第244話 強者番付!
前回のあらすじ:燕木とガンダブロウの決闘は地下からの衝撃によって中座する。果たして砦の地下では何が起こっているのか……?
「……ほお。今のでまだ倒れんのか」
何度目かの金棒の痛撃を耐えたのち、膰䳝梵蔵は感心した様子を見せた。
「ハァ、ハァ……!!」
御庭番最強の男・膰䳝梵蔵……サシコちゃんを先に行かせて一対一の戦闘になったが……はっきり言って格が違いすぎる!
「本気を出してはいない。が、かといって手心も加えていない…………わっはっは! 若いのによく鍛えとるのぉ、小娘!」
防戦一方でまるで歯が立たない。まるで師匠との稽古……いやそれ以上の差。
金鹿との戦いで御庭番最上位級がいかに化け物じみた強さかは分かっていたつもりだったけど、この膰䳝梵蔵の強さは金鹿と比べても更に底が知れない。
でも、弱点もある。
膰䳝梵蔵は金鹿がそうであったように、絶対的強者特有の精神的な隙がある。つまり相手に対してはじめから本気で戦おうとしないのだ。仮に膰䳝梵蔵が本気を出していたとすればウチはとっくのとうに殺されているはず。でも、今のところヤツは呪力を恐らくは半分以下の出力に抑えており、本気を出す気配はない。そこに付け入る余地があるかもしれん。
「だが、流石にそろそろ限界じゃろう。次の一撃でトドメを……」
「限界? ふふふ……そう、そろそろ限界……! 限界まで充填が完了したばい!」
「……なに?」
攻撃を受けても傷があっという間に塞がる異常な回復力……考えられるのは治癒系の陰陽術だ。無詠唱でこれ程完全な術を使うのはキリサキ・カイトやマシタ・アカネすらも恐らくは出来ない芸当だが、半妖化した金鹿が似たような事をしていたのを見た事があるし、複雑な条件が揃えば不可能ではないのだろう。
とするならば対処する方法は2つ。1つは相手の呪力が尽きるのを待つ方法だが、銀色の「玉視」を両眼に持つ膰䳝の呪力は底が知れず持久戦は得策ではない。必然、選択すべきはもう1つの方法……回復する間を与えないほどの強力な技を叩き込み、一撃で仕留めきるという手段になる。
そして、ウチには戦国七剣・三池乱十郎を一撃で仕留めた技がある。
「ハクオカ無外流『天獅哮』!! "千尋・破崘炎舞"!!」
切れば切るほどに威力を増す"破崘炎舞"……これを今のウチの呪力で高められる最大まで貯めて放てばその破壊力は計り知れないものとなる……くらえ!
「ぬおおおっ!?」
斬撃とともに放たれた獅子の形状の炎が、膰䳝の巨体を飲み込む!一撃で即死させるに充分な火力!
「はあああっ!!」
技は正面からまともに入った!これならば如何に御庭番最強格の相手とはいえひとたまりもないはず!
ウチを楽勝の相手と見てダラダラと戦闘を長引かせた事が仇に…………て、え!?
「ぬゥーン!!!!」
爆炎に焼かれ身体の表層が炭化しながらも膰䳝は金棒を振りかざし横薙ぎの打撃を放って見せる!
「な!?」
回避しようとするが、大技の直後で体勢が整っていない!
なんとか身を捻って急所への直撃だけは避けるが、金棒は腹部に命中し、勢いよく横に吹っ飛ばされる!
「ぐは!!」
壁に叩きつけられると、衝撃が身体中を貫く!
「うっ……はあっ……!!」
半妖化によって防御力が上がっていなければ骨も内蔵もぐちゃぐちゃになっていただろう一撃……かろうじて致命傷は避けたが膝を付き、その場にへたり込む。
受けた攻撃による痛みも相当だがそれ以上に絶望感に打ちひしがれる。"千尋・破崘炎舞"は現時点でウチに出せる最強の攻撃手段。それが通じなかった今、ウチが単独で膰䳝を倒す手段はもうない。
であれば後はもう援軍を頼るしかないのだけど……サシコちゃんがマシタ・アカネの囚われる牢に向かってから既にどれくらい時間が過ぎただろうか。少なくとも10分、いや20分は経過している。それでも彼女が戻らないという事は、彼女の方でも何かがあったのだ。であれば当初想定していた時間稼ぎしつつ援軍を待つ戦法も期待薄……万策が尽きたというやつばい。
「……かァ!! 今のはなかなか良かったぞ!!」
膰䳝の傷は既にほとんど修復されており、攻撃をモロに受けて動けないウチを仕留めるには今が絶好機。しかし、膰䳝は強者の余裕を未だ崩すことなく、再び与太話をしてくる。
「剣術の腕、玉視、半妖の力……6、5……いや3。3枚目だな」
……3枚目??
「ワシは今まで戦った相手を全て覚えていてな。その中でワシ自身も含めた番付を作るのが趣味なんじゃよ。六行使いだけでも300人以上と戦ったが……その中でお主の序列は前頭3枚目。概ね上位20人には入る強さじゃ。いや、その若さでこの番付につけるとは驚きじゃ。胸を張ってよいぞ」
独特の強さの判定基準を揚揚と膰䳝が語る。
「……そりゃあ光栄な事ばい」
強さの格付けが済んだという事はもう勝負はついたという事。力の差は歴然。どうやらウチはここまでのようや……師匠。すみません。お父さん、お母さん、累さん……今そちらに向かいます。
そう覚悟を決めて目を閉じる……と、その時!
「火行【天道球】!!」
「水行【泳弾杓子】!!」
ふいに背後から陰陽術が発射され、膰䳝に直撃する!
「ああっ!? 今度はなんじゃあ!?」
例によって膰䳝が受けた傷がすぐさま修復し、何事もなかったように術の発動者の方を睨む。
「ありゃっ!? すぐに傷が塞がった!?」
「フェフェフェ! こりゃとんでもないバケモノがいたもんじゃ!」
踏越死境軍!
そうか……まだこいつらがいたか!犬叉たちを撃破した後、膰䳝の放つ強烈な呪力に惹かれてやってきたようやね!
今の攻撃はウチを助けた訳じゃなく単に圧倒的強者の膰䳝と戦いたいが為に奴を狙っただけだろうけど……またほんの少しだけコイツを倒す可能性が出てきたね!
「今日は来客が多い。しかもまた相当の手練れと見たぞ」
膰䳝は金棒を肩にとんと乗せるとニヤリと笑い彼らに向き直る。
「うわははっ! 面白い! お前らの番付がどんなもんか、試してやろうではないか!」




