろうが、これがコジノちゃんやサシコとの戦闘によって放たれた技であるならば彼女たちは果たして無事でいられるのだろうか……非常に気掛かりではあるが……



「くっ、足場が……!」



 燕木と戦っていた展望台が凄まじい衝撃によって崩落している……いや、というより砦自体の形が変形しているのか。いずれにせよ、このままここに居続ける事は出来ないだろう。


 俺はすぐさま展望台から飛び出し、近くにある手頃な高さの物見塔の屋根に乗り移り、自分が今までいた砦の展望台に目を向ける。



「な、なんだこりゃあ!」



 外から見た砦の全体像は異様なものであった。ねじれ、ひしゃげ、ところどころの壁が不定形に隆起し、失敗した粘土細工のようになっていた。砦に入る前に見た時の形から原型を留めていない。破壊とは異質の作用が働いたのは間違いないが、一体どのような術が使われたのか……



膰䳝梵蔵(バッドリボンゾウ)の技だ。ここまでの規模のは俺も初めて見たが」



 ふと見ると別の物見塔の上に燕木が同じように飛び移っており、改めてこの異常自体を膰䳝(バッドリ)なる使い手の技だと説明した。



膰䳝梵蔵(バッドリボンゾウ)……聞いた事はないが、まだそのような強者がいるとはな」



 手練の六行使いの名前は戦場ではすぐに知れ渡る。容姿や術の全容は分からずとも、凄まじい強さとはそれだけで人の関心を買うものだし、戦乱の世では敵味方それぞれにとって重大な情報なのだ。これほどの術の使い手とあればなおさらであるが、膰䳝梵蔵(バッドリボンゾウ)という名は聞いたことがなかった。金鹿の様に名前を変えたか、はたまた戦国時代後の数年で台頭した実力者か……いずれにせよ、要警戒人物として覚えておく必要がある名前だ。



「仲間が気になるのか?」



 燕木が問う。



「……ああ」



 俺は正直に答える。



「助けに行きたいか?」



 ……燕木は俺と邪魔者なしで戦いたがっていた。

 一瞬、この場は再び水入りとし、一緒に膰䳝(バッドリ)とやらを止めにいってくれる様に燕木に懇願できないかという考えが浮かんだ。が、それは無礼かつ無意味な事だとすぐに考えを改めた。


 奴は俺に対して、雌雄を決する時まで秘匿していたとっておきの技を見せた。見せた以上は、この場で絶対に俺を倒し切る。その覚悟があるという事だ。再び水入りとなればこの技に対する対策を俺が準備する時間が稼げるという事になり、同じ条件での戦いにはならない。故にそもそも奴がこの場で俺を見逃す可能性は低いし、今勝負を中断する事を申し出るのは奴の覚悟も俺自身の矜持もすべて無駄にする行為なのだ。だから俺が今とるべき行動は一つ。

 


「ああ。お前をとっとと片付けて、すぐに救援に向かう事にする」



 その答えに燕木は満足したようにニヤリと笑って見せる。



「第二幕をはじめようか」



≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶

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「こ、これは……!?」



 鞍馬刑部を撃破したのも束の間、今度は砦を揺らす振動……いや、振動だけじゃない!壁がボコボコと脈打つように盛り上がり、床はまるで絨毯を巻き取るように捲れて足場が失われいく!単純な破壊ではない……何者かの放った六行の技の特殊な性質により、このような現象が起こっているのだ!


 何者か──

 衝撃と同時に放たれたビリビリするような呪力の気配は地下方向から感じられた……つまりこの現象は恐らくはあの男膰䳝梵蔵(バッドリボンゾウ)によって起こされたものだ。これがコジノさんに使われた技の余波だとするならば、彼女が相当な危険に晒されているという事になる。


 ……急がなければ!



「ぬおおおおっ!? ななな、なんじゃこりゃあ!?」



 ふと見ると孫悟郎が変形していく床に巻き込まれまいと無様な叫び声を上げて柱にしがみついている。やれやれ。



「掴まりなさい、孫悟郎!!」


「だから孫悟郎じゃねえ! 俺は木下特……うわっ!」



 無駄話をしている時間はない。

 アタシは問答無用で孫悟郎の襟首を引っつかみ、部屋から脱出する。幸か不幸か今の地殻変動?の影響で、床の一部に穴が空いて階下にすぐ向かう事が出来るようになり、地下への道を探す時間が大幅に減らす事ができた。


 正直、これほど桁違いの技を繰り出す相手にはアタシが加勢したとしても勝ち目はないかもしれない。鞍馬形部戦の消耗もあるし、足手まといもいる。いや、そもそも既にコジノさんは敗れて死んでしまっているかもしれない。そうなればアタシが救援に向かうことは完全に無駄なばかりか、身を呈してアタシを先に行かせてくれた彼女の心意気が無意味になってしまうかもしれない。それならいっそこの混乱に乗じてアカネさんを探し出す事を優先すべきではないだろうか。


 ううん。それでも……



「コジノさん、今行きます!」



 やはりアタシにはあの人を見捨てる事はできない!


 アカネさんには悪いけど、不確かな可能性にかけるより今目の前で起こっている仲間の危機を救いたい。逆の立場でもアカネさんならきっとそうするし許してくれるはず。だから……これでいいですよね?太刀守殿。



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