第240話 対決・御庭番十六忍衆⑤! VS鞍馬刑部(後編)
前回のあらすじ:追い詰められたサシコは起死回生の大技を試みる!
※一人称視点 サシコ
四方から帯電した鉄輪が自動追尾で迫りくる絶対絶命の状況!この状況を打開する為、イチかバチかの大技に賭けてみる!
「すぅー……」
クギ湿原の戦いでは間近に、アラール川の戦いでは遠巻きに。2度見ただけではあるけど、元々アタシの得意な風行の技……完全でなくてもいい。でも、ある程度形にするだけならば、今のアタシにはきっと出来るはず!
「……"禽游積嵐巣"!!!!」
剣に風行の力を目一杯溜めて天井方向へと突き上げる!そして、自分の身体を中心に風行の竜巻を発生させ、風圧の壁で迫りくる攻撃を撃ち落としていく!
「な!? これは燕木哲之慎の……!?」
迫りくる鉄輪を風に巻き込むと鉄輪と鎖で繋がれていた鞍馬刑部も竜巻に引き寄せられ、暴風を受けて天井に打ち上げられる。
「ぬぐおおおおおおおおっ!!!!」
鞍馬刑部は身につけていた武器・防具のほとんどを突風で剥がされた上天井に叩きつけられると血反吐を吐いて地面に落下!かなりの傷を負わせる事に成功した……が、アタシの"禽游積嵐巣"は見様見真似。本来であれば相手を吹き飛ばすのでなく風行の鋭い刃で斬撃を与える技なのだけど、今のアタシでは技にそこまでの効果を付与する事はできなかった。
「ハァ……ハァ……」
技を解除し膝をつく。
何とか窮地は脱したけど慣れない技を使ったのと一気に呪力を放出した疲労感は相当なものだ。
「ごほっ……がはっ!」
一方、鞍馬刑部も武器を失い満身創痍。
今畳み掛ければきっと勝てる……けど、こっちも呼吸を整えなければ次の攻撃を仕掛けられない。お互いが動けないまま戦いの中にあって計らずも小休止の時間が生まれる。
「ハァ……ま……まさかあの燕木の技すら模倣するとは……」
数秒後に先に動き出したのは鞍馬刑部の方だった。
「まさしく天才……私などには到底届き得ぬ……神に選ばれし者を……討つには……私ごときがいくら足掻いても……」
しかし、意識は朦朧としており、うわ言のように己を卑下する言葉を繰り返す。彼の深層心理に根付くある種の劣等感は戦闘開始前からその言動の節々に表れていたけど……ボロボロに追い詰められたこの状況でも精神を奮い立たせて立ち上がったのは、天才に負けたくないという意地によるものなのだろうか。
「……いや! それでも! どれだけ才能に差があろうと! 私は……ここで負ける訳にはいかんのだ! おおおおっ!」
そう叫ぶと鞍馬刑部の身体から煙が吹き出し、異形の姿に変質!それと同時に呪力量も一気にハネ上がっていく!
ついに来たわね!
御庭番十六忍衆の、妖変化!
己の身体を妖に変容させる事によりそれまで身体に受けた傷を修復すると同時に、身体機能・呪力ともに大幅に増加させる最後の切り札!反面、人間の知性はなくなり、戦術や戦闘技術が失われてしまう為、行動が単調になるという大きな欠点があるのだけれど…………
「ふううぅぅ……!!」
えっ!?
顔は狸のような獣に変わったけれど体型はほぼそのままで、巨大化もしない……
これはコジノさんと同じ半妖化!?
御庭番が使う妖化は術を施した金鹿の策略で理性を保ったまま力の底上げをする半妖化に対応できていなかったはずじゃなかったっけ!?
「これで元々貧弱な我が呪力も、一流の六行使いと同程度にはなっただろう……更に!!」
鞍馬刑部は背中に両手を伸ばし、左右にの手それぞれ異なる武器を装備した。
「濤褸の槌!! 絶臼の斧!! この創世記時代の武器には使用者の空行の力を最大限に引き上げる効果がある!!」
斧と槌……それぞれが禍々しい呪力を自ら発しており、半妖化によって上昇した鞍馬刑部の呪力と合わせるとその総量は燕木哲之慎や金鹿馬北斎にも匹敵するように感じられた。
なるほど。これが鞍馬刑部の奥の手という訳ね。
「小細工は無しだ!! 私の出せる最大出力の力で貴様を正面から打ち破って見せよう!!」
そう言って鞍馬刑部は斧と槌を十字に交差させると、武器に呪力が集中して緑と紫の稲光を放ち始める。空行は六行の全属性の中で最強の破壊力を持つ属性。その空行の呪力を更に一点集中させる事でとてつもない威力の大技を繰り出すつもりだろう。
真正面から受けるのは危険……攻撃は上手くやり過ごして大技の後に必ず生まれる隙をついて反撃するのが勝算の高い戦法だろう。それは分かっている……分かっているけど……
「フゥー……ハァー!」
アタシは大きく息を吸い、呼吸を整える。
そして刀を構え、真っ向から突進してくるであろう鞍馬刑部を迎え撃つ体勢を整える。
……我ながら馬鹿だという事はよく分かってる。これは真剣の勝負。相手の技を正面から受ける必要などない。だけど、持てる力の全てを持って挑戦してくる相手に対して、アタシも全身全霊の技で応えたくなったのだ。これが剣士の性なのか、アタシ自身の甘い性格のせいかは分からない。でも、太刀守殿もきっと同じようにしたに違いないのだ。何故だか分からないけど、そういう確信めいた思いがあった。
「……ふっ!」
そして、アタシのその思いは鞍馬刑部にも伝わったようで、技の準備が整うとこちらを見てニヤリと笑ってみせた。
「では、行くぞ!! 宮元住蔵子!!」
恐らくは最後の攻防!
こちらも出し惜しみをするつもりはない!
「勝負ッ!!」
アタシは最大限の呪力を刀に込めて大地を蹴った。




